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ホモ・フロレシエンシス 1万2000年前に消えた人類
 [自然科学]

ホモ・フロレシエンシス〈上〉―1万2000年前に消えた人類 (NHKブックス)マイク・モーウッド/著 ペニー・ヴァン・オオステルチィ/著 馬場悠男/監訳 仲村明子/訳
出版社名 : NHK出版(NHKブックス 1112)
(上)
出版年月 : 2008年5月
ISBNコード : 978-4-14-091112-9
税込価格 : 1,048円
頁数・縦 : 206p・19cm
 
ホモ・フロレシエンシス〈下〉―1万2000年前に消えた人類 (NHKブックス)

(下)
出版年月 : 2008年5月
ISBNコード : 978-4-14-091113-6
税込価格 : 1,048円
頁数・縦 : 214p・19cm
 
 
  
 インドネシアのフローレス島の、ソア盆地にあるマタ・メンゲと、西フローレスにあるリアン・ブア洞窟における初期人類の発掘調査を基に、ホモ・フロレシエンシスについて報告する。
 考古学的な見地からの学術的解説だけでなく、発掘調査の現場の様子、人類史・動物進化史に関する解説など、多岐にわたる知識を提供してくれて興味深い1冊である。さらには、発掘された、成人女性とみられる「ホビット」の化石標本LB1をめぐる、国立考古学研究センターとガジャ・マダ大学古人類学研究室との確執も、学界の体質をかいま見させてくれて面白い。どの世界にも「ボス」がいて、自分の思い通りに牛耳ろうとするもののようだ。

【目次】
(上)
プロローグ
第1章 フローレス島―足跡をたどって
第2章 聖なる洞窟の発掘物語
第3章 人類、アジアへ
第4章 姿をあらわした謎の骨
第5章 ホモ・フロレシエンシスの正体に迫る
解説 人類の進化と拡散
(下)
第6章 よみがえる初期人類たちの姿
第7章 「島の法則」という進化の不思議
第8章 世界はホビットに息をのむ
第9章 奪われた人骨と論争の行方
エピローグ
解説 ホモ・フロレシエンシス調査研究のドラマ

【著者】
モーウッド,マイク (Morwood, Mike)
 考古学者。オーストラリア・ウーロンゴン大学教授。インドネシア・オーストラリア共同調査チームを率い、ホモ・フロレシエンシスを発見する。2004年にnature誌に発表され、人類進化上の大きなニュースとして世界中に衝撃を与えた。

オオステルチィ,ペニー・ヴァン (Oosterzee, Peny Van)
 作家。“The Story of Peking Man”“Where Worlds Collide: The Wallace Line”などポピュラーサイエンス書を多数執筆。

馬場 悠男 (ババ ヒサオ)
 国立科学博物館人類研究部部長。東京大学大学院理学系人類学博士課程中退。医学博士。専攻は人類形態進化学。

仲村 明子 (ナカムラ アキコ)
 英米文学翻訳家。

【抜書】
《上》
●ブリュンヌ(p35)
 古地磁気年代測定法……地球の核内の流動が変化すると、磁場がまったく逆になることがある。それは、その時に形成される岩石の磁気的特性に記録される。その磁気のNS極に基づく年代測定法。
 磁気の反転は、およそ100万年ごとに起こる。現在は、78万年前から始まるブリュンヌと呼ばれる期間。
 その前のマツヤマ(松山)期は、250万年前から始まり、反対の極を示していた。
 また、大きな反転のあいだに短期の反転もあるので、ある反転がいつのものであるかを判断するのは、非常に難しい。

●ルミネッセンス法(p94)
 遺跡や化石の年代を測定する技術。結晶格子の中に捕らえられた電子の数を計測する。
 バックグラウンド放射能によって、鉱物の中の電子は原子から放たれ、結晶構造の傷の中に捕らえられる。熱や光によって標本を刺激、光子を放出させて捕らえられた電子の数を数える。
 石英や長石の結晶を利用することができる。
 熱ルミネッセンス法(TL)……粒子が最後に熱せられた時を示す。火山性凝灰岩や、焼成土器の中の鉱物を年代測定するのに使われる。
 光励起ルミネッセンス法(OSL)……鉱物の粒子が最後に光に当たった時を示す。

●ライデッカー線(p106)
 ウォレス線(ウォーレス線)……低海水面のときにアジア大陸と地続きになった西のジャワのような大陸島と、地続きにならなかった東の大洋島の間の境界を示す。
 ライデッカー線……大オーストラリア大陸(サフル大陸)棚の西の端を示す。チモール島/モルッカ諸島の南東、ニューギニア島の西を通る。
 この二つの線によって、フローレス島、スラウェシ島、モルッカ諸島などは、スンダ/サフル両大陸棚から隔てられている。両大陸と陸続きになったことはない。

●農業(p126)
 ニューギニアで最も古い栽培の証拠は、パプア・ニューギニアの西部高地、ククからのもの。9000年前までに人々は溝を掘って作物を栽培。クロイモ、ヤムイモ、バナナ。
 揚子江と黄河の間で生まれた中国の農業は、7000年前ごろに台湾に伝播。台湾でオーストロネシア語を話していた人々は、5000年前までにフィリピンへ伝え、さらに4000年前までにボルネオ、スラウェシ、モルッカ諸島、フローレス島を含む東インドネシアの島々に伝えた。

パプア語(p129)
 東南アジア島嶼部では、この5000年の間に、ほぼ完全な言語の置き換えがあったらしい。
 非オーロストロネシア語系の言語は、パプア語のみ。インドネシア東端のハルマヘラとチモール。
 ニューギニアは、パプア語を話す者たちが、オーストロネシア人を寄せ付けないだけの経済的、人口的な余裕を持っていた。

《下》
●大型哺乳類(p40)
 400万年前~200万年前は、哺乳類にとって種分化の時期だった。画期は、370万年前、260万年前、190万年前。
 ウマ……北アメリカで進化、300万年前にベーリング海峡を越え、260万年前にヨーロッパへ、200万年前にアフリカに到着。現代のシマウマに進化。
 ゾウ……アフリカで進化。300~200万年前にヨーロッパへ、200万年前までに北アメリカに到着。
 大型ネコ科……アジアの祖先から進化。アフリカ・ライオンの直接の先祖は、370万年前にアフリカに広がった。チータも同時期にアフリカに拡散。

