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ヒトの起源を探して 言語能力と認知能力が現生人類を誕生させた
 [自然科学]

ヒトの起源を探して: 言語能力と認知能力が現代人類を誕生させた
 
イアン・タッターソル/著 河合信和/監訳 大槻敦子/訳
出版社名:原書房
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-562-05342-1
税込価格:3,240円
頁数・縦:365p・20cm
 
 
 人類学の教科書的な内容。化石人類の歴史を辿り、現生人類誕生のなぞに迫る。
 
【目次】
ヒトの太古の起源
二足歩行の類人猿の繁栄
初期のヒト科の生活様式と内面世界
多様なアウストラロピテクス類
闊歩するヒト
サバンナの生活
アフリカを出て、舞い戻る
世界に広がった最初のヒト
氷河時代と最初のヨーロッパ人
ネアンデルタール人とはだれなのか?
新旧の人類
謎に満ちた出現
象徴化行動の起源
初めに言葉ありき
 
【著者】
タッターソル,イアン (Tattersall, Ian)
 アメリカ自然史博物館人類学部門名誉学芸員。ケンブリッジ大学で考古学と人類学、イェール大学で地質学と脊椎動物の古生物学を学び、これまでにマダガスカル、ベトナムなどの世界各国で霊長類学と古生物学の調査を実施。ヒトの化石や進化、認知機能の起源、マダガスカルのキツネザルの生態研究を主な研究テーマとする。
 
河合 信和 (カワイ ノブカズ)
 1947年、千葉県生まれ。1971年、北海道大学卒業。同年、朝日新聞社入社。2007年、定年退職。進化人類学を主な専門とする科学ジャーナリスト。旧石器考古学や民族学、生物学全般にも関心を持つ。
 
大槻 敦子 (オオツキ アツコ)
 慶應義塾大学卒。
 
【抜書】
●トゥーマイ(p31)
 サヘラントロプス・チャデンシス。最古のヒト科で最古の時代のもの。約700万年前?
 2001年、アフリカ中西部のチャドで発見された。大地溝帯のかなり西方。
 ひどくつぶれた頭蓋といくつかの部分的な下顎骨。類人猿のような小さな脳頭蓋と、類人猿ともヒトとも似ていない大きな平たい顔。
 ヒト科に分類された理由……①臼歯にほどほどに厚いエナメル質があり、犬歯は小さく(退縮した犬歯)、下の小臼歯が研ぐような仕組みがない。②大後頭孔(脊髄が頭骨から出る大きな穴)の位置が、顔面に対して頭蓋の下側に位置する、すなわた直立二足歩行の特徴が表れている。
 トゥーマイ……地元民の言葉で「命の希望」を意味する。
 
●アルディピテクス(p34)
 1994年、エチオピア北部のアワシュ川流域のアラミスの堆積岩から、440万年前のアルディピテクス・ラミダスの骨が発見された。
 頭蓋の容積は300~350ccで、チンバンジーと同程度。体の大きさも小型のチンバンジーと同じで、50kg程度。後頭孔がやや前方に移動。犬歯は、小臼歯が研ぐような仕組みがない。
 腕と手の骨は、樹上生活者のもの。
 520~580万年のアルディピテクス・カダッバと合わせて、ヒト科の初期の仲間と考えられる。
 
●運搬角(p51)
 上腿と下腿の骨の骨幹に見られる角度。大腿骨は、膝に向かって内側に斜めに傾斜しているが、体の重さは脛骨と足首を通って足へと真っすぐ下方へかかっている。この形状のため、歩いたり走ったりする時には両足がすぐ近くを通り、体重が片足からもう一方の足へと移るときに重心が左右に移動しなくて済む。
 
●ルーシー(p58)
 アウストラロピテクス・アファレンシス。1974年、エチオピア北東部のハダールで発見される。
 約318万年前。 比較的完全な、約40%の骨格。運搬角が見られる。
 身長1mちょっと、体重27kgほどと推定。
 足が長く、木登りにも適応していた。
 
●ディキカ(p71)
 エチオピア、ハダールからアワシュ川を渡った南。保存状態の良い、330万年前の3歳の幼児個体の骨格の一部が発見された。アウストラロピテクス・アファレンシス。「セラム(平和)」と名付けられた。
 さらに、340万年前の地層から、石器によってしか付けることのできない傷の付いた、哺乳類の骨のかけらが4つ出土した。現在知られている石器は、アワシュ川流域のそれほど遠くない場所で発見された、260万年前のもの。
 
