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柔らかな海峡 日本・韓国和解への道
 [社会・政治・時事]

柔らかな海峡 日本・韓国 和解への道

金惠京/著
出版社名 : 集英社インターナショナル
出版年月 : 2015年11月
ISBNコード : 978-4-7976-7305-0
税込価格 : 1,620円
頁数・縦 : 205p・20cm


 日本、米国で学究生活を送ってきた韓国人国際法学者による、日韓論。朝日新聞「WEBRONZA」の2011年9月10日~2015年10月16日の連載に加筆・修正したものに、姜尚中との対談(「第三文明」2015年7月号)と、書き下ろしの「慰安婦の悲劇から新たな対立を生まないために」を合わせて収録した。テロ防止策が専門なので、中東を発端としたテロについての論考もある。
 韓国に生まれ、日本に憧れて留学し、米国の大学で教鞭を取り、現在は日本の学生に教えるという経歴のためか、日本と韓国の現状を、双方への深い理解を示しつつ客観的・建設的に論じる。傾聴に値する評論集である。
 日韓は、慰安婦問題や竹島問題など、政治の世界では、非難しあい、なかなか和解に至らない。
 著者は、日本側の非として、政治の一貫性のなさを指摘する。首脳が植民地支配に対する謝罪をしても、他の政治家が反対の意見を述べるという事態がしばしば起こる。政府はそれを制御できず、日本の姿勢は首尾一貫していないと映る。結果、謝罪に誠意が感じられなくなる。
 一方、韓国側は、大統領の支持率が落ちてくると、国民的な人気を保つために反日姿勢を示す。そして、国際法や規範を無視した言動を行う。
 しかし、民間レベルでは、交流は促進されており、相互理解が進み、お互いの親近感は増している。日本で韓国料理は人気だし、韓国旅行は楽しい思い出を与えてくれる。韓国人にとっても、日本は憧れの国であり、日本文化が浸透している。反日、反韓で反発しあっているのは、ごく一部の人たちだ。大多数の人たちは、相手国民に良好な感情を抱いているのである。この感覚を国と国との関係にも反映できないものか。

【目次】
第1章 対立を超えて
 「いつもの光景」を超えて―竹島(独島)を相互理解の契機に
 希望を忘れた関係に未来はない―韓国人サポーターの横断幕に思う
 潘基文・国連事務総長の発言は誤りか?
  ほか
第2章 世界はどこを目指す
 熱烈な愛国心と恒常的な恐怖―失われたアメリカの自由
 アルジェリア人質テロで見過ごされた三つの問い
 シリアの査察受け入れは薔薇色のゴールではない
  ほか
第3章 後退に抗する
 誰が法と制度を運用するのか?―在留カードの穴から見えた現実
 日韓の選挙が明らかにした両国の姿
 法の成り立ちから集団的自衛権を考える
  ほか

【著者】
金 惠京 (キム ヘギョン)
 国際法学者。韓国・ソウル生まれ。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科より博士号。2007年からジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、ハワイ大学韓国研究センター客員教授、明治大学法学部助教を経て、2015年から日本大学総合科学研究所准教授。

【抜書】
●テロ(p156)
 〔現在、テロは弱者の強者への対抗手法と考えられがちであるが、本来の意味としてはテロ(恐怖、terror)をもって統治を行う手法を指してきた。それはフランス革命後の恐怖政治(Reign of Terror)を嚆矢とし、第二次世界大戦まで、そうした認識の下に「テロ」という文言が用いられてきたのである。〕

(2016/4/27)KG

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この世にたやすい仕事はない
 [文芸]

この世にたやすい仕事はない

津村記久子/著
出版社名 : 日本経済新聞出版社
出版年月 : 2015年10月
ISBNコード : 978-4-532-17136-0
税込価格 : 1,728円
頁数・縦 : 347p・20cm


 36歳で燃え尽き症候群(?)により医療ソーシャルワーカーを退職した女性が、5つのあり得ない仕事を転々とする、ある種ユーモア小説。5つとも、実はなさそうであり得る(!)仕事だという点がミソである。これは私もやってみたい、という仕事はないけどね。
 淡々とした文体で、多少はミステリー仕立てになっているものの、大きな盛り上がりのない内容だが、一気に読ませてしまう筆力は素晴らしい。面白かったです。

【目次】
第1話 みはりのしごと
第2話 バスのアナウンスのしごと
第3話 おかきの袋のしごと
第4話 路地を訪ねるしごと
第5話 大きな森の小屋での簡単なしごと

【著者】
津村 記久子 (ツムラ キクコ)
 1978年大阪府生まれ。2005年「マンイーター」(「君は永遠にそいつらより若い」に改題)で太宰治賞を受賞し、作家デビュー。08年『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」で芥川賞、11年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞、13年「給水塔と亀」で川端康成文学賞を受賞。

(2016/4/27)KG

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圏外編集者
 [ 読書・出版・書店]

圏外編集者

都築響一/語り
出版社名 : 朝日出版社
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-255-00894-3
税込価格 : 1,782円
頁数・縦 : 255p・19cm


 今年齢60になるフリーランス編集者の編集者魂。
 書籍作りに対する思い入れが存分に伝わってくる。例えば、面白いからやる、誰もやらないから自分がやる、10%のセレブ向けではなく、90%の普通の人向けに記事を書く、そういった人々の生活を紹介する、などなど。
 編集者の楽しみには現場にある。そのために、薄給でも、長時間労働でもやる価値がある。1日中、机に向っているのではなく、日中は現場に赴き、人と会い、面白いと感じる現場に行く。
 編集者に必要なのは経験とか技術ではなく、感性である。プロにできてアマチュアにできないこと、それは、「アマチュアにできない量」しかない、と言い放つ。量をこなすこと。これはやはり長年続けてきた経験がものをいう、とも一方で思う。

【目次】
第1章 問1 本作りって、なにから始めればいいでしょう?
第2章 問2 自分だけの編集的視点を養うには?
第3章 問3 なぜ「ロードサイド」なんですか?
第4章 問4 だれもやってないことをするには?
第5章 問5 だれのために本を作っているのですか?
第6章 問6 編集者にできることって何でしょう?
第7章 問7 出版の未来はどうなると思いますか?
第8章 問8 自分のメディアをウェブで始めた理由は?