●島の法則(p62)
 島での矮小化の極端な例。フランス沿岸から25km離れたチャネル諸島およびジャージー島のアカシカ。12万年前、最後の間氷期のころ、6000年以内で体重が六分の一に減った。

●ホモ・フロレシエンシスの特徴(p87)
 ホモ・フロレシエンシス(ホビット)の特徴は、島の法則の特質を多く備えている。
 (1)小型化。短く、がっしりした下肢。大きな足……安定性を増すために動くスピードは犠牲にされた。
 (2)肩と二の腕の特有な構造、太くて長い腕、大きな足、曲がった足指と手指の骨……おそらく木登りが得意だった。
 (3)大きな足は、ほかのどの人類でも進化していないので、フローレス島の特定の環境状況への適用。
 (4)顎と歯は、非常によく噛めるようにできている。大洋島で得られる硬い食物への適合。
 (5)脳容量は380cc程度。原始的な特性を保持しつつ、特異に増大した前頭葉と側頭葉を持つ。独創力や計画のような高い認知活動ができた。賢く、言語を持っていたと考えられる。

(2016/6/26)

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ごてやん 私を支えた母の教え
 [文芸]

ごてやん: 私を支えた母の教え

稲盛和夫/著
出版社名 : 小学館
出版年月 : 2015年11月
ISBNコード : 978-4-09-388399-3
税込価格 : 1,620円
頁数・縦 : 190p・20cm


 稲盛和夫の自伝、人生訓。両親、とりわけ母親の深い愛情によって育まれた崇高な魂が、稀代の名経営者を作ったのである。
 日本の経営者が稲盛さんのような人ばかりだったら、日本はどれほどの一流国になっていただろうか。世界の為政者が、すべて稲盛さんのような考え方をする人たちであったら……。
 それにしても、わがままで泣き虫の「ごてんやん」(ごねる人)が、よくぞ立派な大人に、それも日本一の経営者になったものだ。人の一生とは、子供時代の姿だけでは全く予想できない。人は、いろいろなことを経験し、思い、成長していくんですね。

【目次】
序章 ぜんざいの湯気の向こうに、今も
第1章 泣き虫がガキ大将に
 内弁慶な次男坊
 ごてやんの「三時間泣き」
  ほか
第2章 両親から受け継いだもの
 バランスのとれた夫婦
 士族に木刀の心意気
  ほか
第3章 「人として正しいこと」の基盤
 判断基準のもの
 心のありようが現実を決める
  ほか
第4章 京都大和の家
 心に傷を負った子どもたちのために
 職員の幸せに
第5章 子どもたちに伝えるべきこと
 思いは実現する
 いかにして思いを実現するか
終章 お母さんは神様と同義語

【著者】
稲盛 和夫 (イナモリ カズオ)
 1932年、鹿児島市に生まれる。鹿児島大学工学部卒業。59年、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立。社長、会長を経て、97年から名誉会長。また84年に第二電電(現KDDI)を設立し、会長に就任。01年に最高顧問。10年に日本航空会長に就任。代表取締役会長を経て、15年に名誉顧問。84年には私財を投じて稲盛財団を設立し、理事長に就任。同時に国際賞「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績があった方々を顕彰している。

【抜書】
●一升買い(p81)
 「醤油を5升買えば安くします」と言われれば、ついつい買ってしまう。
 使い切れないからわざわざ多めに使ってみたり、たくさんあるという油断から、乱暴に使ってこぼしてしまったりする。
 しかし、今使う分だけ買うようにすれば、それを大事に、無駄なく使うようになる。
 だから、いま必要なのが1升なら、1升しか買ってはならない。
 これを「1升買い」と呼び、京セラの経営においても原則としてきた。

●『陰騭録(いんしつろく)』(p120)
 今から400年ほど前、明代の袁了凡の書。
 了凡が、学海と呼ばれていた幼いころ、「雲南で易を究めた」というほおひげの立派な老人が少年の家を訪ねてきた。
 「この国にいる袁学海という少年に、私が究めた易の神髄を伝えよという天命が下った。そこで、遠いところからお前さんを訪ねて、わざわざここまで来たのだよ」と言った。
 母親に少年の未来について話し始めた。「この子は医者にはなりません。科挙の試験を受けて、立派な高級官僚として出世をしていきます」。袁家は医者の家系。若くして死んだ父親も医者だった。
 少年の将来を予言。科挙の試験に何番で合格し、云々。「若くして地方の長官となります。結婚はしますが、残念ながら子どもには恵まれず、五十三歳でこの世を去る」。
 その通りになる。ある日、南京に赴き、禅寺の雲谷禅師に教えを請う。座禅に誘われる。禅師は、学海の雑念妄念が一点もない澄み切った姿に姿に舌を巻く。
 学海は、運命通りに生きてきた、それまでのいきさつを語る。
 聞き終えると、ご老師の表情が突然変わり、学海を激しく叱った。
 「若くして素晴らしい境地に達した賢人かと思ったが、あなたはそんな大バカ者だったのか」。
 「たしかにその老人が話した通り、我々にはそれぞれ運命というものが備わっています。しかし、その運命のままに生きるバカがいますか。運命というのは、変えられるのです。人生には、『因果の法則』というものがあり、運命にしたがって生きていく途中で、善いことを思い、善いことを実行すれば、運命はよい方向へと変わっていきます。また逆に悪いことを思い、悪いことを実行すれば、運命は悪い方向へと変わっていくのです。この『因果の法則』というものが、我々の人生にはみな厳然と備わっているのです」。
 妻とともに善きことを実践。その後、子供もでき、70歳過ぎまで生きた。

●人生の目的(p129)
〔 善きことを思い実行することは、運命を好転させるばかりではない。
 実は、善きことを思い、善きことにつとめることを通じて自分の心を磨き、美しくすることは、人生の目的そのものではないかと私は考えている。
 一般的には、人生の目的というと、財産や地位、名誉を築くことのように考えられている。しかしそのようなものは、いくら持っていたとしてもどれ一つとしてあの世へ持っていくことはできない。
 そのような中で、たった一つだけ滅びないものがあるとすれば、それは我々の持つ心、「魂」というものではないかと私は思う。
 死を迎えるときには、現世で作りあげた地位も名誉も財産もすべて捨てていかなければならない。ただ「心」だけを携え、新しく旅立っていくのではないだろうか。
 そのように考えれば、私たちが生きる人生は、善きことを思い、善きことを行うことで、魂を磨き上げるために与えられた時間なのかもしれない。
 生まれてきたときにこの世に持ってきた自分の心を、現世の荒波の中で洗い、磨き、少しでも濁りのない美しいものへと変えていく――
 そのために「人生という名の道場」があるのではないだろうか。〕

