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人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 (上)(下)
 [自然科学]

人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病
ダニエル・E・リーバーマン/著 塩原通緒/訳
出版社名 : 早川書房
(上)
出版年月 : 2015年9月
ISBNコード : 978-4-15-209565-7
税込価格 : 2,376円
頁数・縦 : 332p・20cm

人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病

(下)
出版年月 : 2015年9月
ISBNコード : 978-4-15-209566-4
税込価格 : 2,376円
頁数・縦 : 349p・20cm



 進化と現代生活のあいだに起きているミスマッチ病に関して、600万年間の人類史から論証。
 つまり、人類の進化は、まだ現代の文明生活に適応していない。数十万年(数百万年?)をかけて、狩猟採集民として適用するための進化であった。

【目次】
(上)
 第1章 序論―人間は何に適応しているのか

第1部 サルとヒト
 第2章 直立する類人猿―私たちはいかにして二足歩行者となったか
 第3章 食事しだい―アウストラロピテクスはいかにして私たちを果実離れさせたか
 第4章 最初の狩猟採集民―現生人類に近いホモ属の身体はいかにして進化したか
 第5章 氷河期のエネルギー―私たちはいかにして大きな脳と、ゆっくり成長する大きな太った身体を進化させたか
 第6章 きわめて文化的な種―現生人類はいかにして脳と筋肉の組み合わせで世界中に棲みついたか

第2部 農業と産業革命
 第7章 進歩とミスマッチとディスエボリューション―旧石器時代の身体のままで旧石器時代後の世界に生きていると‐良きにつけ悪しきにつけ‐どうなるか
(下)
 第8章 失われた楽園?―農民となったことのありがたさと愚かさ
 第9章 モダン・タイムス、モダン・ボディ―産業化時代の人間の健康のパラドックス

第3部 現在、そして未来
 第10章 過剰の悪循環―なぜエネルギーを摂りすぎると病気になるのか
 第11章 廃用性の病―なぜ使わないとなくなってしまうのか
 第12章 新しさと快適さの隠れた危険―なぜ日常的なイノベーションが有害なのか
 第13章 本当の適者生存―人間の身体にとってのよりよい未来を切り開くため、進化の論理はどのように役立てられるのか

【著者】
リーバーマン,ダニエル・E. (Lieberman, Daniel E.)
 ハーバード大学人類進化生物学教授、同大エドウィン・M・ラーナー21世記念生物学教授。“ネイチャー”“サイエンス”誌を初めとする専門誌に100以上の論文を寄稿。ヒトの頭部と「走る能力」の進化を専門とし、靴を履かずに走る「裸足への回帰」を提唱、「裸足の教授」と呼ばれる。

塩原 通緒 (シオバラ ミチオ)
 翻訳家。立教大学文学部英米文学科卒業。

【抜書】
(上)
●人類5段階の変化(p39)
 第1の変化……最初の人間の祖先が類人猿から分岐して、直立した二足歩行になった。
 第2の変化……この最初の祖先の子孫であるアウストラロピテクスが、主食の果実以外のさまざまな食物を採集して食べるための適応を進化させた。
 第3の変化……約二〇〇万年前、最古のヒト属のメンバーが、現生人類に近い(完全にではないが)身体と、それまでよりわずかに大きい脳を進化させ、その利点により最初の狩猟採集民となった。初期ホモ属。
 第4の変化……旧人類の狩猟採集民が繁栄し、旧世界のほとんどの地域に拡散するにつれ、さらに大きな脳と、従来より大きくて成長に時間のかかる身体を進化させた。
 第5の変化……現生人類が、言語、文化、協力という特殊な能力を進化させ、その利点によって急速に地球全体に拡散し、地球上で唯一生き残ったヒトの種となった。

●LCA(p51)
 LCA(last common ancestor)……人類と類人猿の最終共通祖先。

●サヘラントロプス・チャデンシス(p56)
 サヘラントロプス・チャデンシス……現時点で最古とみなされている人類の種。2001年、ミッシェル・ブリュネ率いるフランスチームによって、チャドのサハラ砂漠南部の砂の下で、ほぼ完全な頭蓋骨、何本かの歯、顎の断片、その他の骨が発見された。720~600万年前。トゥーマイ(現地語で「生命の希望」という意)。

●アルディピテクス・ラミダス(p58)
 アルディピテクス・ラミダス……450~430万年前。「アルディ」と名づけられた女性の全身骨格が発見されている。

●腰椎(p77)
 腰椎の数……チンパンジーの約半数は3個。残りの半数が4個。ごくまれに、遺伝的変異のおかげで5個の腰椎を持つ個体がいる。
 ヒトは、5個の腰椎を持つ。女性ではそのうち3個が楔形、男性では2個が楔形。S字型の湾曲をつくる。

●アウストラロピテクス(p83)
 アウストラロピテクスは、400~100万年前にアフリカに住んでいた。10種ほど確認されている。
 ルーシーは、320万年前にエチオピアに暮らしていた、アウストラロピテクス・アファレンシス。華奢型。

●ホモ・エレクトス(p114)
 ホモ・エレクトスは、約190万年前にまずアフリカで進化し、その後、アフリカから旧世界全体にあっという間に散らばった。
 180万年前までにジョージアのコーカサス山脈に、160万年前までにインドネシアと中国に現れる。アジアでは、ほんの数十万年前まで生息していた。

●持久狩猟(p133)
 著者が、同僚のデヴィッド・キャリアー、デニス・ブランブルとともに提唱。
 人間の二つの特徴を利用。①四足動物なら速歩(トロット)から襲歩(ギャロップ)へと切り替えなくてはならないぐらいのスピードで長距離を走れる。②さらに、走っている人間は発汗作用により体温を下げられる。
 四足動物は、浅速呼吸(あえぐように息をすること)によって体温を下げるが、ギャロップ中はそれができない。人間は、自分たちより足の速い動物たちを猛暑の中で長時間のギャロップに追い込み、体温を限界以上に上昇させ、倒れたところで仕留める。

●腸と脳(p144)
 ヒトは、脳を大きくする代わりに、腸を小さくした。
 どちらも、成長と維持に膨大なエネルギーを必要とする組織。どちらも重量1kgあまり。それぞれ消費する単位質量あたりのエネルギーはほぼ同量。ともに身体の基礎代謝の約15%を使用し、酸素や燃料の運搬と老廃物の除去のために同量の血液供給を必要とする。
 腸には、約1億もの神経がある。脊髄や末梢神経系全体にある神経の数より多い。
 人間と同じくらいの体重の哺乳類の大半は、脳の大きさが人間の五分の一、腸の長さが人間の2倍。
 レズリー・アイエロとピーター・ホイーラーは、人間独特の脳と腸の大きさの比率が、最初の狩猟採集民の登場とともに始まった、一大エネルギー転換の結果だと提唱。初期ホモ属は、食事を良質なものに切り替えることによって大きな腸を大きな脳と交換した。食事に肉を取り入れ、食料加工への依存度を高めることによって、消化に費やすエネルギーを節約し、余ったエネルギーを大きな脳の成長と維持に回すことができた。

