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愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界
 [自然科学]

愛しのオクトパス――海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界

サイ・モンゴメリー/著 小林由香利/訳
出版社名:亜紀書房
出版年月:2017年3月
ISBNコード:978-4-7505-1503-8
税込価格:2,376円
頁数・縦:344, 5p・20cm


 タコには三つの心臓があり、人間の脳にあるのと同様なニューロンが8本の足に存在するという。雄と雌の見分け方は、目から右に数えて3本目の足を見る。尖端に吸盤がないのが雄。この足は、交接器となっている……。
 タコは、5億年前に分岐して人類とは異なる進化の道筋を歩んできたが、ひょっとすると水中生物のなかでもっとも賢い存在なのかもしれない。好奇心旺盛で、「知性派」のタコとの、そしてタコを愛する人々との交流を描いたエッセーである。
 欧米人は、タコを怪物・妖怪のたぐいと思っているらしいが、日本人は違う。タコを目にすると、まずは「美味しそう」と思ってしまう。そんな我々を、タコは怪物・妖怪と思っているかもしれない。

【目次】
第1章 アテナ―軟体動物の心と出合う
第2章 オクタヴィア―ありえないはずなのに 痛みを味わい、夢を見る
第3章 カーリー―魚が結ぶ縁
第4章 卵―始まり、終わり、変貌
第5章 変貌―海のなかで息をする
第6章 出口―自由、欲望、脱出
第7章 カルマ―選択、運命、そして愛
第8章 意識―考え、感じ、知る

【著者】
モンゴメリー,サイ (Montgomery, Sy)
 ナチュラリスト、作家。大人向け、子供向けのノンフィクション20冊を執筆、高い評価を受けている。大人向けの『幸福の豚―クリストファー・ホグウッドの贈り物』(バジリコ)は全米ベストセラーに。オウムの保護活動を取り上げたKakapo Rescueで良質の子供向けノンフィクションに贈られる「ロバート・F・サイバート知識の本賞」を受賞。アメリカの動物愛護団体「全米人道協会(HSUS)」およびニューイングランド書店協会の特別功労賞、3つの名誉学位など、数々の栄誉に浴している。

小林 由香利 (コバヤシ ユカリ)
 翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。

(2017/4/20)KG

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最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く
 [自然科学]

最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く

ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー/著 櫻井祐子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2016年11月
ISBNコード:978-4-16-390559-4
税込価格:1,782円
頁数・縦:300p、図版12p・20cm


 大学院博士課程在学中の研究者による、氷河期=後期旧石器時代の洞窟などの遺跡に残された「芸術作品」に関する考察。特に、抽象的な図形に着目し、それらのデータベースを構築中である。それは文字なのか、単なる落書きなのか、それともシャーマンの幻覚なのか?

【目次】
古の人類が残した記号
何のために印をつけたのか?
人類のはるか以前に道具を使った者たち
死者をいたむ気持ちの芽生え
言葉はいつ生まれたのか?
音楽の始まり
半人半獣像とヴィーナス像
農耕以前に布を織っていた
洞窟壁画をいかに描いたか?
欧州大陸に到達以前から描いていた
唯一の人物画
遠く離れた洞窟に残される共通の記号
それは文字なのか?
一万六千年前の女性の首飾りに残された記号群
壁画は野外にも残されていた
最古の地図か?
トランス状態で見える図形なのか?
データベースを世界の遺跡に広げる

【著者】
ボン・ペッツィンガー,ジェネビーブ (von Petzinger, Genevieve)
 古人類学者。カナダ・ビクトリア大学人類学博士課程在学中の研究者。これまで、顧みられていなかった氷河期の洞窟に残された記号に注目し、カメラマンの夫とともにもぐって採取。欧州の368カ所の洞窟を調べ上げ、5000以上の記号を収集し、世界で初めて氷河期における幾何学記号のデータベースを作りあげた。ナショナル・ジオグラフィックの『2016年・新世代の探求者』(Emerging Explorer)に選出。「ナショナル・ジオグラフィック」誌や「ニュー・サイエンティスト」誌をはじめとするメディアからも注目を集めている。

櫻井 祐子 (サクライ ユウコ)
 翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中の96年、オックスフォード大学で経営学の修士号を取得。98年よりフリーの翻訳者として活躍。

【抜書】
●12万年前の芸術作品(p12)
 20万年前に現生人類が現れたが、現代に通じる人間の精神の創造性(=芸術)を十全に活用するようになったのは、いつか?
 現代的思考の兆しがかすかに見え始めるのは、12万年前のアフリカ。彫刻が施された骨や、赤いオーカー(赤鉄鉱)や首飾りが入れられた墓などが散見される。
 10万年前以降になると、幾何学模様(線、格子型、山形など)が刻まれたポータブルアート(持ち運びできる芸術品)が現れ始める。
 5万年前、岩壁画や小像、首飾り、複雑な埋葬、楽器が大量に出現し始める。
 これらの芸術的慣習のすべてが、10万年以上前に話し言葉が完成していたという通説を裏付けている。

●ツインリバーズのオーカー粉(p42)
 ザンビアのツインリバーズという丘の上の洞窟。30~26万年前の遺跡に、オーカーを粉末にした跡が残されている。現生人類以前の遺跡。
 オーカーは、酸化鉄を主成分とする石。洞窟の壁に塗る赤色をはじめとする塗料を作るのに用いられる無機顔料。
 オーカーの粉は、道具などの接着剤、虫除け、皮なめし、止血などの治療用としても使われる。
 ツインリバーズの住人は、真っ赤なオーカーのとれる鉱床に頻繁に通っていた。日常利用ではなく、象徴的表現のためにオーカーを使っていた可能性がある。

●ベレハット・ラムの小像(p43)
 イスラエル北部のゴラン高原地域にある死火山のクレーターの近くで見つかった、23万年前の遺跡。
 長さ4cm未満の火山岩の「小像」が出土。人の形に似た石に、3本の溝が掘られている。1本は首のくびれ、2本は腕を模したU字型。「乳房」を強調するために道具で彫られたと考えられる跡もある。肉感的な女性のようなオブジェとなっている。
 世界最古の具象的な芸術作品?

●ブロンボス洞窟の絵の具セット(p69)
 南アフリカの西ケープ州の荒涼とした吹きさらしの丘の斜面にある。現生人類が10万年~7万年前ごろまで居住していた。海岸線から800mほど離れていたが、海洋資源を積極的に利用していた。
 ブロンボスで、10万年前の二つの「絵の具セット」が発見された。顔料を調合するためのアワビの貝殻、赤いオーカーと、骨粉を加熱して抽出した骨髄油、炭の粉、石英粒、石片、など。これらの原料に水や尿などの液体を混ぜて顔料が作られた。貝殻の内側には水面の高さを示す「水位標」が何本か付いていた。
 オーカーを砕くのに使われた石と、出来上がった化合物を物や体などに塗るのに使われた赤く染まった骨が、貝殻のすぐそばで発見された。
 オーカーの最も近い産地は、2.4kmから4.8kmは離れていた。
 ほかの生活遺物が見つかっていないので、短期滞在者だった可能性が高い。
 複数の幾何学的模様の付いたオーカーのかけらも発見されている。抽象模様の付いた最古の芸術品? しかし、単純すぎて、意図的につけられたものかどうか不明。

●ディープクルーフのダチョウの卵(p78)
 南アフリカの西ケープ州ケープタウンの北にあるディープクルーフ岩陰遺跡。
 8万5000~5万2000年前の地層で、模様が刻まれたダチョウの卵殻の破片が発見された。この幾何学模様は、どう見ても意図的に付けられたもの。これまでに400片以上が出土している。
 たった5種類のデザインとわずかなバリエーションが、3万年以上の間使われていた。模様は、意図的に標準化されていたと思われる。世代を超えて模様を伝えていた。