(2016/6/24)KG

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アイヌと縄文 もうひとつの日本の歴史
 [歴史・地理・民俗]

アイヌと縄文: もうひとつの日本の歴史 (ちくま新書)
瀬川拓郎/著
出版社名 : 筑摩書房(ちくま新書 1169)
出版年月 : 2016年2月
ISBNコード : 978-4-480-06873-6
税込価格 : 864円
頁数・縦 : 237p・18cm
 
 
 アイヌが縄文人の末裔であるという観点から、本州/日本人と北海道/アイヌの関係を通史的に俯瞰する。

【目次】
第1章 アイヌの原郷―縄文時代
 アイヌと縄文文化
 アイヌと縄文人
 アイヌと縄文語
第2章 流動化する世界―続縄文時代(弥生・古墳時代)
 弥生文化の北上と揺れ動く社会
 古墳社会との交流
 オホーツク人の侵入と王権の介入
第3章 商品化する世界―擦文時代(奈良・平安時代)
 本州からの移民
 交易民としての成長
 同化されるオホーツク人
第4章 グローバル化する世界―ニブタニ時代(鎌倉時代以降)
 多様化するアイヌの世界
 チャシをめぐる日本と大陸
 ミイラと儒教
第5章 アイヌの縄文思想
 なぜ中立地帯なのか?
 なぜ聖域で獣を解体するのか

【著者】
瀬川 拓郎 (セガワ タクロウ)
 1958年生まれ。岡山大学卒業。博士(文学/総合研究大学院大学)。現在、旭川市博物館館長。専門は考古学・アイヌ史。

【抜書】
●雑穀栽培(p13)
 従来、アワ、キビなどの雑穀栽培は、縄文時代から行われたとされてきた。
 しかし、縄文文化を受け継いだと見られるアイヌの遺跡からは、雑穀栽培の確実な証拠はない。クリやマメ類など、いくつかの植物の栽培が認められる程度。主要な食糧ではない。
 雑穀の畑作技術は、弥生時代になって水耕栽培とともに朝鮮半島から伝わった。その後、水田不適地である山間部に人々が進出する中で、雑穀の栽培に従事する人々が現れた。(安藤広道「『水田中心史観批判』の功罪」『国立歴史民俗博物館研究報告185』2014年)

●時代区分(p17)
 現在、北海道に暮らすアイヌの人口は24,000人ほど。
 旧石器文化……6万年ほど前、出アフリカを遂げた現生人類は、約3万5000年前に氷河期の日本列島に到着。
 縄文文化……1万5000年ほど前、気候が温暖化して植生や動物相が大きく変わると、縄文文化に移行。
 続縄文文化……3000年ほど前、九州北部で弥生文化が成立、東北北部でも水稲耕作が始まる。本州の弥生・古墳文化に並行する時期の北海道の文化。北海道では、弥生文化が広がらず。
 オホーツク文化……古墳時代(続縄文文化の後半)から13世紀ころまで。オホーツク人が北海道北端からオホーツク海沿岸に進出。アイヌの文化と並行して存在。
 擦文文化……奈良・平安時代。本州の農耕民の文化が強く及ぶ。穀物調理用のカマドをもつ竪穴住居。土器は本州の土師器を模したもの。
 ニブタニ文化……鎌倉時代以降。13世紀、再び本州の影響が強くなる。住居は平地式に、鉄鍋と漆器椀が流通するようになり、土器は使用されなくなる。アイヌ文化ともいう。

●ブラキストン線(p34)
 ブラキストン線……津軽海峡。
 北海道の縄文文化後半期の遺跡で、イノシシの骨が多数見つかっている。本来、イノシシは、ブラキストン線を越えて北海道に生息していない動物。
 縄文社会では、春の出産期に入手した子イノシシを秋から初冬まで飼育し、これを殺して共食。骨は焼いて占いに使う祭りが行われていた。(新津健『猪の文化史――考古編』雄山閣、2011年)
 アイヌでも同様の祭りが行われていた。イノシシは、東北地方北部から入手。
 ちなみに、この祭りがクマ送りに転化した。

●東北北部のエミシ(p42)
 古代にエミシと呼ばれていた東北北部の人々は、本土の中ではやや偏った遺伝子的特徴を持つ。
 アイヌとの関係を示すというより、出雲地方の人々と似ている。弥生時代から古代にかけて日本列島に渡ってきた渡来人の中でも、特定の時期に渡来して来た人々が関係していた可能性が高い。(斎藤成也『日本列島人の歴史』岩波ジュニア新書、2015年)

●人種の孤島(p44)
 アイヌ=モンゴロイドではない?
 形質人類学者の百々幸雄は、〔アイヌがどの人類集団とも異なる、現生人種という大海に浮かぶ「人種の孤島」であるとし、アイヌと縄文人は「出アフリカ」をはたした現生人類が、ヨーロッパ人とアジア人に分化する以前の状態を保っているのではないかとのべています〕。(百々幸雄「縄文人とアイヌは人種の孤島か?」『生物の科学・遺伝61-2』2007年)
 縄文人は、クロマニヨン人との類似が多くみられる。(山口敏《びん》、鈴木尚《ひさし》)
 形質人類学では、縄文人の形態的特徴は、現生人類の中の古層に属するとみなされてきた。

●抱合語(p48)
 アイヌ語は、音韻対応の点で日本語との関係が無視できない。
 しかし、日本語・朝鮮語・ニヴフ語(膠着語)とは異なり、抱合語という特徴を持つ。文に相当するような内容を1語であらわす。
 「私は君に与える」→「a-e-kore」(私-君-与える)
 「食器」→「a-e-ipe-p」(われわれ-それで-食事する-もの」
 