【著者】
都築 響一 (ツズキ キョウイチ)
 1956年、東京生まれ。76年から86年まで『POPEYE』『BRUTUS』で現代美術や建築、デザインなどの記事を担当。89年から92年にかけて、1980年代の世界の現代アートを映す全102巻の現代美術全集『アート・ランダム』を刊行した。自らカメラを手に、狭いながらも独創的な若者たちの部屋を撮影した『TOKYO STYLE』や、日本各地の奇妙な名所を探し歩いた『ROADSIDE JAPAN』で、既存メディアが見たことのない視点から現代社会を切り取る。

【抜書】
●エディトリアル・デザイン(p38)
〔 伝えたいことがあるから、編集者は素材を用意する。それが画像でもテキストでもいいけれど、あらかじめ用意された誌面デザインに収まりきらないから、自動的に削るのではなくて、どうにかしてページ内に収める努力をするのが、エディトリアル・デザインというものではないだろうか。〕

(2016/4/23)KG

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中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う 200兆円市場のラストフロンティアで儲ける
 [社会・政治・時事]

中国が喰いモノにするアフリカを日本が救う 200兆円市場のラストフロンティアで儲ける (講談社+α新書)

ムウェテ・ムルアカ/〔著〕
出版社名 : 講談社(講談社+α新書 714-1C)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-06-272923-9
税込価格 : 907円
頁数・縦 : 185p・18cm 


 鈴木宗男代議士の秘書も務めたムルアカ氏からの日本に向けたエール。アフリカで嫌われている中国にかわって、もっとアフリカに進出し、アフリカとのビジネスを促進してほしいというメッセージ。
 日本人とアフリカ人、意外と相性がいいかもしれない。人に対する優しさと人懐っこさは、共通の利点ではないだろうか。

【目次】
第1章 爆発する消費マーケット、世界が狙う天然資源
 もはや暗黒大陸ではない
 アフリカのポテンシャル
  ほか
第2章 中国に踏み荒らされるアフリカ大陸
 アフリカの怒り
 殺人道路
  ほか
第3章 反日に固執する中韓は「奴隷の恨み」を棚上げしたアフリカを見習え
 日本が育てたライオン
 なぜ中国人留学生を優遇するのか
  ほか
第4章 日本はこうしてラストフロンティアを手に入れる
 資源と科学技術の合体
 アフリカ進出の秘策
  ほか

【著者】
ムルアカ,ムウェテ (Muluaka, Muwete)
 ザイール共和国(現コンゴ民主共和国)生まれ。国際政治評論家。千葉科学大学教授。神奈川工科大学特任教授。総務省、経済産業省、文部科学省の任期付き参与。東京電機大学電子工学科卒業。工学博士。ザイール共和国国営放送日本代表、在日コンゴ民主共和国通商代表機関理事、コンゴ民主共和国キンシャサ大学客員教授も務めた。日本における外国人タレントプロダクション事業共同組合専務理事でもあった。

【抜書】
●200兆円(p22)
 JETRO(日本貿易振興会)の調査、アフリカの名目GDP総額。
 1990年代、約5,000億ドル。
 2000年、約6,000億ドルに。
 2011年、1兆9,100億ドルに。約200兆円。20年余りで4倍近くに。

●10億人(p26)
 アフリカ大陸の人口。全世界の陸地面積の20%以上に、54カ国、2,500以上の民族・部族。
 1950年、2億2,000万人。
 2011年、10億5,400万人。世界の全人口の七分の一、60年間に約5倍。
 2050年、22億人を超え、世界人口の五分の一になる?

●耕地面積(p28)
 アフリカ大陸には、地球上に残された耕作可能地の約6割がある。

●中国人の作った道路(p48)
 コンゴ民主共和国にて中国人が作った道路は、降水量の調査をしていないので、排水能力以上の雨が降れば冠水し、至るところが陥没する。そのたびに中国人が修理、そのうちまた雨期に入る。延々と中国企業が道路工事を行っている。
 ベルギー植民地時代に地中に埋め込んだ電線を覆っていたケーブルが劣化。中国企業は事前調査をしないので、どこにどのような状態で電線があるのか分からないまま工事。冠水し、地中に流れ込んだ水が電線に触れ、漏電。雨の日に道路を歩いていた子供が感電死する事故が増えている。
 交通量や人と車の動線を無視しているので、事故や渋滞が多発。

●完成前に壊れた空港(p51)
 ボツワナでは、中国企業に発注した空港の建設が、約束の期限が来てもまったく終わらない。空港を造った経験がないので、航空機が離着陸するときの振動を計算できず、飛行機の離陸時、着陸時に必ず窓がガラスが落ちる。そのたびに工事をやり直す。

