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最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く
 [自然科学]

最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く

ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー/著 櫻井祐子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2016年11月
ISBNコード:978-4-16-390559-4
税込価格:1,782円
頁数・縦:300p、図版12p・20cm


 大学院博士課程在学中の研究者による、氷河期=後期旧石器時代の洞窟などの遺跡に残された「芸術作品」に関する考察。特に、抽象的な図形に着目し、それらのデータベースを構築中である。それは文字なのか、単なる落書きなのか、それともシャーマンの幻覚なのか?

【目次】
古の人類が残した記号
何のために印をつけたのか?
人類のはるか以前に道具を使った者たち
死者をいたむ気持ちの芽生え
言葉はいつ生まれたのか?
音楽の始まり
半人半獣像とヴィーナス像
農耕以前に布を織っていた
洞窟壁画をいかに描いたか?
欧州大陸に到達以前から描いていた
唯一の人物画
遠く離れた洞窟に残される共通の記号
それは文字なのか?
一万六千年前の女性の首飾りに残された記号群
壁画は野外にも残されていた
最古の地図か?
トランス状態で見える図形なのか?
データベースを世界の遺跡に広げる

【著者】
ボン・ペッツィンガー,ジェネビーブ (von Petzinger, Genevieve)
 古人類学者。カナダ・ビクトリア大学人類学博士課程在学中の研究者。これまで、顧みられていなかった氷河期の洞窟に残された記号に注目し、カメラマンの夫とともにもぐって採取。欧州の368カ所の洞窟を調べ上げ、5000以上の記号を収集し、世界で初めて氷河期における幾何学記号のデータベースを作りあげた。ナショナル・ジオグラフィックの『2016年・新世代の探求者』(Emerging Explorer)に選出。「ナショナル・ジオグラフィック」誌や「ニュー・サイエンティスト」誌をはじめとするメディアからも注目を集めている。

櫻井 祐子 (サクライ ユウコ)
 翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中の96年、オックスフォード大学で経営学の修士号を取得。98年よりフリーの翻訳者として活躍。

【抜書】
●12万年前の芸術作品(p12)
 20万年前に現生人類が現れたが、現代に通じる人間の精神の創造性(=芸術)を十全に活用するようになったのは、いつか?
 現代的思考の兆しがかすかに見え始めるのは、12万年前のアフリカ。彫刻が施された骨や、赤いオーカー(赤鉄鉱)や首飾りが入れられた墓などが散見される。
 10万年前以降になると、幾何学模様(線、格子型、山形など)が刻まれたポータブルアート(持ち運びできる芸術品)が現れ始める。
 5万年前、岩壁画や小像、首飾り、複雑な埋葬、楽器が大量に出現し始める。
 これらの芸術的慣習のすべてが、10万年以上前に話し言葉が完成していたという通説を裏付けている。

●ツインリバーズのオーカー粉(p42)
 ザンビアのツインリバーズという丘の上の洞窟。30~26万年前の遺跡に、オーカーを粉末にした跡が残されている。現生人類以前の遺跡。
 オーカーは、酸化鉄を主成分とする石。洞窟の壁に塗る赤色をはじめとする塗料を作るのに用いられる無機顔料。
 オーカーの粉は、道具などの接着剤、虫除け、皮なめし、止血などの治療用としても使われる。
 ツインリバーズの住人は、真っ赤なオーカーのとれる鉱床に頻繁に通っていた。日常利用ではなく、象徴的表現のためにオーカーを使っていた可能性がある。

●ベレハット・ラムの小像(p43)
 イスラエル北部のゴラン高原地域にある死火山のクレーターの近くで見つかった、23万年前の遺跡。
 長さ4cm未満の火山岩の「小像」が出土。人の形に似た石に、3本の溝が掘られている。1本は首のくびれ、2本は腕を模したU字型。「乳房」を強調するために道具で彫られたと考えられる跡もある。肉感的な女性のようなオブジェとなっている。
 世界最古の具象的な芸術作品?