●ホモ・ハイデルベルゲンシス(p163)
 ホモ・ハイデルベルゲンシスは、40~30万年前までに、いくつかの系統に分岐した。
 アフリカの系統は現生人類に進化。別の系統は、アジアでデニソワ人に進化し、ヨーロッパと西アジアでは、ネアンデルタール人に進化した。

●大脳新皮質(p173)
 人類学者ロビン・ダンバーの分析。霊長類のそれぞれの種の大脳新皮質は、集団規模とある程度の相関関係にある。
 この相関関係を人間に当てはめると、100人から230人の社会ネットワークに対処できるよう進化したことになる。

●異種交配(p201)
 すべての非アフリカ人には、ネアンデルタール人由来の遺伝子が2~5%含まれている。5万年以上前、現生人類がアフリカを出て中東を通過する際に、ネアンデルタール人と異種交配した。
 オセアニアとメラネシアに住む人々の間では、遺伝子の3~5%がデニソワ人由来のものとなっている。現生人類は、アジアに広がった際に、デニソワ人とも異種交配した。

●現生人類とネアンデルタール人との違い(p211)
 現生人類には、文化を通じて革新を図ろうとする驚くべき傾向と能力がある。
 ネアンデルタール人も、現生人類と接触してから初めて彼らなりの後期旧石器文化を築こうとした。だが、不完全で部分的な模倣でしかなかった。文化的な柔軟性と独創性の欠如ゆえに、絶滅した。
 現生人類は、新しい道具を発明し、新しい行動を採用し、芸術の形で自己表現しようとする傾向がある。

●ディスエボリューション(p267)
 ディスエボリューション……〔ミスマッチ病の原因に対処せず、その病を引き起こす環境要因をそのまま次世代に伝え、病が普及したり悪化したりするのにまかせることで、いくつもの世代にわたって生じる有害なフィードバックループ〕。身体の見地からいうと、このプロセスは時間を経ての変化(進化:エボリューション)の有害な(ディス)形態である。

(下)
●オハロⅡ遺跡(p14)
 ガリラヤ湖のほとりのオハロⅡ遺跡。一定の季節ごとに使われる、狩猟採集民の野営地だった。6家族総勢20~40人ほどが間に合わせの小屋を建てて暮らしていた。
 1万8000年前、氷河作用が止まって温暖多湿になってくると、1万4700年前から1万1600年前ごろ、人口が急増した。ナトゥーフ期と呼ばれている時期。狩猟採集の黄金期。優しい気候と豊富な天然資源のおかげで、大きな村を作って定住するようになる。100~150人が、石を土台にした小さな家を建てて暮らした。
 ビーズの首飾りや腕輪、彫刻の施された小立像などの工芸品を作る。遠方の集団と交易して貝殻を手に入れる。死者を立派な墓に埋葬する。
 1万2800年前、ヤンガードリアス期の寒冷化で、食物が減っていった。定住生活を守るため、植物栽培は始め、史上初の農業経済を生み出した。トルコ、シリア、イスラエル、ヨルダンを含む地域のどこか。

●身体活動レベル(p31)
 身体活動レベル(PAL: physical activity level)……一日に費やすカロリーの総量(総エネルギー消費量)を身体を機能させるのに必要な最低限のカロリー量(基礎代謝、BMR: basal metabolic rate)で割ったもの。
 成人男性のPAL……先進国の事務職や管理職:1.56(発展途上国:1.61)。先進国の製造業や農業:1.78(発展途上国:1.86)。狩猟採集民:1.85。(p64)

●不健康余命の延伸(p98)
 不健康余命の延伸(extension of morbidity)。高齢期の人が、完治のしにくい、身体に障害をもたらす、高額な費用のかかる病気を患っている状態。

●栄養素(p114)
 タンパク質……多数のアミノ酸が鎖状に結合したもの。組織の形成と維持に使われ、分解されて燃料になることはまれである。
 炭水化物……糖の分子が長く連なったもの。1gの糖に4kcalのエネルギーが含まれ、 グリコーゲンという大きいねっとりした分子の形にして体内に貯蔵。
 脂肪……脂肪酸という3個の長い分子がグリセリンという無色無臭の1個の分子でつなぎ合わされてできているもの。科学的にはトリグリセリドと呼ばれる。1gに9kcalのエネルギーが含まれる。

●体脂肪率(p121)
 霊長類の体脂肪率……子供が約3%、成体で平均6%前後。
 人間(狩猟採集民)の体脂肪率……新生児15%、幼少期に25%、成人男性10%、成人女性20%。

●内臓脂肪(p126)
 体内の他の部分の脂肪細胞との違い。
 ①内臓脂肪細胞は、ホルモンに対する感受性が数倍高く、代謝も活発になりやすい。体内の他の部分の脂肪細胞より、迅速に脂肪を蓄積したり放出したりする。
 ②内臓脂肪細胞は、脂肪酸を放出するときに、その分子をほぼまっすぐ肝臓に送り込む。肝臓に脂肪が蓄積すると、やがて、血中のグルコース放出を調整する機能が損なわれるようになる。
 脂肪がつきすぎた腹は、高BMIよりもはるかに大きな、代謝病の危険因子である。

●筋肉(p178)
 筋肉は、身体の安静時代謝の約40%を消費する。
 必要がないときは筋肉を萎縮させ、必要があるときに増強させるように発達した。

●ケラチン(p216)
 靴をはかない動物の足裏は、ケラチンでできたたこ(胼胝:べんち)が保護機能を果たしている。
 ケラチン……柔軟な毛のようなタンパク質。角質。サイの角や、ウマのひづめもケラチンでできている。

(2015/12/31)KG

〈この本の詳細〉
(上)
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「戦争」の終わらせ方
 [社会・政治・時事]

「戦争」の終わらせ方

原田敬一/著
出版社名 : 新日本出版社
出版年月 : 2015年7月
ISBNコード : 978-4-406-05923-7
税込価格 : 1,728円
頁数・縦 : 206p・19cm


 日本は、日清戦争から続く50年戦争をきちんと終わらせているのだろうか。現代社会における理想的な戦争の終わらせ方とはどのようなものなのかを問いながら、近現代日本の戦争と戦後を考える。

【目次】
1 日清戦争はどう終わらせたのか―日本社会と植民地支配
2 義和団戦争の終わらせ方―清国・アメリカ・日本
3 日露戦争の終わらせ方―帝国の縄張りと消失
4 第一次世界大戦の終わらせ方―英米仏と日本
5 十五年戦争とアジア太平洋戦争の始まりと終わり方
6 朝鮮戦争はまだ終わっていない―植民地支配の記憶
7 ヴェトナム戦争と日本―アメリカの戦略に従う日本
8 一九四五年以後の日本を捉え直す―戦後平和の意義