●中国のニセモノ技術(p57)
 中国人の店で買った電球に取り替えたら、パッと光って消えてしまった。
 1万円の中国製パソコンを買ったら、コンセントにつないだ途端に「ボンッ」と音を立てて煙を上げて動かなくなった。
 鞄は、荷物を入れた瞬間に底が抜ける。

●2010年南アW杯(p71)
 2010年、南アフリカ・ワールドカップに向けての建設ラッシュ、4万人以上の中国人労働者が入ってきた。スタジアム建設などに従事。南アに労働力が不足していたわけではない。ジンバブエ、ソマリア、エチオピアなどからの難民を抱えていた。

●モブツ政権(p78)
 コンゴ民主共和国(1971~1997年はザイール共和国)では、1965~1997年、モブツ・セセ・ココによる独裁が続いた。植民地時代の白人が、影響力を維持するため、強欲で言うことを聞く都合のいい人間に権力を与え、利権を独占させた。
 自分に反発したり、抵抗しないよう、わざと教育を疎かにした。コンゴには、大学院生がたった数人しかいなかった。
 コンゴの地下資源を先進国に売って、莫大な金をスイスの個人口座に振り込ませた。不正に蓄財した個人資産は、30~50億ドル。コンゴ一国の外債の約三分の一。モブツは、世界第3位の金持ちと呼ばれた。

●アフリカ開発会議(p110)
 アフリカ開発会議(TICAD)、1993年より、5年に1度のペースで開催。アフリカ各国の首脳を初め、世界中の国際機関の代表者たちが日本に集い、アフリカの開発をテーマに話し合う。
 1980年代後半、鈴木宗男の秘書を務めていたころ、国会議員に アフリカのことを知ってもらうために、28の議員連盟を作り、日本とアフリカの議員の交流や勉強会などの活動を始める。
 1990年、鈴木が外務政務次官に就任。1993年、東京で初めて「アフリカ開発会議」が開催された。
 第5回会議で、安倍信三首相がアフリカへの3兆2,000億円の出資を表明。また、ボツワナのカーマ大統領が、中国の「ひもつき援助」に関して、「中国が雇用先を確保したいのは分かるが、労働者を連れてくるならそれは『ノー』だ。まず、地元の労働力を最大限に活用すべきだ」と発言。
 中国の「中国・アフリカ協力フォーラム」は、アフリカ開発会議の二番煎じ。2003年から3年おきに中国とアフリカ諸国で交互に開催される。

●タンタルコンデンサー(p141)
 コンゴ民主共和国は、全世界のタンタルの80%を埋蔵。タンタルコンデンサーは、CPUの隣に組み込まれ、電流を調整する役割を果たす。アルミニウムの六〇分の一ほどの大きさで同じ性能を発揮できる。
 携帯電話1台に約20個のタンタルコンデンサーが必要で、2000年には全世界で270億個も製造された。
 現在、コンゴの技術ではタンタルを加工できないので、そのまま輸出するしかない。タンタルを加工したり、新しい製品を開発する技術を持った中小企業や技術者に、コンゴに進出してほしい。日本とコンゴで世界のマーケットをコントロールできるくらいのポテンシャルを秘めた事業になる。日本は半導体で世界を席巻でき、コンゴは経済発展できる上、とんでもない雇用が生まれる。

●アフリカ・ビジネスの水先案内人(p146)
 日本人は、アフリカ諸国が独立した後も、よかれと思ってアフリカのビジネスの水先案内人として白人を使った。それが裏目に出た。奴隷時代や植民地時代を経験したアフリカ人は、白人に対して複雑な気持ちを持っている。そのため、日本のビジネスはうまくいかなかった。
 そして、植民地時代の利権を手放したくないヨーロッパ諸国は、日本がアフリカに進出することは脅威だった。そのため、日本の進出を牽制して来た。
 例えば、20数年前にJALと全日空にアフリカ定期便を出すよう働きかけたとき、フランスなどの航空会社から「やめてほしい」という要請が出た。2015年、ようやく直行便の就航が復活した。
 ヨーロッパ諸国が日本を牽制している間にアフリカに入り込んで瞬く間に影響力を及ぼしたのが中国だった。

●サデック(p169)
 南アフリカやスワジランドなどを含めたアフリカ大陸南部の一帯を「サデック(SADC:南部アフリカ開発共同体)」と呼ぶ。
 もともと、南部アフリカの国々が、アパルトヘイト体制の南アフリカ旧政権の経済支配から自立することを目的に発足した。アパルトヘイト撤廃後に南アフリカも加盟。現在、クーデターの発生により資格停止中のマダガスカルも含め、15カ国が参加。

●2016年(p178)
 2016年、第6回アフリカ開発会議がケニアで開催される。第5回の会議で、安倍首相は、5年間で3兆2,000億円の支援のほかに、企業のアフリカ進出、投資を後押しすると約束。
 第6回の会議までに日本はどれだけの準備ができるのか、日本は本気なのか。どこまでやれるのか。これからの日本とアフリカの行方を占うターニングポイントとなる。

(2016/4/22)KG

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大脱出 健康、お金、格差の起原
 [歴史・地理・民俗]

大脱出――健康、お金、格差の起原

アンガス・ディートン/〔著〕 松本裕/訳
出版社名 : みすず書房
出版年月 : 2014年10月
ISBNコード : 978-4-622-07870-8
税込価格 : 4,104円
頁数・縦 : 351,21p・20cm


 先進国と貧困国。その格差はいかにして生まれたのか。産業革命以後の進歩から格差が生まれたが、しかし一方で、科学の進歩がいかに人類全体の平均寿命の伸張に貢献したか、などについて、「貧困からの大脱走」という視点から語る。