●孤立言語(p49)
 ユーラシア大陸では、2,500以上の言語が話されている。10程度の語族にまとめられる。アルタイ系言語(トルコ語、モンゴル語、ツングース語)、シナ・チベット系言語、ドラヴィダ語族(タミル語)、オーストロネシア系言語(南島語)、インド・ヨーロッパ系言語、など。
 系統的に孤立した言語は9つ。約半数が日本列島周辺。日本語、アイヌ語、朝鮮語、ニブフ語。
 それ以外は、バスク語、ケット語(西シベリア)、ブルシャスキー語(インダス川上流カラコルム山脈)、ニハーリー語(インド中部)、クスンダ語(東部ヒマラヤ)。いずれも人里離れた辺境地帯の言語。

●出アフリカ古層A型(p49)
 言語学者の松本克己は、言語の構造的な特徴を8つの指標にまとめ、世界中の言語を分類。「RとLを区別するか」「名詞の単数と複数が文法的に区別されているか」、等。(「私の日本語系統論――言語類型地理論から遺伝子系統地理論へ」『日本語の起源と古代日本語』臨川書店、2015年)
 ユーラシア大陸の言語は、ユーラシア内陸言語圏と、太平洋沿岸言語圏の二つに大別できる。
 日本語、アイヌ語、朝鮮語、ニヴフ語は、太平洋沿岸言語圏の北方群としてひとつのグループ、ファミリーを形成する。さらに、人称代名詞の違いを指標にすると、〈日本語・朝鮮語〉〈アイヌ語・ニヴフ語〉の二つに分かれる。
 世界中の言語について、Y染色体の分析によって描かれた人類の「出アフリカ」後の移動の足跡と重ね合わせることができる。日本語等のグループは、「出アフリカ古層A型」とされる、古いタイプの言語に由来する。旧石器時代にこれらの地域に到達した人類が話していた?
 アイヌ語は、出アフリカ古層A型の原型に最も近い言語かもしれない。(木田章義「日本語起源論の整理」『日本語の起源と古代日本語』臨川書店、2015年)
 抱合語……言葉の記憶に負担がかかる。古い形。
 膠着語……変化しない語幹に規則的に接辞をつなげ、省力化する合理的な方法。言語の発展段階として最終段階にある。

●武蔵(p54)
 言語学者のアレクサンダー・ヴォヴィンの説。『萬葉集と風土記に見られる不思議な言葉と上代日本列島に於けるアイヌ語の分布』国際日本文化研究センター、2008年)
 武蔵……munsasi(古代の発音)=mun sa-hi(アイヌ語、草の野原)
 足柄……asigari(古代の発音)=askar-i(アイヌ語、清いところ)

●弥生文化の成立(p65)
 弥生文化は、BC10世紀に九州北部の玄界灘沿岸で成立した。BC4世紀(弥生時代前期末)には、日本海を経由して東北北部まで拡大。青森県でも灌漑施設を備えた水田が営まれる。
 砂沢遺跡(弘前市。弥生時代前期末)では、縄文人が弥生文化を選択的に受け入れたと考えられている。土器にの製作技術や文様に、縄文土器の特徴が色濃く受け継がれている。
 ただし、津軽海峡を越えて水稲耕作の文化が北上することはなかった。

●オホーツク人(p93)
 オホーツク文化……古代サハリンで成立した海獣狩猟・漁撈民の文化。オホーツク人は、現在サハリン北部に暮らす先住民ニヴフなどの祖先集団。靺鞨系文化の人々と深い関係にあった。
 靺鞨……中国の南北朝から唐代にかけて、北方地域(吉林省・黒竜江省・アムール川流域・沿海地方)にいた人々。
 渡海してきたオホーツク人は、道北から道東のオホーツク海沿岸まで拡大し、続縄文人と北海道を二分していた。さらに日本海沿岸を南下、天売島、焼尻島、奥尻島などにも進出。
 『日本書紀』544年の記事に、佐渡島の北にある御名部(おなべ)の海岸に粛慎(あしはせ)という人々が船で来着し、魚を捕りながらそこにとどまったとある。粛慎は、オホーツク人と考えられる。
 660年、越国守の阿倍比羅夫は、200艘の船団を率いて日本海を北上、陸奥のエミシ(東北地方の住民)を乗せ、渡嶋のエミシ(アイヌ)を助けて、弊賂弁嶋(へろべのしま)にたてこもる粛慎を滅ぼした。

●遺棄葬(p112)
 擦文時代になると、墓や墓制が消えてしまった。墓の遺跡が出土しない。
 遺棄葬……死者を家の中などに安置し、そのまま放棄する。家がお墓代わり。擦文時代からのアイヌの伝統だった?
 平安時代には、日本でも庶民の間で風葬や遺棄葬が行われており、墓が見つからない。
(2016/6/24)KG

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小泉純一郎独白
 [社会・政治・時事]

小泉純一郎独白

小泉純一郎/〔述〕 常井健一/著
出版社名 : 文藝春秋
出版年月 : 2016年2月
ISBNコード : 978-4-16-390415-3
税込価格 : 1,080円
頁数・縦 : 157p・18cm


 原発ゼロを目指して運動を続ける元総理大臣との4時間半に及ぶ単独インタビューを単行本化。『文藝春秋』2016年新年特別号に掲載されたものの完全版である。
 永田町の「変人」と呼ばれた小泉であるが、国会の中では自分こそが「常識人」という自己評価が面白かった。本書を読んでいると、結構男気があり、周囲の声を聞き、意向を汲みながら信念を貫く姿は、たしかに現代日本の政治家としては稀有な存在なのかもしれない、と思わせる。

【目次】
小泉純一郎独白
「原発は安全、安い、クリーン。これ全部ウソだ」
「選挙に弱い政治家は圧力に弱いんだよ」
「酒と女は二ゴウまでって(笑)」
「小沢一郎は橋本龍太郎より面白かったな」
「俺なら原発ゼロを総選挙の争点にする」
「安倍さんは全部強引、先急いでいるね」
「議員やめてから靖国に一度も行ってないよ」
「自民党は総理に何言おうが自由だった」
「進次郎の結婚は四十過ぎでいいよ」
「政界っていうのは敵味方がすぐ変わるんだよ」
「『女性遍歴を書いてください』と言われる(笑)」
小泉純一郎 講演先一覧
小泉純一郎の実像を追って

【著者】
常井 健一 (トコイ ケンイチ)
 ノンフィクションライター。1979(昭和54)年茨城県生まれ。旧ライブドア・ニュースセンターの設立に参画後、朝日新聞出版に入社。「AERA」で政界取材担当。退社後、オーストラリア国立大学客員研究員。2012年末からフリー。

(2016/6/24)KG

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日本人が知らない世界中から愛される日本
 [社会・政治・時事]

日本人が知らない 世界中から愛される日本

井沢元彦/著 會田有璃/原案
出版社名 : 宝島社
出版年月 : 2016年2月
ISBNコード : 978-4-8002-5101-5
税込価格 : 1,404円
頁数・縦 : 204p・19cm


 世界の国々、人々が日本に寄せる友好の思いを物語るエピソード集。なぜ、中国と韓国がない!?