【著者】
原田 敬一 (ハラダ ケイイチ)
 1948年岡山市に生まれる。1982年大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)大阪大学。専攻は日本近現代史。現在、佛教大学歴史学部教授。

【抜書】
●義和団事件(北清事変)(p44)
 1899年、山東省で民間信仰団体の義和団が活動を始める。
 「扶清滅洋」を掲げてキリスト教や協会を攻撃。
 1900年には、首都の北京周辺でも活動を開始、8カ国(独墺米仏英伊日露)が連合軍を組織。清が連合軍に宣戦布告(すなわち「義和団戦争」というべき)。
 敗戦した清は、膨大な賠償金や苛酷な条件を呑まざるを得なかった。「団匪(だんぴ)賠償」「中国賠償金」。
 
●中国賠償金(p47)
 アメリカは、中国賠償金のうち、対個人賠償額と出兵軍事費用を免除、その分をアメリカ留学費に充てることになる。1911年4月、留学生の予備教育をおこなう学校として清華学堂が開学。
 独墺は、第一次世界大戦の講和条約によって賠償金を放棄。他の欧州諸国も、その後の中華民国と自国との発展に資する用途を模索。
 1924年5月、英国は「中国賠償基金」に残額を組み入れ、英中両国の協同利益の事業に使用する法案成立。
 1925年4月、フランスは「中仏教育基金委員会」を発足、パリ大学に中国学院を設置、北京大学にその分校として中法大学を設置。
 ソ連も、1924年調印の中ソ協定大綱で賠償金と、旧ロシアの在華特殊権益や治外法権を放棄、教育奨励に充てることにする。
 日本のみ、1915年の対華21カ条要求やのちの侵略戦争により、中国との友好な関係を築けなかった。
〔 「中国賠償金」をめぐる歴史過程は、戦争の終わらせ方について、相手国をマイナス地点に置いたままにしないで、新たにゼロから出発させることの重要性を示している。賠償から融和、友好へと事態は動き、人々の心を変えていった歴史的事例の一つだ。〕(p52)                        

●中独「平和回復協定」(p110)
 1921年5月20日、中国とドイツは「平和回復協定」に調印、戦争状態に終止符。
 ドイツは第一次大戦敗戦により、世界の植民地と特権を奪われる。
 中華民国側から見ると、欧米列強の中で、唯一関税特権や治外法権を持たない対等な国となる。
 ドイツからしても、失職した陸軍の幹部などを軍事顧問団として送り込んだり、戦車や大砲などを売却する重要な国となった。
 つまり、日中戦争で日本は、のちの同盟国ドイツが強化した中国軍と戦うことになった。〔一九四〇年の三国軍事同盟の締結の際、日本政府は両国の軍需物資貿易を止めようと、必死になって交渉している(『日本外交文書』)。つまり、日中戦争のうち、一九三七年から一九四〇年にかけて日本軍は、中国軍だけでなく、それを支援するドイツ軍事顧問団、ドイツ軍需産業・経済界をも相手に戦っていたのである。〕

●真の終戦記念日(p121)
 1945年8月15日は、昭和天皇が国民にポツダム宣言受諾を報知しただけの日。
 8月10日、御前会議により、国体護持を条件としたポツダム宣言受諾を決定。日本の海外放送にて告知。国内には厳秘。
 8月12日、連合国の回答公電が到着、条件については無回答。
 8月14日、再度の御前会議で無条件のポツダム宣言受諾を決定。
 9月2日、東京湾のミズーリ号艦上で降伏文書に調印。戦争が終わったのは、降伏文書に調印した9月2日。

●英米共同宣言(p123)
 1940年8月14日、英チャーチル首相と米ルーズヴェルト大統領が、「英米共同宣言」を発表。
 ①英米は領土拡大を求めない。
 ②関係国民の希望に反する領土変更を求めない。
 ③政府形態選択の国民の権利と主権・自治を奪われた者に返還(民族自決)。
 ④世界の通商・原料の均等条件での利用を共有(貿易の自由化と拡大)。
 ⑤労働基準と経済的向上・社会的安全確保の為の経済協力(労働条件と社会保障の改善)。
 ⑥各国の平和。
 ⑦公海での航行の自由。
 ⑧強力の使用の放棄、侵略の脅威を与える国の武装解除、軍備負担の軽減(軍縮)。

●戦後日本の文様(p151)
〔 「戦後日本」にはさまざまな文様が刻み込まれている。
 第一に、侵略戦争の敗北による出発。
 第二に、敗戦という劇的な結果から、植民地を自己反省もなく放棄したこと。
 第三に、大日本帝国の解体が、アメリカとイギリスを主力とする本土占領、米ソで分割された朝鮮の占領、アメリカが単独占領した南洋諸島・沖縄・奄美・小笠原・硫黄島の占領、ソ連が単独占領した樺太(南部)、中華民国が占領した台湾、と異なった占領軍により実施されたこと。
 第四に、本土は日本政府を温存した間接占領政策が進められたが、それ以外は軍隊による軍政、直接占領政策が採用されたこと。そのため占領政策の過酷さが異った。
 第五に、一九四七年五月三日に施行された日本国憲法により大日本帝国の後進性が排除され、憲法前文と第九条に示される平和国家への道が世界に示されたこと。
 第六に、日本の講和問題は、平和国家日本を活かすためではなく、朝鮮戦争をアメリカ側で支える戦略の一環として米英が捉え、進められたこと。
 第七に、そのため、サンフランシスコ平和条約による講和は、全連合国の参加する全面講和ではなく、米英などいわゆる西側諸国との講和であったこと。
 第八に、朝鮮戦争を理由に、サンフランシスコ平和条約とともに日米安全保障条約が押し付けられた。一九五五年のオーストラリアのように、講和で主権が回復されると占領軍は撤退しなければならないので、サンフランシスコ平和条約第六条で、平和条約発効九〇日以内の撤退を規定しながら、同条但書で、協定に基づく外国軍隊の駐留・駐屯は妨げない、と記し、日米安保条約による米軍と米軍基地の残留を合法化させ、再び「軍国日本」の道を歩ませる糸口を残した。日米行政協定(一九五三年)、その後の日米地位協定(一九六〇年)は、米兵の治外法権など日本国の主権を侵害したまま続いている。
 互いに矛盾したり、影響しあうこのような文様が「戦後日本」に刻み込まれた結果、日本の戦後の私たちをすっきりした出発点に立たせていない。これが二一世紀日本で、侵略戦争や植民地問題に関わる市民右翼・ネット右翼をうみだしている根源ではないか。また普天間・辺野古問題に示される沖縄の基地問題を、本土の人々が考え抜いて、沖縄の人々の苦しみを正面から受けとめることをしていないことにつながっている。
 このことは、戦後日本が関わるその後の二つの大きな戦争について、私たち自身の頭で十分考え切れていないことを意味している。こうした複雑な文様を刻み込まれた「戦後日本」を、どのように二一世紀の世界やアジアの中で生き続けさせるのか。軍事力を強化し、海外で、世界で戦う軍隊を復権させ、「軍国日本」を復活させるのか。それとも日本国憲法に示された平和主義を基に、「殺さず殺させず」を原則とし、構造的な戦争原因を取り除く国際協同を進める積極的平和として発展させ、「平和国家日本」を厳然と立国させるのか。私たちは、第二次世界大戦を、また近代の「五〇年戦争」を本当の意味で終わらせなければならない。〕