【目次】
 序章 本書で語ること
 第1章 世界の幸福

第Ⅰ部 生と死
 第2章 有史以前から一九四五年まで
 第3章 熱帯地方における死からの脱出
 第4章 現代世界の健康

第Ⅱ部 お金
 第5章 アメリカの物質的幸福
 第6章 グローバル化と最大の脱出

第Ⅲ部 助け
 第7章 取り残された者をどうやって助けるか

【著者】
ディートン,アンガス (Deaton, Angus)
 プリンストン大学の経済学部教授。専門分野は健康と豊かさ、経済成長の研究。イギリス生まれ。米英の市民権を持ち、ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭を執ったのち、プリンストン大学に移籍。2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。現在の研究テーマは、富裕国と貧困国における健康状態の決定因子と、インドをはじめとする全世界の貧困の計測。

【抜書】
●大分岐(p17)
 18世紀から19世紀にかけてイギリスで始まった産業革命。何億もの人々を物質的貧困から救うに至る経済成長のきっかけとなったので、「大分岐」と呼ばれる。
 イギリスにやや遅れてヨーロッパ北西部と北米も著しい発展を遂げ、他の国々を引き離した。
 その結果、欧米諸国とその他諸国の間に築かれた巨大な溝は、今日に至るまで埋められていない。

●聖書(p23)
 大衆が文字を読めるようになったのは、プロテスタントが自力で聖書を読む必要に迫られたから。

●7万ドル(p67)
 所得と幸福感の結びつきは、アメリカでも薄い。
 ある地点(年間7万ドル)を過ぎると、それ以上収入が増えても、幸福感の改善にはつながらない。

●公平な分配(p89)
 何十万年もの間、分け合うことが上手だった個人や集団のほうが、そうでない個人や集団よりも生き延びる確率が高かった。狩猟採集社会は、指導者なしに回っていた平等社会だった。
 有史以前の狩猟者は貯蔵という選択肢をもたなかった。このことが、公平な分配につながった可能性がある。
 ある程度の貯蔵が可能だった地域(赤道付近ではなく、もっと北部の地域)では、社会はより不平等だったとする証拠が見つかっている。

●農業の発明(p90)
 大型野生動物は豊かでバランスの取れた食事を可能にした。その時代、余暇もたくさんあった。
 しかし、それらを狩りつくして絶滅すると、植物や木の実、小さくて捕まえにくいげっ歯類の動物などに食生活を切り替えざるを得なかった。生活水準も引き下げられ、先祖よりも身長が縮んだ。
 さらに、完新世(約1万年前から現在まで)の初めに人口増加と気温の上昇に押されて動物や食用に適した植物が絶え、古い時代の生き方が続けられなくなった。そのために、食料確保を農業に切り替えざるを得なった。
 農業は文明を育んだが、格差も生んだ。

(2016/4/22)KG

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敗戦国・日本とドイツ戦後70年でなぜ差がついたのか
 [社会・政治・時事]

敗戦国・日本とドイツ 戦後70年でなぜ差がついたのか

クライン孝子/著
出版社名 : 祥伝社
出版年月 : 2015年11月
ISBNコード : 978-4-396-61536-9
税込価格 : 1,836円
頁数・縦 : 311p・19cm


 第二次世界大戦の敗戦国となった日本とドイツ。その両国の戦後の歩みの違いを、ドイツを中心につづる。

【目次】
戦後ドイツの「国家百年の計」―大欧州連合の構想は、どこから生まれたか
ドイツ人捕虜一一〇〇万人の運命―悲惨な抑留体験から見る戦争の本質
ドイツはなぜ、反論を封印したのか―一般市民一二〇〇万の過酷体験からドイツが学んだこと
「ニュルンベルク裁判」と「東京裁判」―裁判の受けとめ方に見る日独の大きな差異
情報戦略と諜報機関(その1)―生き馬の目を抜く情報戦の実態と「ゲーレン機関」
情報戦略と諜報機関(その2)―世界の中の「情報欠乏国家」日本の惨憺
再軍備と旧軍人の処遇―旧軍人を復興に活用した国、社会から葬った国
国家の自立、政治家の責任―なぜ日本は目先しか見えず、国益を失うのか
国運を左右するメディアの責任―なぜドイツは、報道の質に対する要求レベルが高いのか
教育は国家百年の大計―戦勝国の指示を聞き流した国、真に受けた国
独自の憲法を持つ国・持たぬ国―なぜ日本は、国家の芯を抜かれてしまったのか

【著者】
クライン 孝子 (クライン タカコ)
 1939年(昭和14年)旧満州生まれ。ノンフィクション作家。ドイツ・フランクフルト郊外に在住。1968年に渡欧、チューリッヒ大学、フランクフルト大学でドイツ文学と近代西欧政経史を学ぶ。滞独生活は45年余に及び、独自の取材源をもとに、海外からの視点で日本を見つめる鋭い提言に定評がある。ドイツ・ジャーナリスト連盟会員。

【抜書】
●フランス外人部隊(p85)
 フランス外人部隊……1831年、主としてアフリカのフランス植民地の番人として創設。
 第二次世界大戦後、外人部隊にドイツ人戦争捕虜の多くが参加、一時、総勢35,000人の三分の二がドイツ人兵士やナチス親衛隊によって占められた。
 インドシナ戦争(1946年)、アルジェリア戦争(1954年)にも多数参加。

