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低欲望社会 「大志なき時代」の新・国富論
 [社会・政治・時事]

低欲望社会  「大志なき時代」の新・国富論

大前研一/著
出版社名 : 小学館
出版年月 : 2015年4月
ISBNコード : 978-4-09-379871-6
税込価格 : 1,620円
頁数・縦 : 285p・19cm
 
 
■「低欲望社会」は悪なのか?
 いまの日本に蔓延する「低欲望社会」にどう生きるか、「低欲望社会」となった日本をどう切り盛りしていくかという発想ではなく、「低欲望社会」からの脱却がテーマのようである。日本は発展を続けなければならない、そのためには移民も受け入れて人口を増やすと同時にもっとグローバル化しなければならない、という主張がされている。言うなれば、著者は成長原理の信奉者であり、経済至上主義者であるようだ。
 しかし、現在の環境問題、目指すべき低炭素社会を鑑みたとき、「低欲望社会」からの脱却がこれからの人類社会の方向性なのであろうか? 私はそうは思わない。70億人すべてが経済発展を目指したなら、地球は破綻してしまうかもしれない。「低欲望社会」こそ、今後の世界の主流にしていかなければならないのではないだろうか?
 食料を輸入で賄い、不要になった農地を転用して有効活用すべきであると説くが、むしろ食糧は自給自足が原則と考えるべきだろう。モノの移動(輸送)によるエネルギー消費を低減することこそ、今後の課題である。水が豊富で農耕に適した日本は、もっと食料を生産すべきだ。そして、生産規模に見合った人口に収斂していくことが、将来的に理想の姿ではないだろうか。自給自足が可能な人口でやっていける体制を築くことを模索していくべきである。これは、日本だけでなく、世界全般に当てはまることでもある。
 とは言え、氏の提唱するJDB(ジャパニーズ・データベース)などの合理化策には納得である。現在推進中のマイナンバー制のような中途半端な制度ではなく、共通の国民データベースを構築し、各省庁から地方自治体までがデータを共有し、活用する仕組みである。それにより、別個で進められてきたデジタル化やサーバー構築にかかる費用を大幅に削減できる。「低欲望社会」を実現するためにも、無駄を省き、効率的でよりよい政治の実現は必要だ。

【目次】
第1章 現状分析―「人口減少+低欲望社会」の衝撃
 ピケティ『21世紀の資本』をどう読むか
 「田園調布」が普通の街になる理由
  ほか
第2章 政府の限界―「アベノミクス・ショック」に備えよ
 すでに政策は出し尽くした感がある
 「第1の矢」はチキンゲーム状態
  ほか
第3章 新・経済対策―「心理経済学」で考える成長戦略
 あまりにお粗末な規制改革会議
 都心大規模再開発プロジェクトを
  ほか
第4章 統治機構改革―今こそ「国の仕組み」を変える
 今日の閉塞は予言されていた
 自民党主導の“超肥満体”国家の末路
  ほか

【著者】
大前 研一 (オオマエ ケンイチ)
 1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、72年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。以後、世界の大企業やアジア・太平洋における国家レベルのアドバイザーとして幅広く活躍。ビジネス・ブレークスルー(BBT)代表取締役、BBT大学学長などを務め、日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

【抜書】
●貧富の差(p35)
〔 このように、マクロ経済の指標ではなくミクロ経済の視点から実際の世の中を観察すると、日本の格差はそれほど拡大していないことがわかる。それどころか、私は日本は世界で最も公平で富の集中が少ない国、言い換えれば世界で“最も社会主義化した資本主義国”だと思う。だから資産家に対して累進課税で高税を課すべきだというピケティ教授の主張は、全く当てはまらないと考えている。〕

●低欲望社会(p100)
 〔日本経済の根本的な問題は「低欲望社会」にある。個人は1600兆円の金融資産、企業は320兆円の内部留保を持っているのに、それを全く使おうとしないのである。そういう国は、未だかつて世界に例がない。貸出金利が1%を下回っても借りる人がいない。史上最低の1%台の35年固定金利でも住宅ローンを申請する人が増えていない。世界が経験したことのない経済なのだ。したがって、金融政策や財政出動によって景気を刺激するという20世紀のマクロ経済学の処方箋は、いまの日本には通用しなくなっている。このことをクルーグマン氏や、アメリカの経済学説の“輸入学者”である浜田氏らは全く理解していないのである。〕

●時価の3%(p134)
 機関投資家が額面や利益(配当性向)ではなく、「時価に」対する配当を要求するようになった。
 「時価の3%」がグローバル・スタンダードなってきている。