●植民地支配の終わらせ方(p162)
〔 戦後日本の経済や政治とも大きく関わりのある朝鮮戦争は、日本の植民地支配をどのよう終わらせるのか、について連合国間の合意や、朝鮮民族への敬意も連合国にはなかったため起きたという見方を強調したい。戦後日本は植民地支配を続けてきた責任を、独自外交で果たすという道を放棄し、アメリカの戦略にのみ従うという従属的な外交方針で一貫してきた。それどころか植民地支配を合理化し、正当化するという無責任な対応を続けてきた。米ソの連合国と並んで日本に大きな責任があるのに、それを自覚しない現代日本政権は、韓国・北朝鮮・中国との関係を友好的に維持できていない。〕

●積極的平和(p195)
 オスロ国際平和研究所のヨハン・ガルトゥングの提唱した概念。
 積極的平和……貧困や飢餓、教育の不在などは当該社会の構造的なものであり、それを取り除くことで「平和」に至る。

(2015/12/29)KG

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生物学の「ウソ」と「ホント」 最新生物学88の謎
 [自然科学]

生物学の「ウソ」と「ホント」: 最新生物学88の謎

池田清彦/著
出版社名 : 新潮社
出版年月 : 2015年3月
ISBNコード : 978-4-10-423111-9
税込価格 : 1,404円
頁数・縦 : 201p・20cm


 夕刊フジに連載された「池田教授の今宵学べる生物学」(2013年4月6日~2014年12月27日)を再編集して単行本にしたもの。

【目次】
1 生物進化の謎
 生命はどのように誕生したのか
 史上最大の生態系破壊者とは何か
  ほか
2 生命とは何か―遺伝子と細胞の謎
 生命とは何か
 「不老不死」は可能か
  ほか
3 ♂と♀―性と生殖の謎
 オスなしで子供を作れるコモドドラゴンの謎
 ヒトのオスが不要にならずにすんだのはなぜか
  ほか
4 環境と生態の謎
 ナマケモノはなぜ「怠け者」なのか
 草食動物はどうやってタンパク質を摂るのか
  ほか
5 ヒトの謎
 人類の脳容量が急激に大きくなったのはなぜか
 「ミトコンドリア・イブ」とは何か
  ほか

【著者】
池田 清彦 (イケダ キヨヒコ)
 1947年、東京都生まれ。東京都立大学大学院生物学専攻博士課程単位取得満期退学。理学博士。生物学者。現在、早稲田大学国際教養学部教授。

【抜書】
●ネオダーウィニズム(p4)
〔 現在の生物学の知識で説明できない現象はまだたくさんあって、解明されるまではペンディングにしておくのが科学的な態度なのだ。たとえば、生物は、すべて神が創造したという説(特殊創造説)や、すべての進化は遺伝子の突然変異と自然選択で起きたというネオダーウィニズムは、まだ解明されていないことに目を瞑って、自分の頭で、理解できる知識だけで全てを説明してしまおうという、知的怠惰の産物である。〕

●生命の歴史(p18)
 38億年前、生命の誕生。
 20億年前、真核生物の誕生。
 6億年前、多細胞生物の誕生。

●リン・マーギュリス(p27)
 リン・マーギュリス……米国の女性生物学者。
 細胞内共生説……真核生物の細胞内に見られるミトコンドリアや葉緑体は、本来は別の生物だった。それらが細胞内に入って共生したもの。論文が15回の掲載拒否にあった後、1967年、 「理論生物学雑誌」に掲載。
 共生は、大きなバクテリアが小さなバクテリアを食べようとして細胞内に取り込んだが、消化することができず、小さなバクテリアも大きなバクテリアを殺すことができなくて、始まった。アクシデントが進化の原因?

●テロメア(p31)
 ヘイフリック限界……テロメアの分裂限界。ヒトは50回。ガラパゴスソウガメ100回(200年生きる ) 、ウマ30回(最長寿命46年)、ウサギ20回(最長寿命10年)、マウス10回(最長寿命3年)。
 植物は、テロメラーゼ(テロメアを伸ばす酵素)が活性化していて、細胞分裂の回数に限界がない。(p35)

●ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(p31)
 ヒトの一番染色体上にあるラミンA遺伝子の異常により発症する優性の遺伝病。発症確率は400万人に一人。
 健常な人の10倍近く早く老化する。平均寿命13歳。
 遺伝的欠陥により代謝異常を来たし、動脈硬化や高コレステロール血症、糖尿病、白内障などを促進する。

●乾眠(p55)
 クマムシは、トレハロースという固体の糖を作って水と置換して、水分含有率を0.05%まで減らし、乾燥クマムシになる。代謝が完全に止まる。水を加えるとトレハロースが溶けてエネルギー源となり、クマムシは生き返る。
 乾眠=クリプトビオシス。体を構成する高分子たちが破壊されずに、生存している状況と同じ位置関係で固定されている状態。
 生命とは、高分子の特殊な配置のこと。これが破壊されると生き返れない。

●ブタ(p77)
 ブタは、人のウイルスにも水鳥のウイルスにも感染する。同時に感染すると、ブタの細胞内で2種のウイルスは遺伝子を交換し、新種のウイルスに変貌することがある。ヒトの細胞に侵入できる能力を持ち、ヒトに対して強力な殺傷力を持つウイルスが誕生する。
 インフルエンザウイルスは、すべて水鳥と共生しているウイルス。中国南部は、ヒトとブタと水鳥(アヒル)が高密度で共存している地域。新しいインフルエンザの発祥の地。
 
●コモドドラゴン(p86)
 コモドドラゴン……インドネシアのコモド島とその周辺の島に生息するオオトカゲ。最大個体は全長3m、体重150キロ。
 単為生殖でオスを生む。
 コモドドラゴンの性染色体は、オスがホモ(ZZ)、メスがヘテロ(ZW)となっている。卵を作るとき、性染色体が半減してZまたはWの入った卵を作るが、Wの卵はうまく育たない。正常な発生にZが必要なため。よって、単為生殖の子どもはすべてオスのみになる。

●ヘテロクロマチン(p94)
 常染色体が3本あると具合が悪い。ダウン症は、21番染色体が3本あるために起こる。
 X染色体が二つとも機能すると遺伝子から作られる産物(主にタンパク質)が過剰になって具合が悪い。
 しかし、X染色体は、2本のうち1本が小さく凝縮して機能しなくなる。⇒ヘテロクロマチン(異質染色体)
 どちらの染色体がヘテロクロマチンになるかは、細胞ごとにランダムに決まる。