●エル・カスティージョ洞窟(p145)
 世界最古の岩壁画。紅茶の受け皿ほどの大きさの赤い円盤状の壁画。少なくとも4万800年前。

●後期旧石器時代の4区分(p149)
 ヨーロッパの氷河期(後期旧石器時代)は、以下の4つに区分される。
 オーリニャック期……4万年~2万8000年前。エル・カスティージョの赤い円盤、ドイツのホーレンシュタイン・シュターデルのライオンマンは約4万年前。3万7000~3万5000年前の最古のフルート(骨製、象牙製)、フランスのショーヴェ洞窟遺跡、など。
 グラヴェット期……2万8000~2万2000年前。後期旧石器時代の黄金期。石器製作の技術が大幅に進歩。入念な埋葬行為。象徴的な芸術作品が多く生み出される。ロックアートよりもポータブルアートのほうがよく知られる。ドルニ・ヴィエストニッツェ遺跡。気候変動により、グラヴェット期の終期にヨーロッパ北西部から南方への人類大移動が始まった。
 ソリュートレ期……2万2000~1万7000年前。最終氷期最盛期(LGM)。さまざまな集団の密集化により集団間の交流が密になり、氷河期末期の「芸術の爆発」と社会の複雑化が引き起こされた。岩絵遺跡は集会所や儀式の会場となり、この時期の社会の統合に役立った。複雑な線刻画が特徴。
 マドレーヌ期……1万7000~1万1000年前。人類が再びヨーロッパ全域に拡散。現在知られている岩絵遺跡のうち約75%がこの時期のもの。

●アッダウラ洞窟(p171)
 シチリア島ペッレグリーノ山の1万3000~1万2000年前の遺跡。17人の人間が描かれた線刻画。人物の大きさは平均すると20cm程度。写実的で躍動感にあふれている。
 チュニジアと200km。北アフリカの影響を受けているかもしれない。

●ゲシュヴィント領域(p198)
 脳の領域。頭頂葉にある。側頭葉のウェルニッケ野の近くにある。
 文字言語であれ音声言語であれ、頭に入ってきた言葉の理解とふるい分けを司る。

●文字の定義(p206)
〔 文字体系を定義する方法はいろいろあるが、最も基本的なところでいうと、「耐久性のある面に書かれた、視覚的で慣習化された記号を利用する、相互コミュニケーションのシステム」である。〕

●トランス状態(p273)
 最近の神経心理学研究によると、トランス状態にあるシャーマンのように「意識変容状態」にある人には、一定の抽象図形が見える。
 網目、ジグザグ、点、渦巻き、懸垂曲線(紐の両端を持って垂らしたときにできる曲線)などの幾何学形状をとり、光り輝き、点滅し、移動し、回転し、拡大するパターンとして認識される。
 トランス状態に陥ると眼圧が高くなり、網膜内の細胞が発火して幾何学的な模様が見える。どんな文化的背景を持っている人でも同様。

(2017/4/17)KG

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つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
 [自然科学]

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線 (ブルーバックス)
 
理化学研究所脳科学総合研究センター/編
出版社名:講談社(ブルーバックス B-1994)
出版年月:2016年11月
ISBNコード:978-4-06-257994-0
税込価格:1,253円
頁数・縦:322p・18cm


 脳科学の最先端を、BSI(Brain Science Institute:理化学研究所脳科学総合研究センター)で行われている研究の紹介を通して解説。サイエンスライターの丸山篤史がインタビューを元に原稿を執筆。

【目次】
第1章 記憶をつなげる脳
第2章 脳と時間空のつながり
第3章 ニューロンをつなぐ情報伝達
第4章 外界とつながる脳
第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み
第6章 脳と感情をつなげる神経回路
第7章 脳研究をつなげる最新技術
第8章 脳の病の治療につなげる
第9章 親子のつながりを作る脳

【著者】
利根川進 (トネガワ ススム)
 1939年生まれ。京都大学理学部卒業。カリフォルニア大学サンディエゴ校博士課程修了。1987年、「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞。2009年より、理化学研究所脳科学総合研究センター センター長。

藤澤茂義(フジサワ シゲヨシ)
 1977年、岡山県生まれ。京都大学工学部卒業。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。米国ラトガース大学分子行動神経科学センター、ニューヨーク大学医学部神経科学センター研究員などを経て、2012年より、システム神経生理学研究チーム チームリーダー。

合田裕紀子(ゴウダ ユキコ)
 1962年、兵庫県生まれ。トロント大学理学部卒業。スタンフォード大学生化学科大学院博士課程修了。カリフォルニア大学サンディエゴ校理学部助教授、英国MRC細胞生物学ユニット(ロンドン大学)シニアグループリーダーなどを経て、2011年より理化学研究所脳科学総合研究センター シナプス可塑性・回路制御研究チーム チームリーダー。2015年より副センター長も兼務。

風間北斗(カザマ ホクト)
 1978年、米国ミシガン州生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学系研究科物理学専攻博士号取得。ハーバード大学大学院医学系研究科神経生物学科博士研究員などを経て、2010年より知覚神経回路機構研究チーム チームリーダー。2011年からは東京大学大学院総合文化研究科特任準教授も務める。

豊泉太郎(トヨイズミ タロウ)
 1978年、東京都生まれ。東京工業大学理学部卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。米国コロンビア大学博士研究員などを経て、2011年より神経適応理論研究チーム チームリーダー。2013年から3年間、東京工業大学大学院総合理工学研究科連携准教授も兼任した。

ジョハンセン, ジョシュア(Johansen, Joshua)
 1973年、米国カリフォルニア州生まれ。米国コロラド大学ボルダ―校心理学専攻卒業。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校神経科学専攻博士課程修了。ニューヨーク大学博士研究員を経て、2011年より記憶神経回路研究チーム チームリーダー。2015年からは、東京大学大学院総合文化研究科客員准教授も兼任。

宮脇敦史(ミヤワキ アツシ)
 1961年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員などを経て、1999年より理化学研究所脳科学総合研究センターに勤務。現在、副センター長、細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー。

加藤忠史(カトウ タダフミ)
 1963年、東京都生まれ。東京大学医学部卒業。滋賀医科大学精神医学講座助手、東京大学医学部精神神経科講師などを経て、2001年より精神疾患動態研究チーム シニア・チームリーダー。2015年から副センター長を兼務。

黒田公美(クロダ クミ)
 1970年、東京都生まれ。京都大学理学部物理系卒業。その後、大阪大学医学部に入学、同大大学院医学研究科博士課程修了。カナダ・マギル大学博士研究員として留学した2002年から親子関係の研究を始める。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2015年より親和性社会行動研究チーム チームリーダー。

【抜書】
●エングラム(p24、利根川)
 ある出来事を記憶することによって脳内に起こり維持される物理的・化学的変化のことを「記憶のエングラム(痕跡)」という。
 記憶のエングラムセオリー……エングラムを作ることによって記憶ができたり、エングラムを保持している細胞群の発火でその記憶が思い出せされたりするというアイディアのこと。

●過誤記憶(p33、利根川)
 過誤記憶……False memory。現実に経験したことがないのに、あたかも経験したがごとく記憶ができてしまう。

●ヘブ則(p53、利根川)
 ヘブ則、ヘブの法則。
 シナプスを介したニューロンの信号伝達では、伝達効率(信号の流れやすさ)が変化する。よく使われるシナプスの伝達効率は上がり(シナプスの強化)、あまり使われないシナプスの伝達効率は下がる。
 伝達効率を決めているのは、シナプスにおける神経伝達物質の放出量、神経伝達物質を受け取るレセプターの数、シナプスそのものの大きさなど、様々な要因がある。