【目次】
第1章 江戸時代~第二次世界大戦前の日本と世界
 日本の孤立化を防ぎ、近代化に貢献してくれたオランダ―オランダ王国
 日本への誹謗中傷を打ち消したベルギー男爵―ベルギー王国
 メキシコとの平等条約が日本の主権回復をもたらした―メキシコ合衆国
 感謝が繰り返される日本とトルコの関係―トルコ共和国
 40年で加速したオマーンとの交流―オマーン国
 日本とパラオの友好の架け橋―パラオ共和国
第2章 第二次世界大戦後~今日の日本と世界
 「死ぬ暇ない」と戦後日本のために奔走したポーランドの神父―ポーランド共和国
 日本への援助を惜しまなかったアルゼンチンのヒロイン―アルゼンチン共和国
 パキスタンの繊維産業が日本の復興を後押しした―パキスタン・イスラム共和国
 日本人の墓を守り抜いてくれたウズベキスタン―ウズベキスタン共和国
 日本を分割の危機から救ったスリランカ―スリランカ民主社会主義共和国
 日本人を救ったバングラデシュ独立の立役者―バングラデシュ人民共和国
 モーリタニアの少年の記憶にあった日の丸―モーリタニア・イスラム共和国
 日本人を海賊の手から救ったイエメンの人々―イエメン共和国
 震災当日から各国は支援の手を差し伸べてくれた―阪神・淡路大震災で日本を救ってくれた国々
第3章 東日本大震災における各国からの感謝の贈り物
 日本の応援席に掲げられた「感謝TAIWAN」のプラカード―台湾
 震災後の日本に初めて訪れた国賓・ブータン国王夫妻―ブータン王国
 官民一体で日本に援助の手を差し伸べたルクセンブルク―ルクセンブルク大公国
 震災と津波の被災地から共に助け合うタイと日本―タイ王国
 日本の被災者を元気づけたブルネイ大統領の行動―ブルネイ・ダルサラーム国
 ベネズエラの音楽文化が被災地の街に根づく―ベネズエラ・ボリバル共和国
 自らの食料まで日本に提供したモルディブの人たち―モルディブ共和国
 観光王国ならではのモンゴルの支援―モンゴル国
 サウジアラビアの支援から生まれた復興プロジェクト―サウジアラビア王国
 石巻市に刻まれたチュニジアとの友好の証―チュニジア共和国
 希望の凧がパレスチナと釜石の空を舞う―パレスチナ
 「トモダチプロジェクト」に寄せられた被災者からのThank You!―アメリカ合衆国
 クロアチアの日本大使館で黙祷を捧げたデモ隊―クロアチア共和国
 被災者の心を癒したジャマイカの“芸術的“支援―ジャマイカ
 ヨーロッパ圏で一番支援金の多かったセルビア―セルビア共和国
 大使館もないバヌアツの人々が日本にしてくれたこと―バヌアツ共和国
 被災地に届けられた希望の手紙―日本ユニセフ協会

【著者】
井沢 元彦 (イザワ モトヒコ)
 1954年、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS入社後、報道局(政治部)記者時代に『猿丸幻視行』にて第26回江戸川乱歩賞を受賞(26歳)。31歳で退社し、以後作家活動に専念。歴史推理・ノンフィクションに独自の世界を開拓。テレビ出演や講演活動も積極的に行っている。日本推理作家協会常任理事。2009年4月から、大正大学客員教授(文学部)。

會田 有璃 (アイダ ユリ)
 慶應義塾大学薬学部6年生。高校生の時、ロータリー財団の奨学金で1年間アメリカに留学。大学5年生の時、国際チームでアメリカの有人火星ミッションコンテストに出場、世界1位を受賞した(慶應義塾塾長奨励賞も受賞)。また、大学生OF THE YEAR 2014ファイナリストに選出される。2012年、埼玉県草加市をPRする「草加さわやかさん」に就任。

(2016/6/19)KG

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日本呪縛の構図 この国の過去、現在、そして未来
 [社会・政治・時事]

日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 上
 
R・ターガート・マーフィー/著 仲達志/訳
出版社名 : 早川書房
(上)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-15-209590-9
税込価格 : 2,268円
頁数・縦 : 325p・20cm

日本‐呪縛の構図:この国の過去、現在、そして未来 下

(下)
出版年月 : 2015年12月
ISBNコード : 978-4-15-209591-6
税込価格 : 2,268円
頁数・縦 : 358p・20cm

 
 在日40年に及ぶアメリカ人による、該博な知識に裏打ちされた日本・日本人論。古代天皇制から始まる日本の歴史を概観し、中韓との不和を踏まえつつも、海外から称賛される現在の日本を論じ、将来像としてアメリカと対等な同盟関係を結ぶよう提案する。

【目次】
(上)
第1部 呪縛の根源を探る
 第1章 江戸時代以前の日本
 第2章 日本近代国家の育成
 第3章 明治維新から占領期まで
 第4章 奇跡の時代
 第5章 高度経済成長を支えた諸制度
 第6章 成長の成果と弊害
 付録
  明治の指導者たち
  戦後日本の有力な政治家・官僚たち
(下)
第2部 日本を支配する「歴史の呪縛」
 第7章 経済と金融
 第8章 ビジネス
 第9章 社会的・文化的変容
 第10章 政治
 第11章 日本と世界

【著者】
マーフィー,R・ターガート (Murphy, R. Taggart)
 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授(国際経営プロフェッショナル専攻課程。国際関係・経済学、国際金融市場担当)。1952年、ワシントンD.C.生まれ。15歳で初来日、20代で再来日し、以後40年ほどを日本で過ごす。ハーバード大学(東洋学専攻)卒業、同ビジネススクールMBAプログラム修了。バンク・オブ・アメリカ、チェース・マンハッタン、ゴールドマン・サックスの各東京支社などで投資銀行家として活躍し、1992年に経済評論家として独立。98年筑波大学客員教授、2005年より現職。