●XXのオス(p104)
 オス・メスを決定するのは、Y染色体そのものではなく、Y染色体上のSRYという遺伝子。
 SRYは、受精後7~8週目にかけて短期間だけ働く。この遺伝子がオンになると、次々とオス化を促進する遺伝子たちにスイッチが入る。オフのままだと、胎児はメスに育つ。哺乳類では、メスがデフォルト(初期設定タイプ)、オスが修飾タイプ。
 対合……減数分裂をする際、相同染色体同士がぴったりと寄り添い、DNA同士を多少交換して、DNAの組み換えが起こる。
 XとYは相同染色体ではないが、部分的に相同なところがあり、対合し、DNAを部分的に交換する。そのとき、YのSRYをXに渡してしまうことがある。「SRYをもつX」「SRYを持たないY」。⇒ XXを持つ男の子と、XYを持つ女の子が生まれる。
 両者とも完璧な男女だが、XXの男子は不妊になる。アメリカでは、600人に一人。

●男脳と女脳(p106)
 女脳……右脳と左脳を連結する脳梁の後部が大きい。
 男脳……視床下部にある分界条床核と間質核の第一核が大きい。

●ナマケモノ(p112)
 ナマケモノ……南米から中米の熱帯林に棲む。生涯のほとんどを樹上で暮らす。
 1日に食べる餌の量は、わずか葉っぱ8グラム。哺乳類だが変温動物。1日20時間も寝ている。
 動物の睡眠時間……オポッサムやアルマジロ17~19時間。ネコやネズミ13~14時間。ブタやチンパンジー8時間。ウシ、ヤギ、ロバ、ゾウ3時間。ウマ2時間。

●ガウゼの法則(p138)
 旧ソ連の生態学者ゲオルギー・ガウゼ。同じ生態的地位を持つ2種以上の種は共存できない。⇒ ガウゼの法則
 水槽の中にゾウリムシとヒメゾウリムシという2種類のゾウリムシを入れておくと、餌を十分に与えていても、しばらくたつとヒメゾウリムシだけになってしまう。ゾウリムシを駆逐。
 捕食者のメダカを何匹か入れると、両種は共存するようになる。メダカは、個体数の多いほうを優先的に食べる。

●生産者、消費者、分解者(p166)
 生態系を構成する生物……機能の面から、生産者、消費者、分解者に分かれる。
 生産者……光エネルギーや化学エネルギーを使って有機物を作り出す生物。植物(陸上生態系)、植物プランクトン(水界生態系)、化学合成細菌(深海)。
 消費者……生産者が作った有機物に依存して生きている生物。動物(陸上生態系)、動物プランクトンや水棲動物(水界生態系)。
 分解者……他の生物の死骸や排出物を分解。有機物を無機物に分解。カビ、キノコ、細菌。
 消費者(動物)の役割は、物質循環の速度を上げること。重力の影響で、栄養物は高地から低地へ、さらに深海へと下がっていくが、重力に逆らって移動できる動物が、これらの物質を下から上に運んでくれる。

●赤ん坊の脳細胞(p186)
 生まれたばかりの赤ん坊の脳細胞は1,200億個。
  ↓
 2歳くらいまでに200億個に。
  ↓
 成人の脳細胞は120億個。

(2015/12/19)KG

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アイヌ学入門
 [歴史・地理・民俗]

アイヌ学入門 (講談社現代新書)

瀬川拓郎/著
出版社名 : 講談社(講談社現代新書2304)
出版年月 : 2015年2月
ISBNコード : 978-4-06-288304-7
税込価格 : 907円
頁数・縦 : 311p・18cm


 アイヌと日本とのかかわりを、縄文時代から解き明かし、お互いの交流史を描く。特に、アイヌが受けた日本からの影響について多く解説する。
 日本からアイヌに伝わったものが意外に多いことに驚かされた。カムイが神に由来するとは……。私は、それぞれ共通の「縄文語」(?)から分かれた言葉だと思っていたのだが、日本語とアイヌ語との間の共通性はきわめて低いという。

【目次】
序章 アイヌとはどのような人びとか
 アイヌの人びととの出会い
 アイヌの歴史を掘る
  ほか
第1章 縄文―一万年の伝統を継ぐ
 孤立するアイヌ語
 縄文語との関係
  ほか
第2章 交易―沈黙交易とエスニシティ
 武者姿のアイヌ
 千島アイヌの奇妙な習俗
  ほか
第3章 伝説―古代ローマからアイヌへ
 子どもだましの作り話
 古代ローマとアイヌ伝説
  ほか
第4章 呪術―行進する人びとと陰陽道
 アイヌの呪術と日本
 ケガレと行進呪術
  ほか
第5章 疫病―アイヌの疱瘡神と蘇民将来
 アイヌ文化の陰影
 アイヌ蘇民将来
  ほか
第6章 祭祀―狩猟民と山の神の農耕儀礼
 カムイと神
 アイヌの祭祀と古代日本
  ほか
第7章 黄金―アイヌは黄金の民だったか
 黄金を知らない黄金島の人びと
 渡海する和人の金堀りたち
  ほか
第8章 現代―アイヌとして生きる
 Aさんへのインタビュー
 アイヌの開拓団
  ほか

【著者】
瀬川 拓郎 (セガワ タクロウ)
 1958年、札幌市生まれ。考古学者、アイヌ研究者。岡山大学法文学部史学科卒業。2006年「擦文文化からアイヌ文化における交易適応の研究」で総合研究大学院大学より博士(文学)を取得。現在、旭川博物館館長。

【抜書】
●コロポックル(p136)
 アイヌの小人伝説。
〔 竪穴住居に住み、土器や石器を用いる小人がいた。かれらは姿をみせず、夜な夜なアイヌに食べ物を贈った。窓から食べ物をさしだす小人の姿をみてみようと、アイヌがその手を引きいれると美しい女だった。この仕打ちに怒った小人たちは遠くに去った、というのが一般に知られているストーリーでしょう。〕
 小人伝説のモデルとなったのは、北千島アイヌ。土器のための土を採集するために北海道本島に渡ってくる。
 日本の中世説話の異郷を受け、15~16世紀に小人伝説として語られるようになった。
 元をたどれば、古代ローマの博物学者プリニウスの『博物誌』の記事が中国から日本を経てアイヌに伝わった。インドに小人族がいて、鶴から身を守るために隊列を組んで遠征する、とある。『御曹子島渡』に同様の記述。これがアイヌにも伝わる。