●スパイン(p54、利根川)
 スパイン……シナプス後部(神経伝達物質を受け取る側)にある構造。ここで刺激を受け取る。エングラムセルを刺激するスパインの数が多ければ、それだけ想起しやすくなる。
 初期アルツハイマー病においては、一般に海馬細胞のスパインの数が異常に少ない。初期アルツハイマー病は、記憶できないのではなく、記憶したものを想起できない症状。
 スパインを増やせば、初期アルツハイマー病の治療につながる可能性がある。

●ノンレム睡眠(p79、藤澤)
 あるラットの研究によると、睡眠中に、場所細胞の圧縮表現によるリプレイが行われていた。
 ノンレム睡眠中はリップル波(回顧や予定しているときと同じ)の上に、レム睡眠中はシータ波(歩行中と同じ)の上に圧縮されていた。夢を見ていない時には圧縮されて、夢を見ているときには歩行中と同じ速さでリプレイされていた。
 リプレイは、神経回路の強化に機能していると考えられている。

●視床室傍核(p273、加藤)
 双極性障害は、ミトコンドリアDNA機能障害によって起こると考えられている。うつ状態のマウスで、ミトコンドリアDNAの変異がたまっているところは、「視床室傍核」だった。
 視床室傍核……視床上部と呼ばれる場所にある。ここには、手綱核と松果体が含まれる。
 手綱核……たづなかく。良くないことが起きることを予測した時に活動。報酬系を抑制する働きをもつ。
 ミトコンドリア機能障害が関係している病気……糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島のミトコンドリア機能障害。パーキンソン病は、黒質(ドーパミンを神経伝達物質に持つ神経細胞)のミトコンドリア機能障害。

(2017/4/1)KG

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毛の人類史 なぜ人には毛が必要なのか
 [自然科学]

毛の人類史 なぜ人には毛が必要なのか (ヒストリカル・スタディーズ18)

カート・ステン/著 藤井美佐子/訳
出版社名:太田出版(ヒストリカル・スタディーズ 18)
出版年月:2017年2月
ISBNコード:978-4-7783-1557-3
税込価格:2,592円
頁数・縦:250, 32p・19cm


 「毛」ついて、生理学的、生物学的、動物学的、文化的、産業的、社会史的に、総合的に紹介する、「毛の博物学」。

【目次】
第1部 毛の起源と成長の謎
 哺乳類に生えた最初の毛
 毛はどのように生えるのか
 新しい毛が生まれる仕組み
 音のストレスは毛の成長を妨げる
第2部 毛をめぐる奥深い世界
 毛が伝えるメッセージ
 理容店の登場と発展
 髪の毛の驚異の性質
 毛髪の特徴と色の不思議
 究極の工芸品、かつら
 ひと房一二万ドルの髪
第3部 毛と人間の複雑な関係
 ビーバーの毛皮がもたらしたもの
 帝国の財源となった羊毛
 毛の意外な用途

【著者】
ステン,カート (Stenn, Kurt)
 20年間イェール大学教授として勤務(病理学および皮膚科学)。アデランスの米国研究機関アデランス・リサーチ・インスティテュート(ARI)の研究担当副所長および最高科学責任者として毛髪の最先端研究に携わり、ジョンソン・エンド・ジョンソンでもスキン・バイオロジー研究部門責任者を務める。毛包研究に関する講演や多数の科学論文を発表するなど、長年にわたって毛髪研究に従事している。

藤井 美佐子 (フジイ ミサコ)
 翻訳家。横浜市立大学文理学部卒。

【抜書】
●100万年前(p27)
 ヒトは、ほかの動物には温度に敏感な脳を守るため、被毛を失った、という説が有力。
100万年から300万年前に、霊長類の脳の大型化が進んだのと同時に被毛を失い始め、エクリン腺を獲得するようになった。エクリン腺の機能は、汗(ほとんどが水分の分泌物)の放出によって、体温を調節する。

●つむじ(p43)
 アメリカ国立がん研究所のアマル・クラーの、北アメリカの成人500人を対象にした調査によると、右利きの人の90%以上のつむじが時計回り。左利きと両手利きのヒトはつむじの向きと利き手との関連が見られない。
 ボン大学のベルント・ヴェーバー教授によると、つむじが時計回りの被験者は左脳の言語中枢との強い関連が認められたが、つむじが反時計回りの被験者にはそのような関連はなかった。
 知的発育不全の子供頭皮には、対象群と比較して2倍の頻度で複数のつむじがある。複数のつむじがある、あるいは複数のつむじが交差している子供は、脳の形成異常が潜んでいる可能性が高い。

●フェルト(p128)
 フェルトは、羊毛の繊維を絡ませ、キューティクル細胞を開かせて結合させたもの。
 フェルトに適した素材は、非常に細くて縮れが多く、キューティクルが目立つメリノヒツジの羊毛。
 【製造工程】
  ①羊毛を洗う。
  ②カードという器具で梳かして繊維の向きをそろえる。
  ③目の粗いシート状にならす(バット)。
  ④希望の厚さになるまでバットの層を上に重ねていく。帽子用なら1層か2層、毛布やラグマットはさらに多く重ねる。
  ⑤重ねたバットを温かい石鹸水に浸してローラーをかけ、揉んでたたく。バットが目の詰まった塊になったらフェルト化完成。

●メディチ家(p196)
 イングランドでは、中世以降、最重要の輸出品は羊毛だった。
 13~14世紀に羊毛交易が拡大したことで、新たな資本調達の技術や手段が必要になった。その過程で商人は、現代の資本主義、銀行家、金融の基礎を築く。その頃の羊毛商人は、教皇の代理人として教会税の徴収にあたるイタリア人たちだった。現金を持たない修道院は、袋に詰めた羊毛で教会税を支払っていた。
 16世紀半ば、イングランドがローマカトリック教会から独立すると、商人たちは徴税人から独立した羊毛取引専門の商人へと変貌した。
 羊毛市場の規模が拡大し、羊毛商人の一部は莫大な利益を得て、商人兼銀行家となり、巨大な資本を支配し、ヨーロッパじゅうに手を広げる。ヨーロッパ初の大規模な銀行制度が生まれる。
 代表的な商人銀行家一族が、メディチ家。1297年には、フィレンツェの毛織物製造業者のギルド「アルテ・デッラ・ラーナ」に加盟しいていた。メディチ銀行が羊毛交易で築いた財産をもとに設立され、フィレンツェがイングランドの羊毛を大量に輸入していた。

●フランドル(p198)
 ヨーロッパの羊毛加工の二大中心地はフランドルとフィレンツェ。
 イングランドは、原料の羊毛が主要な産物で、生産した羊毛をフランドルに輸出し、そこで作られた上質な毛織物を輸入していた。
1258年、ヘンリー3世国王の時代、「オックスフォード議会」(別名“狂気の議会”。国政改革案を王に提示した)において、イングランドは質の高い毛織物産業を自国で育成しなければならないとの判断が下された。主にフランドルに対する、毛織物の輸入と原毛の輸出を規制する法律をつくる。
 その後、フランドルの優秀な織物職人をイングランドに呼び込むことにする。当時、低地地域にに吹き荒れていた政治的、宗教的な過激思想のせいで、多くの職人がフランドルから移住してきた。

●雄の尻尾(p217)
 バイオリンやビオラ、チェロなど弦楽器の弓で最高級品は、シベリア産かモンゴル産の雄の白馬の尻尾の毛。
 寒冷地に生息する動物は毛が丈夫。雄の毛が好まれるのは、その尻尾が日常的に尿にさらされていないから。
 尿は、毛幹を柔らかくし、キューティクル細胞を開かせてしまうため、毛にとって有害。