●ブロンボス洞窟の絵の具セット(p69)
 南アフリカの西ケープ州の荒涼とした吹きさらしの丘の斜面にある。現生人類が10万年~7万年前ごろまで居住していた。海岸線から800mほど離れていたが、海洋資源を積極的に利用していた。
 ブロンボスで、10万年前の二つの「絵の具セット」が発見された。顔料を調合するためのアワビの貝殻、赤いオーカーと、骨粉を加熱して抽出した骨髄油、炭の粉、石英粒、石片、など。これらの原料に水や尿などの液体を混ぜて顔料が作られた。貝殻の内側には水面の高さを示す「水位標」が何本か付いていた。
 オーカーを砕くのに使われた石と、出来上がった化合物を物や体などに塗るのに使われた赤く染まった骨が、貝殻のすぐそばで発見された。
 オーカーの最も近い産地は、2.4kmから4.8kmは離れていた。
 ほかの生活遺物が見つかっていないので、短期滞在者だった可能性が高い。
 複数の幾何学的模様の付いたオーカーのかけらも発見されている。抽象模様の付いた最古の芸術品? しかし、単純すぎて、意図的につけられたものかどうか不明。

●ディープクルーフのダチョウの卵(p78)
 南アフリカの西ケープ州ケープタウンの北にあるディープクルーフ岩陰遺跡。
 8万5000~5万2000年前の地層で、模様が刻まれたダチョウの卵殻の破片が発見された。この幾何学模様は、どう見ても意図的に付けられたもの。これまでに400片以上が出土している。
 たった5種類のデザインとわずかなバリエーションが、3万年以上の間使われていた。模様は、意図的に標準化されていたと思われる。世代を超えて模様を伝えていた。

●エル・カスティージョ洞窟(p145)
 世界最古の岩壁画。紅茶の受け皿ほどの大きさの赤い円盤状の壁画。少なくとも4万800年前。

●後期旧石器時代の4区分(p149)
 ヨーロッパの氷河期(後期旧石器時代)は、以下の4つに区分される。
 オーリニャック期……4万年~2万8000年前。エル・カスティージョの赤い円盤、ドイツのホーレンシュタイン・シュターデルのライオンマンは約4万年前。3万7000~3万5000年前の最古のフルート(骨製、象牙製)、フランスのショーヴェ洞窟遺跡、など。
 グラヴェット期……2万8000~2万2000年前。後期旧石器時代の黄金期。石器製作の技術が大幅に進歩。入念な埋葬行為。象徴的な芸術作品が多く生み出される。ロックアートよりもポータブルアートのほうがよく知られる。ドルニ・ヴィエストニッツェ遺跡。気候変動により、グラヴェット期の終期にヨーロッパ北西部から南方への人類大移動が始まった。
 ソリュートレ期……2万2000~1万7000年前。最終氷期最盛期(LGM)。さまざまな集団の密集化により集団間の交流が密になり、氷河期末期の「芸術の爆発」と社会の複雑化が引き起こされた。岩絵遺跡は集会所や儀式の会場となり、この時期の社会の統合に役立った。複雑な線刻画が特徴。
 マドレーヌ期……1万7000~1万1000年前。人類が再びヨーロッパ全域に拡散。現在知られている岩絵遺跡のうち約75%がこの時期のもの。

●アッダウラ洞窟(p171)
 シチリア島ペッレグリーノ山の1万3000~1万2000年前の遺跡。17人の人間が描かれた線刻画。人物の大きさは平均すると20cm程度。写実的で躍動感にあふれている。
 チュニジアと200km。北アフリカの影響を受けているかもしれない。

●ゲシュヴィント領域(p198)
 脳の領域。頭頂葉にある。側頭葉のウェルニッケ野の近くにある。
 文字言語であれ音声言語であれ、頭に入ってきた言葉の理解とふるい分けを司る。

●文字の定義(p206)
〔 文字体系を定義する方法はいろいろあるが、最も基本的なところでいうと、「耐久性のある面に書かれた、視覚的で慣習化された記号を利用する、相互コミュニケーションのシステム」である。〕

●トランス状態(p273)
 最近の神経心理学研究によると、トランス状態にあるシャーマンのように「意識変容状態」にある人には、一定の抽象図形が見える。
 網目、ジグザグ、点、渦巻き、懸垂曲線(紐の両端を持って垂らしたときにできる曲線)などの幾何学形状をとり、光り輝き、点滅し、移動し、回転し、拡大するパターンとして認識される。
 トランス状態に陥ると眼圧が高くなり、網膜内の細胞が発火して幾何学的な模様が見える。どんな文化的背景を持っている人でも同様。

(2017/4/17)KG

〈この本の詳細〉


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