●蘇民将来(p195)
 アイヌの疱瘡神伝説……〔川を無数の船で上ってきた疱瘡神は、ある少年の叔父に食べ物を乞うた。この叔父は、しぶしぶ小鹿の前足を一本、同居する少年に命じて疱瘡神のもとへ届けさせた。これだけで足りるだろうかと心配した心優しい少年は疱瘡神から病気にかからないと約束され、けちな叔父は殺された〕。
 蘇民将来と似ている。
《蘇民将来》
 北の海にいた武塔神(むとうのかみ)が旅をしていると、日が暮れてしまった。そこに蘇民将来と将来の兄弟が住んでいた。兄の蘇民将来は貧しく、弟の将来は富んでいた。武塔神が宿を借りようとすると、将来は断り、蘇民将来は粟飯をふるまって手厚くもてなした。
 その後、再び村にやってきた武塔神は、蘇民将来に疫病除けの茅の輪を身につけるよう命じ、その夜、弟の将来の一族を滅ぼした。「後世、疫病が流行ることがあっても、蘇民将来の子孫であるといい、また茅の輪を身につけていれば、それを逃れることができる」。

●アイヌ語に採用された日本語(p223)
 アイヌが古代日本の宗教儀礼を受容したので、祭祀用語に日本語が伝わった。
 カムイ(神)、タマ(魂)、ノミ(祈む)、オンカミ(拝む)、ヌサ(幣)、タクサ(手草)、など。
 7世紀後葉~9世紀の間に、移民を通じて伝わった。王権の側から「エミシ」と呼ばれていた、東北北部太平洋側の人々。

●奥州藤原氏(p250)
 奥州藤原氏の一団が、12世紀に北海道の日高へ移住していた?
 金の採掘が目的だった?

●熊野神社(p274)
 紀伊半島の熊野三山……古代から修験道の一大中心地。
 全国にある熊野神社の四分の一が東北地方に集中。これらのうち古代に創建された神社は、神像ではなく、御正躰(みしょうたい:木や銅の円板に仏像を浮き彫りしたもの。掛仏)を祀っており、熊野三山への信仰が深くかかわっている。
 金を鉱山で大規模に採掘するようになる戦国時代より前は、砂金の採掘は、修験者の経営するところだった。
 有数の産金地帯である古代東北の海道地域の開発に、熊野水軍が関わっていた。
 10世紀には、北海道にも修験者たちも入り込んでいた。金の採集。

●金の発見(p299)
 日本で最初に金が発見されたのは、749年、陸奥国小田郡(現・宮城県遠田《とおだ》郡涌谷《わくや》町?)。
 当時鋳造されていた東大寺大仏の塗金が足りず、朝廷は各地で金の探索を積極的におこなっていた。

(2015/12/17)KG

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29歳で図書館長になって
 [ 読書・出版・書店]

29歳で図書館長になって

吉井潤/著
出版社名 : 青弓社
出版年月 : 2015年2月
ISBNコード : 978-4-7872-0054-9
税込価格 : 2,160円
頁数・縦 : 222p・19cm
 
 
■冷静な図書館愛
 若くして図書館長となった司書が、「想像と創造」の場である図書館の現状とこれからの好ましい姿について網羅的に語る。
 執筆時でも31~2歳であった著者の図書館愛が伝わってくる。柔軟な発想による数多くの提案がなされている。その提案は具体的で確かな現状認識にもとづいており、説得力がある。
 本書の提案でなるほどと思ったのは、以下のことなどである。

・図書館に教科書を置くべきである(p114)
 その自治体で採用されている小学校・中学校の教科書は蔵書とすべきではないか。市民も子供たちがどのような教科書を使っているのか、知る権利があるし、勉強するべきである。

・定点観測的に、図書館の周辺の風景を写真に収めて保存しておく(p131)
 これらは、将来、貴重な地域資料となるはずである。

・図書館の本棚を市民に貸し出す(p153)
 本棚1段あたりの収納冊数は一般図書30冊くらい。いらなくなった本を処理したい人や、自分のお宝を自慢したい人などに貸し出す。

・昔の遊びやゲームの場を設ける(p167)
 小学校高学年から中学・高校生が対象。ゲーム機がなかった時代のけん玉、あやとり、メンコなどが体験できる。

・予約の多い本を出版社から借りる(p196)
 予約の多い上位10冊に関して、出版社から1冊ずつ一定期間借用。来館者は館内で10分間試し読みができる。その後、気に入ったら予約するか、近くの書店で買ってもらう。
 ※貸し出し時間は、30分~1時間くらいあってもいいのではないか?
 ※また、帯出用とは別に図書館で購入したものを貸し出してもいい。全国の多数の図書館からこの申し出があった場合、出版社は対応できないだろう。

・図書館資金パーティ(p200)
 政治家の資金集めのようなパーティを開催する。おいしい料理を出す、作家や編集者などの著名人ゲストを呼ぶ、集めたお金の使用目的を最初に示す、という三点が重要。

【目次】
第1章 これからの図書館
 想像と創造する場としての公立図書館
 先人の実践
 もっと多くの人に図書館が使われるために
  ほか
第2章 これからの図書館員
 想像力と創造力をもっている
 インタープリンターとして
 自治体の課題を知っている
  ほか
第3章 想像と創造のための設備と施設
 情報コンセントWi-Fi
 創作活動ができるコンピューター
 プリンター
  ほか
第4章 資料と情報源
 ここにしかないもの(お宝)
 地図
 大活字本
  ほか
第5章 提供するサービス
 海外初のサービスの導入
 日本オリジナルのサービス
 自然体験プログラム
  ほか
第6章 図書館活動を豊かにするための資金繰り
 資料購入費の使い方
 施設管理にかかる経費
 備品と消耗品の管理
  ほか

【著者】
吉井 潤 (ヨシイ ジュン)
 1983年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業、慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻情報資源管理分野修士課程修了。2006年、山中湖情報創造館(ライブラリアン)、09年、練馬区立南田中図書館副館長、10年、新宿区立角筈図書館副館長をへて、13年から江戸川区立篠崎図書館・江戸川区立篠崎子ども図書館館長。地域資料デジタル化研究会理事、三田図書館・情報学会会員、日本図書館協会会員。

【抜書】
●ロータリークラブ(p208)
 ロータリークラブ……社会奉仕の理想を掲げる世界的規模のクラブ団体。1905年、シカゴの弁護士ポール・パーシー・ハリスと3人の友人によって組織される。
 会員が持ち回りで自分たちの事務所を会合の場所にしたので、ロータリー(回るという意味)の名がついた。
 構成員は、原則として一業種一人。会員の推薦によって入会できる。
 クラブ奉仕、職業奉仕、社会奉仕、国際奉仕などがある。
 200以上の国と地域に約3万2,000のクラブを持ち、約120万人の会員がいる(2009年)。日本では、2,301クラブ、9万2,664人。

●ライオンズクラブ(p209)
 ライオンズクラブ(Lions Clubs International)……Liberty, Intelligence, Our Nation's Safety(自由を守り、知性を重んじ、我々の国の安全をはかる)の略。世界的規模の社会奉仕団体。本部はシカゴ。
 日本では、クラブ数3,357、会員数11万2,715人(2009年)。