(2017/3/28)KG

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宇宙からみた生命史
 [自然科学]

宇宙からみた生命史 (ちくま新書)

小林憲正/著
出版社名:筑摩書房
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-480-06907-8
税込価格:864円
頁数・縦:229,6p・18cm


 生命について考察するなら、宇宙科学と分子生物学の進んだ現在、宇宙的規模で捉える必要がある。それが「アストロバイオロジー」である。

【目次】
第1章 われわれは宇宙の中心か―天動説から地動説へ
第2章 われわれは何者か―ガラパゴス化した地球生命
第3章 われわれはどこから来たのか1―生命誕生の謎
第4章 われわれはどこから来たのか2―生命進化の謎
第5章 太陽系に仲間はいるか―古いハビタブルゾーンを超えて
第6章 太陽系外に生命を探る―系外惑星とSETI
第7章 人類の未来、生命の未来

【著者】
小林 憲正 (コバヤシ ケンセイ)
 1954年生まれ。東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。米国メリーランド大学化学進化研究所研究員などを経て、現在、横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門教授。

【抜書】
●シュレディンガー(p37)
 エルヴィン・シュレディンガー(1887-1961)……量子力学の創成で20世紀前半の物理学革命を推し進めた。『生命とは何か』において、生命とは「負のエントロピーを食べて生きているものである」と述べる。
 生物は、熱力学第二法則(エントロピーの増加)に背いているように見える。エントロピーを減らすために世界の一部を区切り、その中のエントロピーを減少させている。仕切りの中の余分なエントロピーを外側に捨ててやれば、第二法則は守られる。
 仕切り=細胞膜。生物は、酵素という触媒を使って、細胞膜のなかで特定の反応のみを進める仕組みを獲得した(代謝)。それによってエントロピーを減少させている。

●ハビタブルゾーン(p136)
 生命が生きていくための3つの条件……①水、②有機物、③有機物を作り出すためのエネルギー。
 これら3つが存在する惑星を含む領域を「ハビタブルゾーン」と呼ぶ。太陽系では、太陽から0.97~1.39天文単位離れた領域。含まれる惑星は地球のみ。

●拡大ハビタブルゾーン(p157)
 しかし、従来の「古典的」ハビタブルゾーンを超えて、生命が存在可能な惑星の存在が検討されている。「拡大ハビタブルゾーン」。
 エウロパ……木星の衛星。ガリレオが手製の望遠鏡で発見した「ガリレオ衛星」の一つ。氷におおわれているが、クレーターはほとんど見られず、多くの筋が見られる。氷の下の方が融けている。ひび割れ部分から内部の水がときどき噴き出して、新しい表面を作るのでクレーターが見られない。
 タイタン……土星で最大の衛星。太陽系の衛星の中で、唯一濃い大気がある。地球よりも濃い。窒素を主とし、メタンを数%含む。1950年代から始まった化学進化実験で、メタン・アンモニア・水蒸気の組み合わせの次に多く用いられたのが、メタン・窒素・水蒸気だった。
 エンケラドゥス……土星に60以上ある衛星のなかで6番目に大きい衛星。タイタンの10分の1程度。2005年、カッシーニ探査機の写真に、水蒸気や水の粒が噴出(プルーム) しているのが写っていた。メタンなどの有機物を含む。内部海が存在し、地球の海底熱水噴出に似た活動を示唆する。

●4.22光年(p169)
 太陽に最も近い恒星は、リギル・ケンタウルス。三つの恒星からなる三重連星(A、B、C)。太陽からC星までの距離は4.22光年。

●ペール・ブルー・ドット(p218)
 1977年に打ち上げられた惑星探査機ボイジャー1号は、木星、土星を探査した後の1990年、地球から60億km離れた地点から太陽系の写真を撮った。地球は、写真の右側の縦の縞の中央よりやや下に見えるかすかな点。この写真を撮ることを提案したカール・セーガンは「ペール・ブルー・ドット」と呼んだ。

(2017/3/22)KG

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ヒト 異端のサルの1億年
 [自然科学]

ヒト―異端のサルの1億年 (中公新書)

島泰三/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2390)
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-12-102390-2
税込価格:994円
頁数・縦:290p・18cm


 ヒトの「歴史」(人類史)を、「サル」という視点から独自の発想で解き明かす。

【目次】
第1章 起原はレムリア―マダガスカル・アンジアマンギラーナの森から
第2章 歌うオランウータン―ボルネオとスマトラの密林にて
第3章 笑うゴリラ―ヴィルンガ火山の高原より
第4章 類人猿第三世代のチンパンジーとアルディピテクス―タンガニーカ湖畔の森から
第5章 類人猿第四世代、鮮新世のアウストラロピテクス―ツァボ国立公園にて
第6章 ホモ・エレクトゥスとハンドアックスの謎―マサイマラから
第7章 格闘者ネアンデルタール
第8章 ホモ・サピエンスの起原―ナイヴァシャ湖にて
第9章 最後の漁撈採集民、日本人―宇和海の岸辺にて
終章 ほほえみの力

【著者】
島 泰三 (シマ タイゾウ)
 1946年、山口県下関市生まれ。下関西高等学校、東京大学理学部人類学科卒業。東京大学理学部大学院を経て、78年に(財)日本野生生物研究センターを設立、房総自然博物館館長、雑誌『にほんざる』編集長、天然記念物ニホンザルの生息地保護管理調査団(高宕山、臥牛山)主任調査員、国際協力事業団マダガスカル国派遣専門家(霊長類学指導)等を経て、NGO日本アイアイファンド代表。アイアイ生息地の保護につとめる。マダガスカル国第5等勲位シュバリエ。

【抜書】
●レムリア大陸(p9)
 マダガスカルとインド亜大陸(グレーター・インド)とがつながっていた古代大陸。総面積600万平方km以上、オーストラリア大陸(770万平方km)に匹敵する大きさ。
 中生代ジュラ紀の1億6000万年前にアフリカ大陸から分かれる。
 1億2000万年前に南極/オーストラリアから分かれた。白亜紀の6000万年間(恐竜時代の後期)を、他の大陸から独立して存在した。
 7000~8000万年前に、グレーター・インドとマダガスカルとが分離。
 5300万年前、グレーター・インドがアジアと接続。
 ちなみに、マダガスカルの原猿類を「レムール」という。全世界の霊長類の四分の一の5科22属99種。(p4)

●真獣類(p11)
 分子生物学者による、真獣類(有胎盤類)の系統分類。
 ① アフリカ獣類……アフリカ大陸起源
  a. アフリカ食虫類
   1. アフリカトガリネズミ目
   2. ハネジネズミ目
   3. 管歯目(ツチブタ)
  b. 近蹄類
   4. 海牛目(マナティー類)
   5. 長鼻目(ゾウ類)
   6. イワダヌキ目
 ②異節類……南米大陸起源
   7. 有毛目(ナマケモノ・アリクイ類)
   8. 被甲目(アルマジロ類)
 ③真主齧類……レムリア大陸起源
  a. 真主獣類
   9. 霊長目
   10.被翼目(ヒヨケザル類)
   11.登攀目(ツパイ類)
  b. グリレス類
   12.齧歯目(ネズミ類)
   13.ウサギ目
 ④ローラシア獣類……ユーラシア、北米大陸起源
   14.鯨偶蹄目
   15.食肉目
   16.有鱗目(センザンコウ類)
   17.奇蹄目(サイ類)
   18.翼手目(コウモリ類)
   19.真無盲腸目(モグラ類)