●イギリスのドイツ兵捕虜(p88)
 終戦直後、イギリスにはドイツ兵捕虜は2,000人しかいなかった。二重三重スパイの暗躍を恐れ、旧植民地やアメリカに送り込んだ。
 終戦後、各国から捕虜を引き取り、1946年には40万2,200人に達した。農夫としての仕事が主だった。
 最初、イギリス市民の感情は冷たかったが、やがてドイツ兵士の勤勉さや誠実さを目にした彼らは、徐々に家族同様の待遇をするようになった。
 1947年に全員釈放されたが、その時点で2万5,000人がイギリス人女性と結婚し、英国永住権を取得した。

●ヤルタ会談(p113)
 1945年2月、ヤルタにて会談。ドイツ降伏直前。チャーチル、ルーズベルト、スターリン。
 1945年7月、日本の降伏直前にポツダム会議。チャーチルは、会談中に総選挙で敗れ、アトリーにバトンタッチ。ルーズベルトが病死し、トルーマンに。一連の会議にずっと参加していたスターリンが意のままに会議を進めた。

●戦後の日独の違い(p121)
〔 敗戦国は自らの運命すべて戦勝国の裁量に一任するしかなく、程度の違いこそあれ、この法則は、遠い古代も紀元二〇〇〇年を過ぎた今日でも大して変化はない。
 日本とドイツは、そうした敗者に向けられたムチをものともせず、戦後、ひたすら「世界平和」に貢献してきた。何しろ、戦後七〇年というもの、両国は、一度たりとも、自らの武器を取り戦ってこなかったのだ。
 だが、日独両国には根本的な違いがある。
 戦後ドイツは、現実主義的平和を標榜することで、刀の切っ先の鋭利さで、国際社会に対峙しているのに対し、日本は理想主義的平和に足を取られ、シュークリームに蜜を掛けたような甘い絵に描いたような平和に浮かれている。
 「力を正義」とする弱肉強食の時代にあって、負けたとはいえ、少なくとも国を守る体制は固辞するという鉄則を踏まえ、一歩も引かなかったドイツ国家であり、ドイツ国民である。その教訓がドイツ国民には血肉となって、今も生きつづけている。国を守る軍隊機能が崩壊したら、国民は一体どのような悲惨な境遇におかれるか、第二次世界大戦でも思い知らされたからだ。
 一方、日本は第二次世界大戦を「過去の過ち」として葬りさり、片隅に追いやった。その今日の日本の姿が、すべてを語っているといったら、言いすぎになるだろうか。〕

●ラインハルト・ゲーレン(p161)
 ゲーレン、第二次世界大戦敗戦時、43歳、陸軍少将。陸軍参謀本部東方外国軍課長。対ソ諜報活動の責任者にてエキスパート。スターリン体制転覆、「新ロシア国家建設」工作活動に従事。
 1945年4月9日、「ソ連がベルリンを占領する」という報告がヒトラーの逆鱗に触れ、解任される。
 ゲーレンはこのことを想定し、2月の中頃から、仲間や部下とともに、ソ連情報に関する機密資料を隠匿する作業に着手していた。
 敗戦後、同志とともにアメリカに投降、戦争捕虜として取り調べを受ける。
 1946年、ドイツへ戻り、アメリカ占領区フランクフルト郊外のオーバーウーゼルに居を構え、「ゲーレン機関」をスタート。ソ連に対する諜報活動を任務とする。
 独立した機関として、アメリカから財政的支援を受け、にソ連情報を提供する。
 1956年、西ドイツ政府管轄下で「連邦情報局(BND)」となる。ゲーレンが初代長官に。12年間在任、冷戦下での諜報活動に携わる。
 〈ゲーレンの信条〉
 ①アメリカの情報活動、とくにCIA創設に尽力し、アメリカに恩を売り、その信頼を勝ち取ることでドイツを情報大国として国際社会に復帰させる。
 ②共産主義嫌いで、「諸悪の根源」ソ連の崩壊を誓い、生涯をソ連との戦いに費やす。

●中国帰還者連絡会(p248)
 1950年、5年間シベリア抑留生活を送っていた日本人捕虜の一部がソ連から中国に引き渡された。戦犯容疑者として、新たに取り調べるため。撫順(ぶじゅん)戦犯管理所969人、太源(たいげん)戦犯管理所140人。
 6年間、「共産主義思想を身につければ故国の土を踏むことができる」という一心で、身に覚えなのない罪まで認め、中国側の巧妙な洗脳み身をさらした。
 帰国し、「中国帰還者連絡会」を結成し、でっち上げ証言をもとに、「南京虐殺」や「三光作戦」など戦時中における「日本軍残虐行為」を国内や世界に吹聴して回った。
 撫順の日本兵は拷問を受けることなく、「シベリアでの悲惨な状況と、なぜこうも異なるのか」と戸惑った挙句、最後に、「戦時中の犯罪行為は、それを働いた我々ではなく、日本軍のシステムに問題があった」と考えるにいたった。その結果、正真正銘の共産主義者、反日主義者となり、日本での共産化活動に携わるようになった。

●日中記者交換協定(p249)
 1964年、日中両国のあいだで「日中記者交換協定」が結ばれる。
 ①日本政府は中国を敵視してはならない。
 ②米国に追随して「二つの中国」をつくる陰謀を弄しない。
 ③中日両国関係が正常化の方向に発展するのを妨げない。
 1974年の「日中常駐記者交換に関する覚書」に引き継がれ、今も有効。

●宗教教育(p282)
 ドイツでは、小学校入学時から、宗教の授業が義務付けられている。プロテスタントとカトリックに分かれて授業を受ける。
 異教徒でキリスト教の授業を拒む者は、代わりに倫理の授業を受ける。