(2015/12/12)KG

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現代美術キュレーターという仕事
 [芸術]

現代美術キュレーターという仕事

難波祐子/著
出版社名 :青弓社
出版年月 :2012年1月
ISBNコード :978-4-7872-7316-1
税込価格 :2,160円
頁数・縦 :190p・19cm


 美術館のキュレーターは、学芸員とどう違うのか? この初歩的な疑問から説き起こし、キュレーターの仕事とその実践例としての現代美術展覧会を歴史的にたどる。
 現代美術を扱う美術館の先駆け的存在は、神奈川県立近代美術館、通称鎌倉近代美術館(鎌近)である。1951年11月、開館に際して 「セザンヌ・ルノワール」展を開催した。学芸員主導、企画展主導の美術館として、画期的な存在となった。さらに、MoMAをモデルにした国立近代美術館(1952年開館)が続く。
 キュレーターが現代に通じる注目すべき活動をおこなってきたのは、草月アートセンター(1958-71年、ディレクター:勅使河原宏。p74)、「ミュージアム・シティ・天神」(1990年~、福岡市。のちにミュージアム・シティ・プロジェクトに改称。p107)、「取手アートプロジェクト(TAP)」(1999年~。取手市と東京芸大先端芸術表現科のコラボ)、などである。既存の美術館の枠から飛び出し、現代美術を世に知らしめる契機となった。
 2000年代に入ると、現代美術を扱う美術館は増え、「開かれた美術館」が一つのトレンドなる。「アート・アンド・ライフ」を掲げる私立の森美術館、ソフト、ハード面とも優れた金沢21世紀美術館などである。
 このように、美術館が独自の企画を展開していく上で、キュレーターの仕事が注目され、今後、その役割は増していくであろう。

【目次】
第1章 日本における「学芸員」の守備範囲
第2章 日本キュレーター前史―「学芸員」のはじまり/黎明期:一九五〇年代
第3章 「学芸員」から「キュレーター」へ―転換期:一九六〇‐八〇年代
第4章 「キュレーターの時代」―発展期:一九九〇年代
第5章 これからのキュレーター像
東京ビエンナーレとその時代―中原佑介インタビュー

【著者】
難波 祐子 (ナンバ サチコ)
 キュレーター。多摩美術大学非常勤講師。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)学士号(社会人類学)、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)修士号(現代美術キュレーション)。2006-11年、東京都現代美術館学芸員を経て、展覧会やワークショップの企画運営をおこなう株式会社I plus Nを設立。専門は現代美術・文化研究、アートによる子育て支援事業、地域活性化事業。

【抜書】
●学芸員(p11)
 博物館とは、「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集し、保管(育成を含む。以下同じ。)し、展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資するために必要な事業をおこない、あわせてこれらの資料に関する調査研究をすることを目的とする機関」(博物館法第二条第一項)。
 学芸員は、博物館法第四条第四項「博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」(p17)。
 ・展覧会の企画や資料調査研究
 ・所蔵作品の管理や保存
 ・カタログの作成
 ・助成金の申請
 ・ワークショップやレクチャーなどの普及事業の企画運営
 自嘲気味に「学芸員」のことを「雑芸員」と呼んでいる。

●キュレーター(p14)
〔「キュレーター」の定義は一つに定めるものではないが、本書では便宜上、「キュレーター」とは展示企画をおこなう人、そして展覧会を通してなんらかの新しい提案、ものの見方、価値観を創り出していく人として定義したい。〕
 欧米の美術館では、チーフ・キュレーターの下に、シニア・キュレーター、キュレーター、アシスタント・キュレーターなどが置かれている。
 キュレートリアル……「キュレーター的な」「企画上の」といった意味。

●美術館の分業(p18)
 レジストラー……作品の貸し出しや出し入れなどの管理を担当。
 コンサバター……作品保存修復を担当。専門のコースで学ぶ。
 エデュケーター……教育普及を担当。美術館教育、教育学を専攻。
 出版……広報・カタログを担当する部門。
 ディベロップメント……資金調達を専門とする部門。

(2015/12/10)KG

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ながた暗号塾入門
 [社会・政治・時事]

ながた暗号塾入門

長田順行/著
出版社名 :朝日新聞出版
出版年月 :1988年11月
ISBNコード :978-4-02-255931-9
税込価格 :1,620円
頁数・縦 :318p・19cm


 暗号のイロハを解説。

【目次】
1 基礎編
 暗号という用語のルーツ
 知らないことばにも暗号の効果
 複雑な伝言も「約束語」で簡潔に
 突発事態にも即応できる「隠文式」
 ことば遊びと紙一重の「分置式」
 「換字式」・「転置式」の基本
 さらに細かく言葉を数える
 「換字式」の進歩は時代とともに
 コードならびに多表による換字
 休眠の長かった「転置式」
 矢は束にすれば強くなる「混合式」
 多表式から乱数式へ
 コンピュータとともに複雑化した現代暗号
2 応用編
 斉明紀「童謡」をどう読む
 片仮名も一種の暗号だった
 暗号ミステリーへの招待
 山中峯太郎と暗号日記
3 日本の軍事・外交暗号編
 太政官暗号の発見
 明治期の陸海軍暗号
 陸海軍暗号近代化への道のり
 日本外交暗号の初期
 九一式暗号機(レッド暗号)
 九七式欧文印字機(パープル暗号)
 日米の解読力が戦局分けた
 暗号の価値測定秤

【著者】
長田 順行 (ナガタ ジュンコウ)
 1929年、広島県に生まれる。呉第一中学校、海軍兵学校(78期)、広島大学に学ぶ。日本暗号協会会長、日本推理作家協会監事。

【抜書】
アメリカ・インディアン語(p24)
 アメリカは、2度の世界大戦で、前線部隊間の連絡用にアメリカ・インディアン語を暗号として使用。
 第一次大戦ではチョクトー語、第二次大戦ではナボハ語が主に使われた。
 アメリカ・インディアンの言語には、相互に理解できないものが1,000以上あると言われている。

鹿児島弁(p25)
 太平洋戦争中、日本の外務省は、ドイツ駐在の日本大使館との国際電話に鹿児島弁を使わせたことがある。
 「ヨシトシサー ヨシトシサー。ヨシトシノオヤジャ モ イッキタツモス。(ヨシトシさん、ヨシトシさん。ヨシトシの親父はもうすぐ発ちます。)」吉村昭『深海の使者』(文藝春秋)より。

●暗号の種類(p30)
 換字式(代用法)……決まった文字。他の文字や符合に置き換える。一般形式、暗号らしい。
 転置式(置換法)……決まった順序。順序を入れ替える。一般形式、暗号らしい。
 分置式(挿入法)……決まった順序。別の音や文字を間に挟む。特殊形式、暗号らしくない。
 約束語……決まった意味。別の意味に変える。特殊形式、暗号らしくない。
 隠文式(寓意法)……決まった意味。遠回しに言う、たとえる。特殊形式、暗号らしくない。
 混合式……上記の五つの形式を組み合わせる。