●類人猿2000万年(p37)
 3000万年前、ヒト上科が他の霊長類と分かれる。
 2000万年前、テナガザル(小型類人猿)が分岐。すぐ後に、オランウータンが分岐(900万~2000万年前??)。
 1000万年前、ゴリラとチンパンジーが分岐。

●ヴァレシアン・クライシス(p56)
 960万年前、ヨーロッパで哺乳類相の大絶滅と転換があった。ヒマラヤ山脈とチベット高原の隆起による全地球的な寒冷化が原因。寒冷化による草原の拡大し、亜熱帯性の常緑樹から、冬の寒冷と夏の乾燥に対応した落葉樹に交代した。
 アフリカでも、900万年前から600万年前まで、類人猿の化石の空白期がある。

●骨食(p118)
 アルディピテクスが絶滅した鮮新世の乾燥したアフリカで、類人猿第4世代のアウストラロピテクスは、果実食から骨食に大転換した。
 捕食者たちが食べ残した草食動物の骨が主食となった。石を使って骨を割り、厚いエナメル質の臼歯が、骨を糊状にすりつぶした。骨は、肉よりも果実よりも高い栄養がある。アウストラロピテクス属200万年の繁栄は、この主食によって支えられた。
 アファレンシスの身長は1~1.5m、雄の体重は平均44.6kg、最大70kg。雌の体重は29kg。性差は1.55、チンパンジー1.2より大きく、マカク属やヒヒ類の性差と等しい。雄優位で、群れのサイズは数十頭から数百頭? ヒョウや、ハイエナ、チーター、リカオンなどの最大体重が60kg程度の肉食獣には十分対抗できた。

●王獣ホモ・エレクトゥス(p142)
 ホモ・エレクトゥス類の歯のエナメル質は、それ以前の人類に比べて薄い。石器が多様に使われ、それまでの「固いが噛み潰しやすい食べ物(地下茎など)」中心の食生活から、多様な食物を変化する環境に合わせて食べるようになった。大型の哺乳類の狩猟も行った。
 ハンドアックスは、160万年前の遺跡からも出土している。日本列島でも、3万年前まで作られていた。ホモ・エルガスターからホモ・アンテセッサーに至る、アフリカ、ヨーロッパ地域の原人とともにあった石器。ティア・ドロップの形、「厚手のランセオレイト型(槍の穂先型)」と形容される。大型のものは3kgを超える。アシューリアン文化と呼ばれる。
 ハンドアックスの特徴……均整の取れた形、大型化、サバンナ地域だけの分布、使用痕の少なさ。
 ホモ・エレクトゥスは、身長1.7m、体重60kg。ハンドアックスという武器を持つことによって、ライオンにも十分に対応できた。ライオンたちが最初の食欲を満たしたときに、威嚇者として出現すれば、新鮮な骨と残り物の肉を十分に手に入れられる。
 ケニヤのホモ・エレクトゥスの化石(ER1808)には、ビタミンAの取り過ぎの証拠が残されている。肉食動物の肝臓の食べ過ぎ。他の捕食獣たちに優越する「王獣」だった。

●魚貝類食(p188)
 毛皮のない裸のホモ・サピエンスは、突然変異で体毛を失った。裸の皮膚は、水中生活に適応した証拠ではない。
 顔の皮膚が薄い、裸の赤ん坊の「ほほえみ」は、毛皮をまとっていた両親に強烈な印象を与えた?
 サピエンスの骨は、エレクトゥスやネアンデルタール人に比べて、緻密質が薄く、骨そのものが細く、華奢。時に水中に潜ったり、泳いだりする水辺での暮らしには適している。「王獣」ホモ・エレクトゥスと競合することなく、貝類や魚類、海藻や水辺の植物を食料にするようになった。
 魚介類は、脳の発達に欠くことのできない栄養である必須脂肪酸や必須ミネラルの鉄やヨード(ヨウ素)が豊富に含まれている。
 ウガンダ(「千の湖の国」を自称する)からルワンダにかけての高原の湖沼地帯は、水生生物の宝庫。

●日本人(p204)
 ミトコンドリアDNAの研究により、アフリカ人以外のすべての民族は一つの系統であることが分かった。非アフリカ系は、第一グループ(日本人とその近縁)と第二グループ(ヨーロッパ人とその近縁)に大別される。
 日本人に最も近いのは、カムチャツカ半島基部のシベリア・イヌイット、南アメリカのパラグアイのグアラニ人。それに次ぐ近縁は、シベリアのエヴァンキ人、バイカル湖周辺のブリヤート人、中央アジアのキルギス人、南米のワラオ人。やや近いのは、オーストラリア先住民、ニューギニア海岸民、インド亜大陸中央部のアジア系インド人、南中国人(現在の少数民族)。
 韓国人や中国人は、第二グループの系統。韓国人は、南太平洋のポリネシアのサモア人と近い。ポリネシア人は、マダガスカルにまで拡散。

●イヌ(p218)
 犬の起源地は、東アジア。犬が家畜化されたは、1万5000万前(もしくは1万6000万年かそれ以前)の長江の南。ミャンマーのマンダレーあたりが、ホモ・サピエンスと犬の最初の遭遇地点? ユーラシア大陸北方種のオオカミの辺縁であり、小柄な犬の棲息地だった。
 犬は、10万年前にオオカミから東南アジアの高原で分岐したと想定される。
 犬は、オオカミと異なり、デンプンの消化能力が備わっている。ヒトの食事の残りを消化できる。

(2017/3/18)KG

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サイボーグ化する動物たち ペットのクローンから昆虫のドローンまで
 [自然科学]

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで
  
エミリー・アンテス/著 西田美緒子/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-8269-0190-1
税込価格:2,700円
頁数・縦:281p・20cm
 
 
 人類のためなのか、はたまた動物自身の幸福のためなのか?
 人間が、さまざまな動物に施す改造すなわち「サイボーグ化」をレポート。新奇なペットを求めて
光る熱帯魚を作る、遺伝子操作でリゾチームが豊富な乳を出すヤギを作る、愛猫のクローンを作る、センサーを装備したアザラシに深海探査をさせる、などなど。命とは何なのか。

【目次】
第1章 水槽を彩るグローフィッシュ
第2章 命を救うヤギミルク
第3章 ペットのクローン作ります
第4章 絶滅の危機はコピーで乗り切る
第5章 情報収集は動物にまかせた
第6章 イルカを救った人工尾ビレ
第7章 ロボット革命
第8章 人と動物の未来

【著者】
アンテス,エミリー (Anthes, Emily)
 科学ジャーナリスト。「ニューヨークタイムズ」「ネイチャー」「サイエンティフィック・アメリカン」「ワイアード」「ボストン・グローブ」などの各紙誌に執筆。マサチューセッツ工科大学からサイエンス・ライティングの修士号、イェール大学から科学史・医学史の学士号を取得。ニューヨークのブルックリン在住。『サイボーグ化する動物たち』で、優れた科学書に贈られる「AAAS(アメリカ科学振興協会)/Subaruサイエンスブックス&フィルム賞」を受賞している。

西田 美緒子 (ニシダ ミオコ)
 翻訳家。津田塾大学英文科卒業。

【抜書】
●グローフィッシュ(p20)
 1999年、シンガポール国立大学の生物学者ジーユエン・ゴングが、オワンクラゲなどの一部の種が独自に進化させた緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を、ゼブラフィッシュの胚に直接注入することに成功。マイクロインジェクションという手法による。ブルーライトを当てると緑色に光る。
 イソギンチャクの仲間のGFPを導入して赤く光る系統、黄色の系統も作る。
 リチャード・クロケットとアラン・ブレイクが、ヨークタウンテクノロジーズ社を設立、テキサス州オースティンに店を出す。光る魚をグローフィッシュと名付け、養殖して販売を開始する。
 発売は、2004年1月。赤い色のグローフィッシュ。 米国食品医薬品局(FDA)や、カリフォルニア州魚類鳥獣委員会の認可が下りるのに時間がかかった。
 2006年、緑色とオレンジ色を発売。2011年、青色と紫色を追加。2012年、緑色に輝くホワイトスカートテトラを発売。