仲 達志 (ナカ タツシ)
翻訳家。

【抜書】
《上》
●不平(p26)
〔 外国の作家たちは何世代にもわたって、一体日本の何が彼らをこれほど魅了するのか突き止めようとしてきた。この試みに最大の成功を収めたのは、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)、カート・シンガー、イアン・ブルマ、それに今は亡きドナルド・リチーではないかと個人的には考えているのだが、彼らはいずれも日本人が物事をあるがままに受け入れる点を指摘している。日本人はくどくどと不平を言ったりしない。彼らは「お偉い方々」が見向きもしないような取るに足らないことにも喜びを覚える。救いようのない夢想家(ロマンチスト)で、明らかに空虚な幻想であってもいつまでも自分の夢にしがみつく。確かに「現実」は醜くて安っぽくて下品かもしれないが、だからどうしたというのだ? 日本人に関する論考では「特有の」とか「状況的」といった言葉をよく目にするが、集団として単にどんなことにも矛盾を感じないことにしてしまった人々を描写するには、ひょっとするとそういう客観的で抽象的な用語を使うのが最善の方法なのかもしれない。〕

●やりがいのない仕事(p27)
 〔ほとんどの日本人は、どんな仕事内容でも自分の責任をきわめて真剣に受け止める。欧米ではやりがいのある仕事なら立派な成果を出す価値があるとよく言われる。しかし、日本ではたとえやりがいのない仕事であっても(そしてそのことを誰もが知っていても)、立派な成果を出す価値があると考えられている。最も取るに足らない種類の(ありていに言えば下品な)営利行為においてさえ、日本で経験する礼儀正しさとサービスの質の高さは、海外で日常的に体験するレベルをはるかに超えている。〕

●国民国家(p40)
 国家主権……ウエストファリア条約(1648年)で確立された「地球上の陸地表面は複数の独立した領土に分割され、それぞれの領土内で大きな権限を持つ政府が設立されるべきである」という概念。国民国家こそが領土の単位である。
 国民国家……「文化的・歴史的に一つの構成単位に属することを自覚する人々の集まり」。
 明治維新の日本の支配層は、中国、朝鮮、インド、モンゴルといった他の国家が存在することを把握していたので、「国家主権」の概念に基づいて世界秩序を保つという理想的な考え方を理解していた。

●インペラトール(p43)
 「emperor(皇帝)」の語源は、ローマ時代の「imperator(インペラトール)」。元は軍の最高指揮官に与えられた称号。つまり、軍事的な支配者。
 16世紀に日本を訪れたある西洋人は、この国には「法王」と「皇帝」の両方がいると報告した。法王=天皇、皇帝=将軍と誤認した。

●高貴なる敗北者(p46)
 平家物語……敗者の名前をタイトルに冠している。「高貴なる敗北者」。
 高貴なる敗北者……日本で最古の文化的な元型(アーキタイプ)の一つ。大義への純粋な献身と忠誠心だけに支えられ、勝ち目のない戦いで奮闘を続けて死んでいく英雄像。
 アメリカでは、南北戦争で敗者の将となった南軍のロバート・E・リー将軍。ただし、〔日本文学研究者のアイヴァン・モリスによれば、リーが日本で間違いなく英雄伝説の仲間入りをしたければ、最後のアポマトックス方面作戦で降伏して晩年まで堂々と生き延びたりせず、戦死すべきであったという。〕

●男色(p84)
 〔イエズス会が男色の習慣を執拗に糾弾したことも、日本のエリート層をキリスト教に改宗させる際に足かせとなった。男色(少年愛)は大名や武士の世界ではあまりにも慣行化されていたため、古代ギリシアのアテネやスパルタと比較されているほどである。だがイエズス会の宣教師たちがこの習慣をこれ以上ないほど痛烈に非難したため、日本の支配者層の反感を招く結果となった。〕

●朝鮮支配(p129)
 〔ビスマルクに派遣されたあるドイツ人軍事顧問は日本政府に対し、朝鮮半島は「日本に突きつけられた短刀である」と警告した。朝鮮は伝統的に中国との間に正式な朝貢国としての関係を維持してきた。だがもはや瀕死の清朝が露骨になる一方の欧米列強の介入に抵抗すらできないのを見て、列強は朝鮮に食指を動かすのではないかと日本政府は懸念していた。朝鮮の中国に対する依存状態は明らかで、独立維持に必要な内政改革に着手する能力も意思もかけていた。これらの事実は、朝鮮を欧米列強の植民地化政策の格好の餌食にしそうに思われたのだ。朝鮮が中国以外の国の支配圏に取り込まれることが避けられないなら、それは日本であるべきだと明治政府は心に決めていた。朝鮮国内も中国との伝統的な関係を維持すべきだという考えと日本における明治政府の方針を模範にすべきだという意見に二分されていた。一八九四年には親日派とされる朝鮮人政治家金玉均(キム・オッキュン)が上海で暗殺され、遺体が本国朝鮮に送られると、あらためて体を切り刻む「凌遅刑」に処せられた。この事件は日本国内でも大きな反発を呼び、間接的に開戦の時期に影響したかもしれない。日本は日清両国で協力して朝鮮に内政改革を進めされることを提案したが、清国政府は当然のようにこれを拒否したため、ついに日本も開戦を決意した。〕

●政治的説明責任(p148)
 日本の政治の欠陥は、政治的説明責任の中枢の不在にある。カレル・ヴァン・ウォルフレンによる。

●甘え(p176)
 日本で成功する一番の近道は、権力者にうまく取り入って思い通りに動かす能力を身につけること。
 〔日本人は幼少時から「誘惑のテクニック」を身につけて育つ。なぜなら、日本社会で子供が成功することを望む母親は、ほとんど本能的にそのやり方を教え込もうとするからだ。〕
 〔たとえば「甘え」とは、自分より力のある人間に無理な要求をする振りをすることで、相手に寛大な気持ちを起こさせる行動を意味する。〕
 「誘惑のテクニック」は、江戸時代の権力構造に由来。支配階級の武士が商人などの被支配階級を「無礼討ち」にできるほどの階級差があった。そうしたテクニックを習得できるかどうは死活問題だった。