●ブラウン・チーム(p293)
 ヴェルナー・フォン・ブラウンは、ソ連のセルゲイ・コロリョフと並ぶ、ロケット開発のパイオニア。陸軍兵器局の液体燃料ロケット研究所で、1934年12月、エタノールと液体酸素を推進剤とする小型のA2ロケット(質量500kg)の飛行実験に成功。
 ブラウンのロケット開発研究学者チームを資金並びに軍事面で支援したのが、陸軍大尉ヴァルター・ドルンベルガー。ブラウン・チームを密かにベルリンからバルト海沿岸のウーゼドム島に移す。
 V2(長射程弾道ミサイル)は、1944年9月7日にロンドンやアントワープ等のヨーロッパ西部に発射された。
 敗戦を予測し、ロケット研究継続のため、アメリカに亡命することを決める。今後の宇宙開発に尽力するため、開発に携わった科学者および軍関係者をできるだけ多く引き受けてもらうという条件で。最終的に約500人の科学者・技術者がアメリカに渡り、その多くはアメリカ国籍を取得。
 アメリカは、米軍をロケット製造現場に送り込み、施設を解体して船で本国へ移送。貨車300両以上。
 1958年10月、NASA設立、マーシャル宇宙センター初代所長にブラウン博士が就任。ドルンベルガー(2009年2月、96歳で死去)も要職に就く。

(2016/4/22)KG

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死刑のある国ニッポン
 [社会・政治・時事]

死刑のある国ニッポン (河出文庫)

森達也/著 藤井誠二/著
出版社名 : 河出書房新社(河出文庫 も8-1)
出版年月 : 2015年11月
ISBNコード : 978-4-309-41416-4
税込価格 : 896円
頁数・縦 : 349p・15cm


 死刑廃止派の森と、存置派の藤井による対談集。2009年8月に金曜日より刊行された同名書の文庫化。加筆・修正し、終章を加えた。

【目次】
第1章 犯罪被害者遺族の「発見」
第2章 死刑をめぐる論理と情緒
第3章 オウム後の「風」の吹き着く先
第4章 罪と罰のバランス
第5章 加害者を「赦す」ということ
第6章 死刑とメディア
第7章 裁判員制度と死刑判決
第8章 「死刑を望む感情」は悪か?
終章 裁判員制度導入後、そしてこれからのニッポン

【著者】
森 達也 (モリ タツヤ)
 1956年生まれ。映画監督、作家。自主制作ドキュメンタリー映画『A』、『A2』が高い評価を受ける。

藤井 誠二 (フジイ セイジ)
 1965年生まれ。ノンフィクションライター。高校在学中から様々な社会運動に関わり、高校卒業後、フリーライターに。

【抜書】
●拘置所(p29、森)
 確定死刑囚は、刑務所ではなく、拘置所に例外的存在として拘置される。
 刑務所……懲役刑を科す場所。懲役15年プラス死刑という罰はあり得ない。
 拘置所……刑が確定していない被告人たちが収監される場所。

(2016/4/10)KG

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女性官僚という生き方
 [社会・政治・時事]

女性官僚という生き方

村木厚子/編 秋山訓子/編
出版社名 : 岩波書店
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 78-4-00-061078-0
税込価格 : 1,944円
頁数・縦 : 189p・19cm


■しなやかに働く女性官僚たち
 日本の場合、国家公務員総合職の採用者に占める女性の割合は34.3%(2015年)であるという。ちなみに、国家公務員は、試験合格即採用ということにはならないらしい。合格したら、自分から各省庁に赴き、面接を受けて採用を勝ち取らなければ「官僚」になれないのだ。
 たとえば2008年の場合、女性の申込者は30%超、合格者19.2%、採用者21.7%だった。女性のほうが、採用される率は高いようだ。優秀な女性が多いのか、現場も女性を求めているのか。男女雇用機会均等法が施行されたのは1985年、それ以前は、申込者8.7%、合格者5.5%だった。
 しかし、登用では、2014年9月現在で、国の本省課長・室長相当職以上の女性の割合は3.3%。均等法以前は採用も少なかったから、まだまだ絶対量として女性が少ないという面もあるが、その後の増加を考えると、女性は昇進の機会が少ないと見るべきだろう。
 これらの数字は、先進国の中で最低レベルである。仏、英、米では全職員の半数前後が女性、独、英、米では上位の役職でも30%以上を女性が占める。日本は 上位の役職率が韓国よりも低い。
 しかし、本書に登場する女性官僚たちは、やりがいを感じながら、生き生きと仕事に打ち込んでいる。育児や、働き方に関して葛藤を感じながらも。公務員は、女性にとって(もちろん、男性にとっても)「非常に多面的で、いろいろな仕事があり、自分の得意分野を見つけてそれを生かすチャンスも多い」(p.9、村木厚子)のである。
 17人の女性官僚たちが、仕事へのやりがい、苦労、育児との両立などについてしなやかに語る。そこには多様な生き方がある。

【目次】
第1章 公務員の仕事は「翻訳」(前厚生労働事務次官 村木厚子)
第2章 ワークライフバランスを求めて(内閣人事局 定塚由美子/経済産業省 西格淳子)
第3章 外交の最先端にいる女性たち(外務省 三好真理、千吉良瑞生、岡本佳子)
第4章 出向が拓いた職業人生(衆議院調査局 伊藤和子/財務省 石井菜穂子)
第5章 若手女性官僚たちはなぜ声を上げたのか(厚生労働省 河村のり子/環境省 内藤冬美/財務省 中西佳子)
第6章 「理系女子」の生きる道 技官の仕事(復興庁 佃千加/農林水産省 福本弥生)
第7章 教育と法 社会のインフラに関わる仕事(文部科学省 大類由紀子/法務省 川野麻衣子)
第8章 「社会の防衛」にこそ女性が必要(防衛省 野田優子/警察庁 羽石千代)
第9章 働き方の改革は女性だけでなくすべての男女の問題(厚生労働省 河村のり子/環境省 内藤冬美/財務省 中西佳子)