●オルドヴァイ(p121)
 1959年、ルイス&メアリー・リーキーは、タンザニアのオルドヴァイ峡谷で「超頑丈な」アウストラロピテクスの頭蓋の化石を発見し、「ジンジャントロプス」と名付けた。かつて東アフリカ沿岸一帯を支配した「ザンジ」帝国にちなんだ命名。現在は、リーキーの研究の後援者の名を取って、「パラントロプス・ボイセイ」種に分類されている。180万年前のものと判明。
 平坦で強大な臼歯が、小さな切歯と犬歯を完全に圧倒していることから、親しみを込めて「くるみ割り人形」と呼ばれている。
 リーキー夫妻は、オルドヴァイ峡谷で原始的な石器を多数発見した。
 
●トゥルカナ・ボーイ(p142)
 1984年、ケニアのトゥルカナ湖の西側で発見される。正式にはKNM-WT15000。160万年前、ホモ・エルガステル。
 年齢8歳、身長約160cm、体重68kgほど。成長すれば、185cmくらいになった? 一説で180cm以下。
 首から下は、現生人類とさほど変わらない。樹上の隠れ場所から離れて、開けたサバンナを闊歩することに順応したヒト科。
 ホモ・エルガステル……「働く人」という意味。早期アフリカ型ホモ属。サピエンスの直接の祖先?
 
●脊柱の幅(p158)
 脊柱は、上体を支えるだけでなく脳から下へと脊髄を通しており、その脊髄から伸びる神経網を介して体の残りの部分を制御したり、そこから情報を受けたりしている。
 脊髄の通る管の幅は、ヒト科を含むすべての霊長目でほぼ同じ。しかし、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、脊髄が通る管の幅が、肺のある胸部で異常に広くなっている。胸郭と腹壁の筋肉に繋がる増加した神経組織を収容している。その神経は、呼吸のコントロールを強化するためのもの。発話に用いる音の微妙な調節に必要な細かい制御を行う。
 
●オメガ3脂肪酸(p164)
 ホモ・エルガステルが、脳を大きくするために用いたエネルギーは、動物性蛋白質と脂肪。魚釣りによって、そのエネルギーを確保していたのかもしれない。
 水生動物は、脳が正常に機能するために重要なオメガ3脂肪酸などを豊富に含む。
 オメガ3脂肪酸などは、類人猿の小さな脳を維持するくらいの限られた量であれば、体内で生成される。しかし、大きくなった脳に必要な量は、食生活で補うしかない。
 過去200万年ほどの間にヒト科の脳が大きくなるにあたっては、魚など水中に棲む動物の摂取が一つの前提条件になったのかもしれない。
 
●シラミ(p167)
 ほとんどの哺乳動物には、1種類のシラミしか寄生しない。しかし、ヒトには、2種類が寄生している。
 頭髪に棲むアタマジラミと、陰毛に棲むケジラミ。アタマジラミは人間に固有で、体毛に覆われていた頃から体中にいたものの名残。ケジラミはゴリラから移った。
 ヒトとゴリラのケジラミの分岐は、300万~400万年前。そのころから、ヒトは体毛を失っていた? アウストラロピテクス・アファレンシスの時代?
 
●順応(p176)
 〔私たちは一般に時として劇的に変動する世界で、変わりゆく外部の環境にいつも柔軟に対応し続けることで特殊化する危険を避けてきた。ヒトは主として変化に適応してきたのではなく、むしろ順応してきたのである。〕
 
●パナマ地峡(p212)
 300万年前、北アメリカと南アメリカが衝突してパナマ地峡ができた。
 温かい太平洋の水が大西洋へと循環しなくなり、アフリカで冷却と乾燥が加速、北極圏で氷冠の形成が始まった。
 アフリカで、草原に適応した草食哺乳類が激増し、それよりも古い、主に木の葉を食べる種類が姿を消した。
 その時代の動物相の変化に示される環境の移り変わりが、ホモ属が誕生するための最も重要な刺激になった、と考える研究者もいる。
 
●MIS(p218)
 古気候学者は、更新世の開始以降に102の異なる「海洋酸素同位体ステージ(MIS)」を特定し、最新のものから順に番号を割り振った。そのため、温暖なステージには奇数が、寒冷なステージには偶数が当てられている。
 現在は暖かいMIS1、最後の氷河期はMIS2。ステージ5は、さらにa、b、c、d、eに分けられ、最古の5eは、非常に温暖だったため、海面は現在より5、6メートルも高かった。
 前期更新世は、気温の変動が頻繁だったが、それほど顕著ではなかった。現代に近づくにつれ、変動の間隔は広がり、差異は大きくなっている。
 
●ホモ・アンテセソール(p219)
 スペイン北部のアタプエルカ山地にあるシマ・デル・エレファンテの遺跡で、120万年前のホモ属の下顎が発見された。同じアタプエルカのグラン・ドリナ遺跡で見つかった78万年前のヒトの化石とともに、「ホモ・アンテセソール」に分類された。二つの遺跡の粗雑な石器には大きな違いがない。
 ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の共通の祖先であるかどうかは不明。
 グラン・ドリナの骨には、カニバリズムの証拠が残されている。石器を使って、他の草食獣と同じように処理されていた。
 