●中国が望む四つの謝罪(p188)
 中国共産党には、大日本帝国と同等の血塗られた過去がある。しかし、中国と韓国にとって最大の不満は、具体的には次の四点に関して日本政府が明確な声明を出してこなかったから。
 (1)実際に起きた歴史的事実はこうである。
 (2)それらは大部分において日本に責任がある。
 (3)日本はこうしたことが二度と起きないことを確実に保証する。
 (4)変更不能な制度上の改革が行われたので、この保証には信頼を置けるはずである。
 ドイツは、これらの点に関して明確な声明を出すことで近隣諸国を安心させることに成功した。

●予測可能性(p196)
 日本では、歴史的に予測可能性を重視する。
 〔日本人は、とりわけ身近な家族や親しい友人以外の人間関係においては型にはまった行動様式を求め、予想外の行動に嫌悪を示す傾向がある。それは欧米人の目にはほとんど病的に思えるほどだ。この国の人々は言葉に限らず、あらゆるタイプの非言語的なコミュニケーションを通じて自分がどういう社会的立場にあり、どう接してほしいかを意識的に相手に伝えようとする。たとえば、企業間の打ち合わせで名刺の交換が行なわれるのは、お互いに相手の社内における相対的地位を確認するための儀式にほかならない。企業幹部や政府高官の集団内における地位や序列は、彼らが自動車、レストラン、会議室でどこに座るか、職場で席がどの位置にあるかを見たり、お互いの会話で使われている敬語表現を聞いたりするだけで瞬時に判断できる。バーのホステス、主婦、生徒、重役、学者、建設作業員、エンジニア、芸術家などはそれぞれに特徴的な服装をしているため、その社会的地位を一目で品定めできるようになっている。その結果、日本社会における人間関係は予測可能性に基づいているために、常に儀式的様相を帯びることになるのだ。〕

●三池争議(p202)
 1959~60年、九州の三井三池炭鉱で、10か月にわたる長期ストが起こり、戦後の労使の激しい対立が頂点に達した。「総資本対総労働の対決」と呼ばれるようになった。スト参加者の一人が死亡し、約1700人が負傷。
 最終的に左派は敗北し、ストは中止に追い込まれ、安保条約は改定された。三井はストを決行した組合を「御用組合」に置き換えることに成功。
 しかし、この時以来、日本の大手企業は中核となる男性社員の生活を生涯にわたって経済的に安定させることを保証するようになり、これを実現することが企業の最優先事項となった。

《下》
●薄っぺらな知識(p54)
 優秀な若者たちの間に、終身雇用制度が求めるような生き方を望まない者が増えている。
 日本の大企業の場合、自分のキャリア開発に関する決定を100%人事部に委任しなくてはならない。
 こうした制度に身を任せることに乗り気でない若者の数が増えつつある。
 〔彼らが感じているのは、人生で最高の時期を多くの場合、薄っぺらな知識の寄せ集めにすぎない一般的な管理能力の習得に費やすだけでいいのかという疑問である。そんな生き方にしぶしぶ同意するよりも、自分に適性があることを実感できて心から好きになれる職種を選び、そうした仕事に何年も打ち込むことでしか到達できない専門技能の熟達を追求すべきではないのかーー彼らはそう考え始めているのだ。〕

●韓国企業(p78)
 韓国企業が日本企業にとって極めて重大な脅威になった背景。
 (1)韓国には、日本よりも国際化されたエリート層がいる。
 (2)韓国の経済的・政治的制度には日本と比べてはるかに明確な権力構造があり、説明責任の所在もはるかに明白である。結果的に、決然とした意思決定を迅速に行うことが可能になる。
 (3)韓国全体が常に危険と隣り合わせの状態にある。韓国には、日本のように失敗を繰り返しながらどうにか乗り切っていくという選択肢はなかった。

●優れた戦術的能力と社会的結束(p310)
 〔実現不可能な目標ときわめて優れた戦術的能力が融合した結果、日本がまったく別の道を進むようになったケースも少なくない。その可能性が浮上するのは、日本の指導者階級の幻想を突き破る形で動かしがたい現実が顔を出し、それを直視せざるをえなくなった時だった。その状態が実際に起きると、日本は持ち前の優れた戦術能力と社会的結束を組み合わせることでまさに奇跡的としか形容しようのない偉業を成し遂げるのである。たとえば、夷人(西洋の野蛮人)を撃退して鎖国に後戻りすることが不可能であることが明白になった途端に、日本は自らの改革に踏み切った。そして、非西洋世界の事実上全域を呑み込んだ植民地化を未然に防いだだけでなく、自らも侮りがたい大国に成長を遂げたのである。また、八紘一宇を実現しようとした戦争で完膚なきまでに敗北し、アメリカの占領軍が簡単に日本から撤退する意思がないことを明らかにすると、日本は一気に軌道を修正した。そうして、傲慢で威嚇的な大国の陰で「日本らしさ」を失うことなく存続する術を身につけたのである。さらに、石油輸出国機構(OPEC)が世界的なエネルギー価格を強引に押し上げ、恒常的な高値圏を維持することが明らかになると、日本は省エネや経営合理化を驚くほど迅速かつ徹底的に推し進めた。その結果、一九七三年から七五年にかけての世界的不況からどの先進国よりも猛スピードで立ち直ることに成功した。また、一九八〇年代後半にバブル経済が永遠に崩壊し、回復の可能性がないことが明白になると、日本は世界の金融市場で前人未到の偉業を達成した。金融システムが音を立てて崩れ落ちる中で恐慌を回避したのである。〕

●憲法第九条第二項(p311)
 今の日本に必要なのは、シャルル・ド・ゴールのような指導者が登場すること。
 アメリカ政府に対して丁重かつ断固とした口調で、もはや戦後が終わった今、日本は自国の安全保障を自らの手で管理したいと伝えること。
 無理のない期限を定めてすべての米軍基地を閉鎖し、米兵を日本から撤退させること。
 その前提条件として、戦争放棄を定めた憲法第九条第二項は、破棄しなければならない。
 だが、それに代わる改正案は、政府に恣意的に武力行使をする権限を与えるようなあいまいな内容であってはならない。堅固な制度によって守られ、御し難い官僚組織が日本政府を乗っ取るような事態を二度と招かないことが明白でなくてはならない。
 物理的強制力の手段を有する部門とそうでない部門も含めて、官僚機構内のあらゆる勢力が厳重な法的・政治的管理下に置かれた状態を永続させねばならない。
 安全保障体制が厳格な管理下に置かれた後、「日本のド・ゴール」となりうる新たな指導者は、アメリカと真の意味での同盟関係を結ぶことを提案してもいいかもしれない。対等な二国関係。