【著者】
村木 厚子 (ムラキ アツコ)
 1955年高知生まれ。高知大学卒業後、78年労働省(現・厚生労働省)に入省。障害者支援、女性政策などに関わり、雇用均等・児童家庭局長などを歴任。2009年、郵便不正事件で逮捕・起訴されるも10年9月に無罪確定。同月より職場復帰し、13年7月より15年10月まで厚生労働事務次官を務めた。

秋山 訓子 (アキヤマ ノリコ)
 朝日新聞編集委員。1968年生まれ。東京大学文学部卒業。政治部、経済部、アエラ編集部、GLOBE編集部、政治部次長などをへて現職。

【抜書】
●警部補(p154)
 都道府県警察の採用では、巡査、巡査長、巡査部長、警部補と昇任していく。警部補には30代半ばでなることが多い。
 警察庁キャリアの場合、入庁1年目で地方の警察署に警部補として赴任。

●8時帰宅(p173)
 厚生労働省では、塩崎恭久大臣が「8時に帰ろう」と言い出し、2015年3月1日から、各局の総務課で試行的に運用中。
 原則、8時までに帰る。夜10以降は、国会などの他律的な業務を除いて禁止。
 8時には帰れなくても、明らかに早くなっている。

(2016/4/5)KG

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紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす
 [文芸]

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

武田砂鉄/著
出版社名 : 朝日出版社
出版年月 : 2015年4月
ISBNコード : 978-4-255-00834-9
税込価格 : 1,836円
頁数・縦 : 285p・19cm


 紋切型の表現を20個取り上げ、独自の視点で綴ったエッセー。

【目次】
乙武君―障害は最適化して伝えられる
育ててくれてありがとう―親は子を育てないこともある
ニッポンには夢の力が必要だ―カタカナは何をほぐすのか
禿同。良記事。―検索予測なんて超えられる
若い人は、本当の貧しさを知らない―老害論客を丁寧に捌く方法
全米が泣いた―“絶賛”の言語学
あなたにとって、演じるとは?―「情熱大陸」化する日本
顔に出していいよ―セックスの「ニュートラル」
国益を損なうことになる―オールでワンを高めるパラドックス
なるほど。わかりやすいです。―認め合う「ほぼ日」的言葉遣い
会うといい人だよ―未知と既知のジレンマ
カントによれば―引用の印鑑的信頼
うちの会社としては―なぜ一度社に持ち帰るのか
ずっと好きだったんだぜ―語尾はコスプレである
“泣ける”と話題のバラード―プレスリリース化する社会
逆にこちらが励まされた―批評を遠ざける「仲良しこよし」
そうは言っても男は―国全体がブラック企業化する
もうユニクロで構わない―ファッションを彩らない言葉
誰がハッピーになるのですか?―大雑把なつながり

【著者】
武田 砂鉄 (タケダ サテツ)
 1982年生まれ。ライター。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリーとなる。多くの雑誌、ウェブ媒体に寄稿。インタビュー・書籍構成も手掛ける。『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』が初の著作となる。

【抜書】
●ピダハン語(p255)
 アマゾン奥地のピダハン族400人足らずが話す言語。実在するどの言語とも類縁関係にない。
 数値、色彩、方向という概念がない。
 表現は大まかに三つ。①情報を求めるもの(質問)、②新しい情報を明言するもの(宣言)、③命令。
 相手に建設的に気持ちを伝えるための、「ありがとう」や「ごめんなさい」に相当する言葉はない。
 ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』(みすず書房)による。

(2016/4/2)KG

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「リベラル保守」宣言
 [社会・政治・時事]

「リベラル保守」宣言 (新潮文庫)
 
中島岳志/著
出版社名 : 新潮社(新潮文庫 な-66-2)
出版年月 : 2016年1月
ISBNコード : 978-4-10-136572-5
税込価格 : 529円
頁数・縦 : 245p・16cm


 数えてみたら、読書記録によるとこれまでに読んだ中島岳志の著書は、共著も含めて本書で6冊目となる。ひょっとすると記録から落ちている書籍もあるかもしれない。パール判事ものも読んだ記憶があるのだが、リストになかった。読んでないのか?
 それはさておき、穏健な知性と抑制された文章によって綴られた氏の言説は、非常に説得力がある。まさに「中庸」の思想というべきか。氏は、「中庸」に関して以下のように述べている(p.93) 。

〔「中庸」という立場に身を置く者は、「極端なもの」を嫌います。なぜならば「極端なもの」の中には、総合的な平衡感覚よりも偏傾的なイデオロギーを妄信する態度が見受けられるからです。あるいは「極端なもの」には、特定の理性や知性を無謬のものと考え、完全なる世界を設計可能であるとする過信が含まれるからです。〕
〔「中庸」とはあくまでも「総合的なもの」です。いくら時代が動いても、それに随順しない精神のバランス感覚こそが「中庸の精神」なのです。〕

 不完全な人間に「絶対」はありえない。だから、他者との議論を丁寧に積み重ねながら、極端に走らず、社会にとって最良のものを探っていく。それが「リベラル保守」のいき方なのであろうと思う。