●ネアンデルタール人(p243)
 ネアンデルタール人の骨の窒素15/窒素14の比率の分析によると、その値はオオカミ、ライオン、ハイエナと同等のレベルだった。食性に占める肉の割合が多いことを示している。
 サン・セゼールの遺跡の後期のネアンデルタール人は、同じ遺跡のハイエナよりも高い。マンモスとケブカサイを狩っていた可能性が高い。
 
●エル・シドロン(p246)
 エル・シドロンにある5万年前のネアンデルタール人の遺跡。成体6、青年期3、少年期2、幼児1の計12体の壊れた遺骨に、カニバリズムの証拠。歯のエナメル質減形成という環境ストレスの形跡があり、食生活は厳しかった。「美食としてのカニバリズム」ではなく、「生き残るためのカニバリズム」だったと推定される。12体は、一つの社会集団で、他の集団に襲撃され、食べられた。
 mtDNA分析の結果、3個体の成人男性は同じmtDNA系統、女性はそれぞれ異なる系統。つまり、男性は生まれた集団に残り、女性は離れる。
 
●ムスティエ文化(p251)
 調整された石核を作る石器づくりの技法の一種。ネアンデルタール人の石器文化。予想通りにきれいに割れる石材の調達が重要だった。
 もっとも特徴的な石器は、程よい大きさの尖頭器と、両側縁が凸上のスクレイパー、剥片で作られたタイプの涙滴型のハンドアックス。
 
●シャテルペロン文化(p259)
 フランス西部とスペイン北部に点在して見つかる石器。ムスティエ文化とオーリニャック文化の両方の特徴を兼ね備えている。3万6000~2万9000年前。
 オーリニヤック文化……上部旧石器時代の最初の文化。
 ムスティエ文化の「剥片」の石器だけでなく、骨や象牙で作られた道具と並んで、オーリニャック文化の石器の主な特徴である「石刃」も見られる。石刃は、長さが幅の2倍ほどある細長い剥片。クロマニヨン人を代表する石器。
 ※著者は、シャテルペロン文化がネアンデルタール人のものと示唆しているが、「監訳者あとがき」では、最近の研究により、早期現生人類のものとされる。(p328)
 
●珪質礫岩(p285)
 南アフリカのピナクルポイント遺跡では、7万2000年前ごろ、石器にはあまり良質ではない珪質礫岩(シルクレート)を、適度に熱してから手の込んだ段階を経て冷やし、硬くする技術を開発していた。
 この技術はあまりに複雑で、あらかじめ計画を立てておかなければならない段階が数多く含まれる。原因と結果の長い連鎖を概念として捉えて心の中に描くことのできる精神が必要。
 
●志向性(p301)
 心の理論。
 ヒトは、類人猿にはないような種類の向社会性――他者への配慮――ばかりでなく、一歩距離を置いた傍観者のような社会性という特徴も併せ持つ特殊な社会性を示す。
 ヒトは、自分が考えていることが分かっており(一次志向性)、他者が考えていることを推測でき(二次志向性)、自分以外の人間が第三者について考えていることを想像することができる(三次志向性)。
 ヒトは、六次の志向性までは何とかなるが、そこから先は頭が混乱する。
 
●連続創始者効果(p304)
 祖先となる集団内に子孫となる集団が芽生えて離れていくたびに、その個体群のサイズが小さくなって生じる現象。子集団が増えるたびに、ボトルネック効果の影響で、遺伝子の多様性が失われていく。集団遺伝学者によく知られている事象。
 世界中の言語の音素の数にも、この法則が当てはまる。
 ニュージーランドの認知心理学者クエンティン・アトキンソンは、世界中の言語で音素の分布を調べた。その結果、アフリカから離れれば離れるほど、音素の数が少なくなる。
 アフリカのきわめて古い、舌打ちするような「吸着音(クリック)」言語のいくつかには、100個を超える音素がある。英語では45個、ハワイでは13個しかない。ハワイは、地球上で最後に人間が植民した土地の一つ。
 アトキンソンの分析では、収束点がアフリカ南西部にある。
 
●ネアンデルタール人、ホモ・フロレシエンシス(p327、河合)
 最近の放射性炭素年代測定法の較正値によると、ネアンデルタール人の絶滅は、2万6~7000年前ではなく、4万年前。ヨーロッパでの現生人類との共存期間は、5000年程度。
 4万5000年前ごろからムスティエ文化の遺跡は次第に細り、4万年前には消滅した。
 リャン・ブア洞窟で発見されたホモ・フロレシエンシスのLB1骨格の年代は、1万2000年前ではなく、10万~6万年前。新しく見積もっても5万年前。この時期、現生人類はまだオーストラリアに到達していない。現生人類と遭遇していない可能性が高い。
 
(2017/5/5)KG
 
〈この本の詳細〉


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