●ファーミング(p45)
 pharming……pharmacy(薬学)とfarming(農業)を組み合わせた造語。
 遺伝子操作によって、動物を人間の病気を治すための工場に変えること。
 リゾチーム……体内に侵入した細菌の細胞壁を分解し、中身を外にあふれださせる酵素。免疫系を強化し、乳児の下痢性疾患を抑える。あらゆる哺乳動物のミルクに含まれているが、ヒトの母乳では特に濃度が高く、別の動物の3000倍。
 カリフォルニア大学デービス校の動物科学者ジェイムズ・マレーとエリザベス・マーガは、遺伝子組み換えによって、リゾチームを多量に含むミルクを出すヤギの「ファーミング」に取り組む。「アルテミス」誕生。

●キメラ、ハイブリッド(p60)
 キメラ……二つの異なる種に由来する細胞を持つ動物。「青い」細胞と「赤い」細胞がパッチワークキルトのように、青1色の細胞と赤1色の細胞が混じり合って並んでいる。
 遺伝子組み換え動物……各細胞の中に異なる種の遺伝子が1個ずつ入っている。青い細胞のそれぞれに赤い点が1個ずつ入っている。
 ハイブリッド……一つの種の精子と別の種の卵子とが受精してできる雑種。すべての細胞が紫色になる。

●更新世パーク(p119)
 生物は複雑な生態系の一部を担っているので、一つの動物集団が突然消えると、生態系全体の歯車が狂う。
 絶滅した動物を生息環境に再導入することによって、景観を取り戻すことができるかもしれない。
 シベリア北部のツンドラ地帯は、雪におおわれた大地に低木とコケ以外の植生はほとんど見当たらない。12,000年ほど前まで続いた更新世には、青々とした野草が茂り、ケナガマンモス、バイソン、野生のウマが歩き回っていた。
 ロシア科学アカデミー北東科学観測所の所長セルゲイ・ジーモフの「サイエンス」誌への投稿。「冬になると動物たちが、その前の夏に生えた草を食べた。これらの動物たちは排泄物によって土壌を肥やし、植物の生産性を高める一方、コケや低木を踏みつけて、しっかり根付かせないようにしていた。もしも更新世の動物の大きな群れがここにいて景観を守っていたならば……北方の草原は今もまだ生き残っていたはずだと、私は考えている。」
 ジーモフは、更新世の代表的な草食動物(もしくは現代の同等の動物)をツンドラ地帯に連れ戻す実験を行っている。「更新世パーク」と名付けた広い保護区に、数十年かけて動植物の多様性を復元する計画。すでに、トナカイ、ヘラジカ、ジャコウウシ、バイソン、野生のウマがここを歩きまわっている。
 北米の大草原地帯に野生のウマ、ラクダ、ゾウ(マンモスの代役)、チーター(アフリカチーターがアメリカチーターの代役)などを放して「再自然化」しようという提案もある。

●チーター(p122)
 およそ1万年前に何らかの破壊的状況が起きて地球上のチーターの大半が死滅した。現在のチーターは際立って均質で、遺伝的差異がほとんどない。繁殖力が低く、精子異常の割合が高い。

●ゾウアザラシ(p148)
 ミナミゾウアザラシは、人間がなかなか近付けない、極寒の南極水域に生息。水深1600m以上まで潜水して餌をとる。
 2003~2007年、セントアンドリューズ大学(スコットランド)の海洋生物学者マイケル・フェダックらが、102頭のゾウアザラシの頭に多機能タグを貼り付けた(換毛期には毛とともにはがれおちる)。海面下に潜るたびに装置が作動し、水圧、温度、塩分濃度を一定間隔で測定する。海面に顔を出すと、タグの衛星発信器がデータを研究室に送り返す。
 生物学者の「タグ装着プロジェクト」に、海洋学者たちも興味津津。アザラシの集めたデータが、海面から海底まで、垂直部分全体の詳細な分析結果を組み立てる。南極海底で未発見だったトラフの存在が明らかになる。

●ニューティクル(p170)
 避妊手術で睾丸を摘出した雄犬のための人工睾丸。1995年に登場。犬の精神的苦痛を和らげる?
 愛犬家グレッグ・ミラーが考案。しかし、愛犬バッグには間に合わなかった。肝臓がんで死亡。

●犬の遺伝病(p216)
 犬は、純血種を作るために近親交配を続けたため、遺伝病や奇形が目立つ。
 人気の高い犬種50種の調査では、396の遺伝病が見つかる。
 ダルメシアン……聴覚障害が多い。
 ドーベルマン……発作性睡眠障害(ナルコレプシー)にかかる傾向が強い。
 ラブラドル・レトリバー……股関節の形成不全。

(2017/3/12)KG

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世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史
 [自然科学]

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

スティーブン・ジョンソン/著 大田直子/訳
出版社名 : 朝日新聞出版
出版年月 : 2016年8月
ISBNコード : 978-4-02-331530-3
税込価格 : 2,052円
頁数・縦 : 339p・19cm


 人間の生活を変えた6つの要素を検証。

【目次】
序章 ロボット歴史学者とハチドリの羽
第1章 ガラス
第2章 冷たさ
第3章 音
第4章 清潔
第5章 時間
第6章 光
終章 タイムトラベラー

【著者】
ジョンソン,スティーブン (Johnson, Steven)
 影響力のあるさまざまなウェブサイトを立ち上げており、PBSとBBCのテレビシリーズ『私たちはどうして現在にいたったか(How We Got Now)』の共同制作者であり、司会も務めている。妻と3人の息子とともに、カリフォルニア州マリン郡とニューヨーク市ブルックリンで暮らしている。

大田 直子 (オオタ ナオコ)
 翻訳家。東京大学文学部社会心理学科卒。

【抜書】
●ハチドリ効果(p13)
 顕花植物と昆虫の共進化が、花蜜の産生を引き起こした。
 ハチドリは、ホバリングによって花蜜を取り出す方法を進化させた。他の鳥にはまねができない。
 昆虫には脊椎動物にはない基本的柔軟性が生体構造にあるので、飛びながらでもじっとしていられる。ハチドリは、骨格構造に制限があるにもかかわらず、羽を回転させ、打ち下ろす時だけでなく引き上げるときにも揚力を得て空中に浮かぶ斬新な方法を進化させた。
 ある分野のイノベーション、またはイノベーション群が、最終的に、まるでちがうように思われる領域に変化を引き起こすことを、「ハチドリ効果」と名付ける。

●二酸化ケイ素(p26)
 二酸化ケイ素化合物すなわちガラスは、H₂Oと同様固体の状態で結晶を作り、熱せられると溶けて液体となる。融点は260度以上。一度溶けると、冷めても秩序ある結晶構造には戻らず、固体でも液体でもない中間状態で存在する新たな物質を形成する。
 1万年ほど前、リビア砂漠で天然にできたガラスのかけらを発見、ツタンカーメンの金の七宝細工の胸当てのカガネムシに使われた。