【目次】
序章 「リベラル保守」宣言
第1章 保守のエッセンス
第2章 脱原発の理由
第3章 橋下政治への懐疑
第4章 貧困問題とコミュニティ
第5章 「大東亜戦争」への違和
第6章 東日本大震災の教訓―トポスを取り戻せ
第7章 徴兵制反対の理由
第8章 保守にとってナショナリズムとは何か

【著者】
中島 岳志 (ナカジマ タケシ)
 1975(昭和50)年、大阪府生れ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻する。京都大学大学院博士課程修了。2005(平成17)年、『中村屋のボースインド独立運動と近代日本のアジア主義』で、大佛次郎論壇賞とアジア・太平洋賞大賞を受賞する。京都大学人文科学研究所研修員、ハーバード大学南アジア研究所客員研究員、北海道大学公共政策大学院准教授を経て、’16年3月より東京工業大学教授。

【抜書】
●設計主義(p4)
 西部邁『リベラルマインド』(学研)。
 〔この本で西部氏は「自由民主主義は保守主義であらざるをえない」とし、「改革派」の急進性を厳しく諌めました。西部氏が批判していたのは、近代における設計主義的な合理主義でした。人間の理性を過信し、社会計画によって進歩的な理想社会を構築しようと訴えるラディカルな革新主義に対して、西部氏は人間の理性を超えた伝統や良識、経験知に依拠した漸進的改革の重要性を力強く説きました。そして、真にリベラルであるためには、自己の枠組みを歴史の中に求めなければならないと主張し、保守思想こそリベラルマインドを宿していると論じていました。〕
 保守派が疑っているのは、設計主義的な合理主義。一部の人間の合理的な知性によって、完成された社会を設計することができるという発想を根源的に疑う。人間が不完全な存在である以上、人間によって構成される社会は不完全で、人間の作り出すものにも絶対的な限界が存在する。(p115)

●エドマンド・バーク(p15)
 近代保守思想の祖。『フランス革命についての省察』(1790年)にて、フランス革命の破壊的熱狂を批判。
 バーグが愛する自由は、「利己的な自由」ではなく「社会的な自由」(社会的に抑制された自由)。社会が長い年月をかけて育んできた「人間らしい、道徳的な、規律ある自由」。

●寛容(p21)
〔 「リベラル(liberal)」という単語を辞書で調べると、「自由」以外に「寛容」という意味が出てきます。「自由」は常に「寛容」と共に存在します。リベラリズムはそもそも、宗教戦争を繰り返していたヨーロッパ中世末期に宗教的寛容を認める思想として成立しました。そのため、世界観を異にする人々が、違いを越えて同意できる原理こそが、リベラルの名に値するものと考えられてきました。リベラルには本来的に、異なる他者を容認するための社会的ルールや規範、常識の体系が埋め込まれているのです。〕

●テクニカル・ナレッジ(p35)
 社会民主主義は、国家を使った平等社会の実現という構想をもつ。設計主義的合理主義が潜んでいる。
 「テクニカル・ナレッジ(技術的知)」に傾斜するので、技術の適用によって問題は解決すると考える「ポリティカル・エンジニアリング(政治工学)」を重視し、人間社会の複雑さや歴史の継続性を軽視する。

●理想社会(p37)
 保守は、左翼思想の根本の部分を疑っている。「人間の理性によって理想社会を作ることなど不可能である」と保守思想家は考える。

●多数者の専制(p49)
 フランス革命後の権力は、社会を個人に分解し、契約論的社会の構築を目指した。結社や組合などの「中間団体」は、自由競争を妨げる既得権益として排除された。ル・シャブリエ法の制定(「同一身分同一職業の労働者及び職人の集合に関する法」、1791年)。
 しかし、フランスに真の自由主義経済は成立しなかった。特定の商人や生産者の秘密裡の独占的談合の横行と、団結を禁じられた国民が抵抗のすべなく物価の高騰を受け入れるという苦境。
 階級的身分は剥奪され、裸の個人が「平等な主権者」という新しい衣をまとって出現。具体的な存在の根拠の剥奪、抽象化。
 「平等な主権者」という存在が、一方で「均質化した個人」となり、「その他大勢」となった「群集」は、「多数者の気分」を代弁する「後見的権力」に対して、積極的に服従していく。⇒ 多数者の専制。フランスの思想家・政治家アレクシス・ド・トクヴィルの分析。
 歴史的背景、社会的紐帯を喪失した人々は、個別の利益追求に邁進し、パブリック・マインド(公共精神)を失っていった。

●再帰的(p64)
 再帰的=〔特定の価値をいったん客体化した上で、主体的に引き受け直す意志のあり方。〕 
 保守にとって「伝統」は、「再帰的」に受容される。

●人間の規定(p154)
〔 人は、自由意志によって自分の両親を選ぶことができません。生まれる地域、国家、母語なども選ぶことができません。自分の意志によって選んだものではない宿命的な環境こそ、「自分であることの理由」を強く規定し、主体形成の核となっています。
 親から与えられる保育と教育、そこで伝えられる母語、地域社会、共同体……。
 これら自己をめぐる環境が、歴史的に構成された社会的経験知を伝達し、個人の主体を構成します。個人は特定の時間的・空間的環境に基礎づけられることによって自己を形成し、社会的ルールや規範、良識を身につけていくのです。〕

●トポスの論理(p236)
 保守が擁護すべきデモクラシーとナショナリズムは、トポスの論理に基づく。
 国民それぞれが自らの社会的役割を認識し、責任と主体性をもって「場所」を引き受けるところから生まれてくるデモクラシーであり、ナショナリズム。

(2016/4/2)KG

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