●cipher、code(p85)
 cipher(サイファー)……換字式で、文字ごとに行われるもの。
 code(コード)……換字式で、語句や文章ごとに置き換えるもの。

●暗号の発達(p241)
 外交技術が発達したのは、イタリア半島に小都市国家が群立するようになった12世紀頃から。
 15世紀半ばには、外交使節を常駐させるようになり、16世紀末には大多数のヨーロッパの国で見習われるようになった。
 使節の常駐に伴って、本国との連絡のための暗号が必要になった。
 日本が駐在使節を派遣するようになるのは、1870年(明治3)からで、4年後には正式に暗号表(換字表)が作成された。

(2015/12/7)

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世界の不思議な毒をもつ生き物
 [自然科学]

世界の不思議な毒をもつ生き物

マーク・シッダール/著 岩井木綿子/訳
出版社名 :エクスナレッジ
出版年月 :2015年8月
ISBNコード :978-4-7678-1953-2
税込価格 :1,944円
頁数・縦 :142p・19cm


 毒をもつ動物にまつわるエッセー。自身の体験、毒をもつ動物の発見物語などの科学史的事実も盛り込み、興味深く読める。

【目次】
1 触るな、キケン!
 槍をふるうナイトたち―カモノハシ
 青の黙示録―オオマルモンダコ
  ほか
2 食べてはいけない!
 空を渡る厄災―ヨーロッパウズラ
 空腹ウォーズ1:白い魚 センニンフグ
  ほか
3 毒をもつ刺客たち
 痛烈映画評論―アリゾナバークスコーピオン
 ハートを射貫かれて―ヤッコエイ
  ほか
4 歯と牙
 砂漠の無法者―アメリカドクトカゲ
 哺乳類的方法論―ヨーロッパトガリネズミ
  ほか

【著者】
シッダール,マーク (Siddall, Mark)
 動物学博士。アメリカ自然史博物館無脊椎動物学部門のキュレーター。ヒルの進化とその吸血行動を専門に研究している。2013年秋に開幕したアメリカ自然史博物館の『The Power of Poison(毒の力)』展では企画責任者を務めた。

岩井 木綿子 (イワイ ユウコ)
 英語ほんやく工房たてよこ屋幹事。筑波大学比較文化学類卒。第21回BABEL翻訳奨励賞英日部門(1)フィクション最優秀賞受賞。

【抜書】
●確率(p6)
〔 結局のところ、確率は保険業務に関する計算にしか役に立たない。保険会社や、患者の回復の見込みを予測する医師以外の人たちには使い道のない数字なのだ。イギリスの偉大な哲学者、カール・ポッパー(1902~1994)も言っているように、ある日ある場所である個人に降りかかる1つの例外的出来事を確率と関連づけても意味がない。つまり、わざわざ触れようと思わないかぎりは、猛毒を持つヘビやイモガイやフサカサゴや人を刺す虫――毒があってもなくても――について心配しても無駄だということだ。だが、もし触るなら、害を被る蓋然性は必然性へと変わる。〕

●テトロドトキシン(p7)
 神経の働きを破綻させる神経毒(ニューロトキシン)の一種。神経のインパルスが筋肉(心筋以外)に伝わるのを遮断する。
 フグの肝臓、サメハダイモリ(米国オレゴン州)の皮膚、ヒョウモンダコ(太平洋西部~インド洋)の体内に存在する。つまり、タコの場合はそのvenom(トゲや歯によって送り込まれる毒)の中に、フグとイモリの場合はそのpoisonの中にテトロドトキシンが含まれている。

●擬態(p8)
 ミュラー型擬態……有毒な生物がより強い毒をもつ生物の姿にまねる。
 ベイツ型擬態……まったく無毒の生物が有毒な生物のふりをする。

●生物濃縮(p8)
 食物連鎖の上位に位置する動物の身体組織に、より多くの毒素が蓄積される現象(訳注)。
 世界各地のカエルや、パプアニューギニアとアフリカの鳥たちには、食物の成分から取り入れた毒素を体内に蓄積する能力があるらしい。
 テトロドキシンは、水生生物によって産生されたもので、動物たちが自分たちで作り出しているわけではない。

●王様の食べ物(p33)
 王様の食べ物=アフリカ南部、マルーラの木に生る果実。プラムほどの大きさ。落果すると自然にアルコール発酵が始まる。
 ザンベジ川の流域で作られるムクンビ・ビールなど、さまざまなマルーラ酒造りに用いられる。
 マルーラの木は15mほどの高さで、マカデミアナッツに似た種からはオレイン酸をたっぷり含む良質の油が採れる。ねばねばした樹液からはインクの原料が作れる。

●モウドクフキヤガエル(p36)
 モウドクフキヤガエルは、コロンビア・チョコ地域の熱帯雨林に生息。
 地球上、最強の毒をもつ動物。平均的な成体は、バトラコトキシン、ホモバトラコトキシン、バトラコトキシニンAという、3種の致死性毒物をそれぞれ200~500マイクログラムずつ、皮膚に蓄積している。体重68kgの人間の致死量は200マイクログラム未満。
 バトラコトキシンは、ジョウカイモドキ科の甲虫の体内に高濃度で蓄積されている。モウドクフキヤガエルは、おそらくこの甲虫を餌にしているものと思われる。
 ミールワームと呼ばれるゴミムシダマシの幼虫やコオロギ、ミバエばかり与えていると、野性の毒ガエルも無害になる。数年で毒がなくなる。オタマジャクシのうちに飼育を始めると、無毒のカエルに育つ。

●蛛形類(p82)
 蛛形類(ちゅけいるい)、蛛形綱、Arachnid。サソリ、クモ、ダニなどが属する。8本足で、胴体と頭部がはっきり区別できない。昆虫綱と異なり、単眼で、触角はない。

●アナフィラキシー・ショック(p98)
 アナフィラキシー・ショック……身体のごく一部だけで済むはずのヒスタミン放出が、必要もないのに全身で起こる反応。その結果、喉が腫れ、気道が収縮して呼吸困難になる。そして血管が膨張し、中を流れていた成分が周囲に漏れ出す。そのため全身が腫れ上がり、急激に血圧が低下して、最終的にショック状態に陥る。
 アドレナリンを注射すると、血管が収縮して心拍数が上がり、命を脅かす症状を短時間で回復させることができる。

●venomを持つ哺乳類(p112)
 噛んで毒(venom )を送り込む哺乳類は、数種類しかいない。
 トガリネズミ属、ミズトガリネズミ属、ブラリナトガリネズミ属、ハイチソレノドン(大型のジネズミに似た原始的な食虫類)。

(2015/12/6)KG

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