●ムラーノ(p30)
 1204年、コンスタンティノープル陥落。トルコの小さなガラス職人集落が、船で地中海を渡り、ヴェネチアに住み着いて商売を始めた。
 当時のヴェネチアは木造建築だったので、加熱炉(540度まで上げる必要があった)による火事が多発した。
 1291年、政府は、ガラス職人をムラーノ島に移住させた。ムラーノは、経済学者の言う「情報波及」のある環境が整い、イノベーションの拠点となった。ガラスの島として知られるようになり、凝った花瓶などの優美なガラス製品は、西ヨーロッパ全土のステータスシンボルとなった。
 ガラス職人は今も商売を続けており、その多くが最初にトルコから移住してきた家族の直系子孫である。

●鏡(p48)
 ルネサンス期や初期モダニズムに登場するようになった絵画に、自画像がある。
 鏡は、画家が自分自身を描き、形式上の工夫として遠近法を考え出すのに直接的な役割を演じた。〔そしてそれからまもなく、ヨーロッパ人の意識に新たに自分を中心にすえるという根本的な転換が起こり、さざ波のように世界中に広がることになる(そしていまだに広がっている)〕。
 自己中心の世界は、ヴェネチアやオランダのような場所で栄え始めていた近代資本主義と相性が良かった。

●レコードと電話(p132)
 トーマス・エジソンが1877年に蓄音機を発明した時、郵便で音声の手紙を送る手段として定期的に使われることを思い描いていた。個人がロウを塗った巻物に蓄音機で書状を記録し、ポストに投函し、数日後にそれが再生される。
 ベルは電話の主な用途として、生の音楽を共有する手段を想像していた。電話機の片端にオーケストラか歌手がすわり、反対側にリスナーがすわってスピーカーから聞こえる音楽を楽しむ。
 しかし、レコードと電話の使い方は、発明家が思い描いていたものとあべこべになった。

●独占禁止法(p138)
 1956年、米国司法省は、AT&Tによる電話網の「自然独占」を認めた。その代わり、それまでベル研究所によって生み出された特許発明はどれも、無償でアメリカ企業に提供しなければならず、新たに取得する特許はすべて安価な料金で使用を認めなければならないこととなった。

●睡眠パターン(p256)
 夜間照明が普及する前の人間の睡眠パターンは今と異なっていた。2001年、歴史家のロジャー・イーカーチが、様々な日記や教本を引用して唱えた説。
 第一の眠り……まず、4時間ほど睡眠。目を覚まして軽食を取ったり、用を足したり、セックスをしたり、火のそばでおしゃべりしたり。
 第二の眠り……その後、4時間ほど睡眠。
 8時間の継続的睡眠が理想とする考え方は、19世紀の習慣によって構築された。

(2016/12/28)KG

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科学の発見
 [自然科学]

科学の発見

スティーヴン・ワインバーグ/著 赤根洋子/訳 大栗博司/解説
出版社名 : 文藝春秋
出版年月 : 2016年5月
ISBNコード : 978-4-16-390457-3
税込価格 : 2,106円
頁数・縦 : 428p・20cm


 ノーベル賞学者による、大学での講義ノートをもとに書かれた科学史。

【目次】
第1部 古代ギリシャの物理学
 第1章 まず美しいことが優先された
 第2章 なぜ数学だったのか?
 第3章 アリストテレスは愚か者か?
 第4章 万物理論からの撤退
 第5章 キリスト教のせいだったのか?

第2部 古代ギリシャの天文学
 第6章 実用が天文学を生んだ
 第7章 太陽、月、地球の計測
 第8章 惑星という大問題
 
第3部 中世
 第9章 アラブ世界がギリシャを継承する
 第10章 暗黒の西洋に差し込み始めた光
 
第4部 科学革命
 第11章 ついに太陽系が解明される
 第12章 科学には実験が必要だ
 第13章 最も過大評価された偉人たち
 第14章 革命者ニュートン
 第15章 エピローグ:大いなる統一をめざして

【著者】
ワインバーグ,スティーヴン (Weinberg, Steven)
 1933年、アメリカ生まれ。理論物理学者。カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学などを経て、現在はテキサス大学オースティン校の物理学・天文学教授。量子論の統一理論への第一歩となる、「電磁力」と「弱い力」を統合する「ワインバーグ=サラム理論」を1967年に発表し、79年にノーベル物理学賞を受賞する。専門にとどまらない深い教養を備え、一般向けにも多数の著作を発表する、現代で最も尊敬される科学者のひとり。

大栗 博司 (オオグリ ヒロシ)
 理論物理学者。カリフォルニア工科大学教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。素粒子論を専門とする。

赤根 洋子 (アカネ ヨウコ)
 翻訳家。早稲田大学大学院修士課程修了(ドイツ文学)。

【抜書】
●アテネ四大学園(p44)
 アカデメイア……プラトン(~BC437)。AD529年まで存続。
 エピクロスの園
 ストア……柱廊。ストア派。
 リュケイオン……アリストテレス。BC336~BC86?年。アテネがスラ将軍麾下のローマ軍に蹂躙されたときに閉校?

●科学の進歩(p58)
〔 万物を包括する理論を構築しようとする試みからヘレニズム時代の科学者たちが撤退したことは間違ってはいなかった。歴史上何度もその実例を見ることができるように、その時代の知識で解明できる問題とそうでない問題とを見極めることこそ、科学の進歩の本質的な特徴である。たとえば、二十世紀初頭、ヘンドリック・ローレンツやマックス・アブラハムといった一流の物理学者が、当時発見されたばかりの電子の構造を理解しようとして研究に没頭していた。それは絶望的な試みだった。それからおよそ二十年後に量子力学が誕生するまでは、電子の性質の解明は誰にもできるはずがなかったのである。アルバート・アインシュタインの特殊性相対性理論は、彼が「電子とは何か」という問題を放棄したことによって可能となった。「電子とは何か」を解明しようとする代わりに、彼は(電子も含めた)あらゆるものの観測が観測者の運動によってどのように左右されるかを解明しようとした。そのアインシュタインもその後、自然の諸力の統一という問題に取り組んだときには何の成果も上げられなかった。当時は誰も、これらの力について充分に知らなかったからである。〕

●外科医(p70)
〔 近代まで、ヨーロッパの医師たちは、四体液説に加えて占星術の知識も求められていた。占星術は、医学に応用できると考えられていたのである。皮肉なことに、内科医はこうした理論を大学で学んでいたことから、骨折の治療といった本当に有益な技術を知っている外科医よりも数段上の存在と見なされていた。近代まで、外科医の技術は一般的に大学で学ぶものではなかった。〕
 四体液……血液(人間を朗らかにする)、粘液(無気力にする)、黒胆汁(憂鬱にする)、黄胆汁(怒りっぽくする)。

●ローマの宗教(p77)
 キリスト教徒が迫害されたのは、ローマ帝国が異国の神々に対して不寛容だったからではない。〔ローマの神々の祭壇でお香をひとつまみ焚けば放免されるのがふつうだった。〕個人的にどの神を信仰するにせよ、国家に対する忠誠のしるしとして、ローマの公的な宗教にきちんと敬意を払うことが求められただけである。
 ローマ帝国ではどの宗教も、「民衆からはおしなべて本物と見なされ、哲学者からはおしなべて偽物と見なされ、行政官からはおしなべて利用価値ありと見なされていた」(ギボン)。

●政治的権力(p80)
 ローマ帝国時代、キリスト教が科学とぶつかった理由の一つが、政治的権力。
 キリスト教が教会での立身出世の機会を、知的な若者に提供したこと。彼らは、違う道を選んでいれば数学者や科学者になっていたかもしれない。司教や司祭は、通常の司法による支配や納税義務を免れていた。司教は、ムセイオンやアカデメイアの学者よりずっと大きな政治的権力をふるうことができた。
 多神教の世界においては、富と政治権力の持ち主が宗教上の要職を占める。宗教者が富と権力を握るわけではない。