●アメリカの衰退(p325)
 〔あきれるほどお粗末な見世物と化したアメリカの大統領選挙戦や議会で横行する見下げ果てた政治手法(共和党強硬派が下院議長を辞任に追い込み、要求が通らなければ政府を債務不履行[デフォルト]に陥らせると脅迫した)を見れば、アメリカがもはや自国の運営すら満足にできなくなりつつあることは一目瞭然だろう。日本の指導者層がそんな国に日本の安全保障を依存するのが、結局どれほど危険で無責任な行為であるかは考えるまでもない。階級憎悪や党派性によって分裂したアメリカは、外交努力を見下し、基地と爆弾とドローン攻撃以外に対外的な脅威への対処法を思いつけない軍事官僚によって次第に掌握されつつあるのだ。〕

(2016/6/16)KG

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古代史再検 証蘇我氏とは何か 『日本書紀』に隠された真実 「蘇我氏逆臣説」を覆す
 [歴史・地理・民俗]

古代史再検証 蘇我氏とは何か (別冊宝島 2433)

瀧音能之/監修
出版社名 : 宝島社(別冊宝島 2433)
出版年月 : 2016年2月
ISBNコード : 978-4-8002-4985-2
税込価格 : 1,080円
頁数・縦 : 111p・30cm


 蘇我氏を関する書籍・ムックが、昨年の12月から立て続けに6冊ほど発行されている。この古代の豪族が、いま、ちょっとしたブームなのであろうか?
 本書もその中の1冊である。蘇我氏とは何かについて、多角的に取りあげたビジュアル・ムック。「蘇我氏逆臣説」は『日本書紀』に仕組まれた虚構であるという見方が、近年、注目されているらしい。

【目次】
序章 蘇我氏4代史ダイジェスト
第1章 特別寄稿 歴史作家・関裕二 蘇我氏の謎
第2章 発掘された蘇我氏
第3章 蘇我氏の伝承地を旅する
第4章 蘇我氏の人々
第5章 蘇我氏にまつわる諸説

【著者】
瀧音 能之 (タキオト ヨシユキ)
 1953年生まれ。駒沢大学文学部歴史学科教授。

(2016/6/9)KG

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ひとけたの数に魅せられて
 [自然科学]

ひとけたの数に魅せられて

マーク・チャンバーランド/〔著〕 川辺治之/訳
出版社名 : 岩波書店
出版年月 : 2016年1月
ISBNコード : 978-4-00-005885-8
税込価格 : 2,808円
頁数・縦 : 286p・19cm


 正の整数、1、2、3、……9にまつわる数学エッセー。高校程度の数学力があれば理解できるのであろうが、さすがにΣやらsin(x)、cos(x)などが出てくるとちんぷんかんぷん。半分以上は理解できず、途中から理解することを諦めたが、興味深いエピソードを求めて最後のページまで目は通した。

【目次】
第1章 The Number One
第2章 The Number Two
第3章 The Number Three
第4章 The Number Four
第5章 The Number Five
第6章 The Number Six
第7章 The Number Seven
第8章 The Number Eight
第9章 The Number Nine
第10章 問題の解答

【著者】
チャンバーランド,マーク (Chamberland, Marc)
 グリンネル大学教授。専門:数論。

川辺 治之 (カワベ ハルユキ)
 1985年、東京大学理学部数学科卒、現在、日本ユニシス(株)総合技術研究所上席研究員。

【抜書】
●黄金比(p3)
 黄金比……Φ=(1+√5)/2≒1.618

●A列(p33)
 世界的に利用されている紙のサイズ、A0は、縦横比が1/√2(約0.707)、面積が1平方メートル。
 北米で一般的に使われているレターサイズは、8.5×11インチ、縦横比は約0.773。

●掛け算(p52)
 n=1,2,3,4,……2Nについて、nの2乗を覚えておく。
 x,y=<Nの掛け算は、以下の式で計算できる。
 xy=1/4((x+y)(x+y)-(x-y)(x-y))

●ボロミアン環(p89)
 いくつかの結び目が組み合わさったものを「絡み目」という。
 絡み目を構成する結び目の一つを取り除くと、残りの部分すべてがバラバラになるような絡み目……ブルニアン絡み目。
 ボロミアン環……三つの環でできた、最も簡単なブルニアン絡み目の例。

●ルーローの三角形(p125)
 定幅曲線……円のように、どの方向の最大幅も等しくなる形状。定幅曲線の周長は、定幅×円周率になる(バルビエの定理)。
 ルーローの三角形……円以外の定幅曲線でもっとも単純なもの。ドイツ技術者フランツ・ルーローにちなむ。三つの円弧でできている。ルーローの三角形のそれぞれの「角」は、真向かいの位置にある円弧の中心となる。
 ルーローの三角形の形状的特性を利用すると、ドリルで正方形に近い穴を開けることができる。ただし、錐が回転する際に、その回転軸が円を描くように動かなければならない。チャックと呼ばれる部品が必要。

●エルデシュ数(p196)
 ポール・エルデシュ……20世紀の数学における中心的な人物。ほかのものはすべて捨ててでも数学だけを追求する人生を送った。いくらかの経済的援助と家に泊めてもらうことと引き換えに、数学者と共同研究をするという暮らしを送っていた。
 エルデシュは、1,500編の以上もの論文を発表した。論文共著者は504人。通常、50編も論文を発表できれば、非常に立派な数学者。
 エルデシュ数……それぞれの頂点が数学者を表すグラフを考え、二つの頂点を結ぶ辺はその二人の数学者に1編以上の共著論文があることを意味する(共著グラフ)。エルデシュを中心とするグラフでは、2004年の時点で頂点がおよそ40万個、辺が290万本ある。論文一人当たりの平均著者数は1.51人、一人当たりの平均論文数は7.21編。エルデシュと直接つながる点(エルデシュ数1)は504。一人の隔たりを通してつながる点(エルデシュ数2)は6,593。……エルデシュ数5が87,760……エルデシュ数13が6。

(2016/6/4)KG

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