●オランダ農業(p210)
 国土面積は日本の九州と同等で、人口は1,686万人。約10兆円で、米国に次ぐ世界第2位の農業輸出国。日本は約4,000万円。
 1986年に、スペインとポルトガルがECに加盟し、無関税で安価な農作物が入ってくるようになり、競争力の低いオランダの農民は窮地に立たされた。「選択と集中」で施設園芸にフォーカス。農業を農民中心に考えず、「産業」と捉えて地域別に農地と生産品目を集約するなどの改革を断行、付加価値の高い「クオリティ農業」にシフト。
 ジャガイモ、花卉類は世界第1位。トマトはメキシコについで世界第2位。
 農業の競争力を強化するための三つのシフト。
 (1) 自由化……農業保護をやめ、農業・自然・食品安全省(日本の農水省)を解体し、経済省に統合。農業部、酪農部、水産部という三つの部局にした。
 (2) 選択と集中……付加価値の高い施設園芸にフォーカス、農地を集約。トマト、パプリカ、キュウリの3品目で栽培面積の8割を占め、農業の経営体数を15,700社(1980年)から7,100社(2010年)に半減。
 (3) イノベーション……ITを活用したスマートアグリを展開。ワーヘニング大学を中核とした「フードバレー」と呼ばれる農業と食品の産業クラスタ(集団)を形成し、多様な研究・事業化プログラムを推進。フードバレーには、食品関連企業約1,400社、科学関連企業約70社、研究者約1万人が集まる。日本からもキッコーマン、日本水産、サントリーなどが進出。
 加工貿易、中継貿易(輸入したものをそのまま輸出)、エクスチェンジ(海外で生産したものを顧客に直接発送)でも稼いでいる。

●JDB(p260)
 ジャパニーズ・データベース(JDB)……一人ひとりの国民が生まれてから死ぬまで、国家と関わるすべての情報を集約。
 誕生から死去までの「時間軸」と、活動を記録する「アクティビティ軸(活動領域軸)」の2次元で構成。
 各省庁、地方自治体すべてで共有して利用する。

●エストニア(p268)
 エストニア……45,000平方km(日本の約九分の一)、約131万人(岩手県と匹敵)。エストニア人69%、ロシア人26%、ウクライナ人2%。
 eガバメント(電子政府)……各行政機関がバラバラに持っていたDBを連携させる「X-road」というシステムをインターネット上に構築。国民にICチップ入りのIDカードを配布(所持率90%。非所持者はロシア系に多い)。現在は、IDのチップを格納したSIMカード入りのスマートフォンも利用できる。
 銀行口座の取引まで国がすべて把握、税金は自動計算され、企業も個人も納税申告をする必要がない。税理士や会計士が不要になり、これらの職業が消滅。
 ・電子内閣……閣議の議題をネット上にアップ、事前に合意できるものはネット上で決裁。審議の内容や経過を、国民がネット上で直接見ることができる。2000年に導入。
 ・電子投票……IDカード、IDチップ入りスマートフォンで投票できる。2005年に地方選挙で、2007年には国会議員選挙で導入。
 ・電子納税申告……最低5回のクリックで完了。還付金の振込みも3~5営業日で完了。国民の95%が利用。
 ・電子警察……交通違反などの職務質問時、国民DBにアクセスして運転者の情報を照会できる。
 ・電子健康管理……電子カルテシステムで、既往歴や診断結果を統合・保管。「電子処方箋」もある。
 ・電子教育……「電子学校」(生徒の成績、宿題、出欠を集積)と「電子学習」(教師が自分でカスタマイズした教材を提供)がある。
 ・電子駐車場管理……駐車スペース不足が予想される場合、適宜、料金を変更して一極集中を防ぐ。駐車場の検索や料金の支払いがスマートフォンでできる。
 eネーション……海外に移住したエストニア人でも、希望すれば国民IDカードを発行、e行政サービスをすべて受けられる。130万人の人口を1,000万人に拡大する目標。 ⇒ ロシアによる再征服への備え。

●同質性社会(p280)
 島国である日本は、同質性社会になりやすい。刺激が少なく、進取の精神に富んだ人間を生みにくくなる。「内向き・下向き・後ろ向き」な若者が増える。競争のない一人っ子の増加がそれを助長。 ⇒ 低欲望社会
 〔同質的で内向きな社会は、その中に閉じこもっている分には居心地が良い。だが、次第に幼稚化し、人間として退化していく。そうやって一人一人の目線が下がっていけば、必然的に社会や国家もまた弱体化せざるを得ない。そして、ある日突然、居心地が良かったはずの“ゆりかご”は、”墓場”へと変貌するだろう。いわゆる「茹でガエル現象」だ。
 それに対して、異能の人材がどんどん集まるような社会は、刺激に満ちて、向上心が個人のモチベーションを支えるようになる。端的に言えば、フィリピン人の家政婦が日常にいることが当たり前になり、子育ても彼女たちに一部を担ってもらうような社会になれば、日本でもバイリンガルの子供がどんどん増えていくだろう。そうして育った子供たちは、いとも簡単に国境を越え、世界中で活躍するようになるに違いない。〕

(2015/7/5)KG

〈この本の詳細〉


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