●パリ大学(p174)
 パリにあった大聖堂付属学校が、1200年に特許状を得て大学となったのが大学の始まり。パリ大学。
 イタリアのボローニャ大学のほうがわずかに古いが、法学と医学を専門としていた。

●デカルト座標(p269)
 デカルトの最大の貢献は、曲線上や面上の点を満たす方程式によって曲線や面を表す、解析幾何という新しい数学的方法を考案したこと。
 縦軸と横軸が直角に交わる点を中心点とし、ある点の位置をその点から縦軸と横軸までの距離であらわす座標を「デカルト座標」という。

●近似理論(p318)
 ある科学理論はいずれ、さらにうまく機能する理論の近似理論だったと判明するものである。

(2016/12/23)KG

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つながる脳
 [自然科学]

つながる脳

藤井直敬/著
出版社名 : NTT出版
出版年月 : 2009年5月
ISBNコード : 978-4-7571-6042-2
税込価格 : 2,376円
頁数・縦 : 275p・20cm


 社会脳を研究テーマにする脳科学者が、自身の研究テーマと、それを選ぶに至った理由を開陳する。

【目次】
序章 脳と社会と私たち
第1章 脳科学の四つの壁
第2章 二頭のサルで壁に挑む
第3章 壁はきっと壊せる―適応知性の解明に向けて
第4章 仮想空間とヒト
第5章 ブレイン‐マシン・インターフェイス
第6章 つながる脳

【著者】
藤井 直敬 (フジイ ナオタカ)
 1965年広島生まれ。東北大学医学部卒業。同大医学部眼科学教室にて初期研修後、同大大学院に入学、1997年、博士号取得。1998年よりマサチューセッツ工科大学にて上級研究員として勤務。2004年帰国。現在は、理化学研究所脳科学総合研究センターにて適応知性研究チーム・チームリーダー、BTCC双方向性BMI連携ユニット・ユニットリーダーを務める。

【抜書】
●IT(p4)
〔 どうしてITは他の科学技術と異なって、私たちの世界を劇的に変えることができたのでしょうか。僕は、それはITがコミュニケーションの根幹に影響を与えるものであったからだと思います。
 みなさんは、僕たちヒトが、社会性の高い生き物だというのは聞いたことがあるでしょう。社会性が高いということを別な言葉で言うなら、全体の中で自分の相対的な立ち位置、つまり社会集団の中での「関係性」という要素に強く影響を受ける生き物ということです。
 だとすると、この関係性を操作できる科学技術は、私たちの生活に大きく影響を与えるに違いありません。実際に社会を見回してみましょう、どのような業種がヒトを動かす力をもっているのでしょうか。力をもっている業種は、マスコミ、通信業者、広告代理店など、そのほとんどが情報の流通に関わる業種であり、多かれ少なかれ私たちはその影響力の下に生活していることに気づかされます。〕

●賢さ(p27)
 賢い生き物……適応能力の高い生き物を、賢い生き物だと感じる。
 「賢さ」=「生命維持のための特定の適応能力の高さ」。
 クマムシのほうが、金魚より賢いと感じる。

●LFP(p140)
 ローカル・フィールド・ポテンシャル(LFP)……ECoG電極で採集される神経活動。電極の周辺にある神経細胞群の、集団としての挙動。
 スパイク活動……神経細胞一つ一つの活動。

●マキャベリ的知性(p247)
 社会的知性。ヒトの社会集団の中で、自分の意思を実現するために必要とされる知性。
 国のような単位の社会集団では、家庭の(父の)ように個人の意思を国家の意思に反映させることは困難になる。意思決定者と意思実行者が分業されているからである。それぞれの職務に最適化した専門家集団がうまれ、それらの多様な職務の人々の働きの統合によって、人々の暮らしが成立するようになった。
 専門家集団は、それぞれに異なる事物に関しての決定の権利、つまり利権を持ち、その各集団が果たす機能の統合として国の機能が実現される。
 目的を達成するために、同盟と裏切りなど、手段を選ばず複雑な社会操作を行うには非常に高い知性が必要とされる。権謀術数を駆使するには、社会構造を一つ高いメタな視点から理解して、その構造の中でシンボル操作することで目的を達成することが必要される。

●共同注視(p251)
 コミュニケーションには、相手の言外の意図をきちんと理解する必要がある。他者の意図を理解するという意味で最も重要だと言われている機能が、「共同注視」。
 共同注視……相手の目の動きを見て、その相手の注意がどこに向かっているのかを理解するという認知機能。上側頭溝(Superior Temporal Sulcus: STS)と呼ばれる部分が重要な働きをしている。

●実験終了(p261)
 〔九・一一以降のアメリカでは、もはや自己の尊厳を保つには、カネ以外になくなってしまいました。僕は、その後の金融工学の暴走と、それによって引き起こされた現在の経済危機は、合理性を極端まで追求した実験国家アメリカの、実験終了を意味しているのではないかと思うのです。〕
 アメリカ人は、それまで、自分たちのヒューマニズムがあまねく世界を照らし、それは世界中で共有されていると純粋に信じていたのではないだろうか。それが、アメリカ人の尊厳だった。

●リスペクト(p267)
 合理的な経済人をモデルとした国家像は破綻した。
 カネと同様に必要なものは、「ホメ」=社会的報酬。
 脳では、金銭的な報酬に反応する脳の部位(基底核の一部である線条体)が、社会的評価にも同様に反応する。ヒトは、経済的欲求と同様に、社会関係欲求を持っている。
 社会性の発現には、「余裕」が必要。余裕がないとき、我慢して他者に譲るという行動は起きない。現在の先進国であればすべてその余裕を持っている。
 不合理なヒトを認めるためには、個人をとりあえず無条件で尊重(リスペクト)することから始めるのが良い。
 〔まずは身近なヒトたちへ自分からそういう気持ちをもって接することから始めるというのはどうでしょうか。リスペクトには多少の積極的なエネルギーが必要とされますが、「独裁者ゲーム」の結果からみると、僕たちは自分の取り分の二割程度はそのために使えるのです。リスペクトは、それを受け取る相手に嫌な思いを引き起こすことはないでしょう。それに、自分をリスペクトしてくれるヒトがいるとすれば、それに対してリスペクトを返そうとする気持ちに自然になるのではないでしょうか。つまり、いったん自分からリスペクトを発信すると、それは循環を始めるのです。
 リスペクトが循環する社会はどのようなものになるでしょうか。おそらく過去にその余裕をもつ社会はほとんど存在しなかったのではないかと思います。リスペクトはおそらくヒトとヒトの関係を安定したものにしてくれるでしょう。たとえ議論に負けても、自分の存在が否定されるのでなければあまり苦痛を感じません。むしろ、議論に勝っても、自分が社会から否定されるのであれば全く意味のないことです。つまり、物事の価値が、勝ち負けだけでなく社会的評価軸を含んだものへ移行するのではないかと思います。
 そこには神も仏もいりません。あくまで他者をリスペクトする気持ちだけでいいのです。リスペクトをもって他者と接することは、コストはあまりかかりません。しかも支払ったコストはリスペクトとしてきっと返ってきます。なんとなく試してもいいような気がしませんか。僕たちの幸せはたいてい身近な人たちからのポジティブな評価があるだけで十分なのです。ということは、身近な人々が、みなさんが変わることで変わってくれることを実感できれば、少なくとも自分自身が満たされた気持ちになるでしょう。
 そのような社会でヒトの満足は、おそらく今のカネ中心の社会よりも深いものが得られるのではないかと思います。ただ、間違えてはいけないのは、カネとリスペクトの二つを軸とした社会でなければならないということです。現代の社会はカネなしでは回りません。〕

(2016/11/5)KG

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