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理化学研究所 100年目の巨大研究機関
 [自然科学]

理化学研究所 100年目の巨大研究機関 (ブルーバックス)
 
山根一眞/著
出版社名:講談社(ブルーバックス B-2009)
出版年月:2017年3月
ISBNコード:978-4-06-502009-8
税込価格:1,015円
頁数・縦:238p・18cm
 
 
 2017年は、理化学研究所が設立100周年を迎えた。その歴史を振り返りつつ、最先端の研究現場をレポート。
 
【目次】
第1章 113番元素が誕生した日
第2章 ガラス板の史跡
第3章 加速器バザール
第4章 超光の標的
第5章 100京回の瞬き
第6章 スパコンありきの明日
第7章 生き物たちの宝物殿
第8章 入れ歯とハゲのイノベーション
第9章 遺伝子バトルの戦士
第10章 透明マントの作り方
第11章 空想を超える「物」
 
【著者】
山根 一眞 (ヤマネ カズマ)
 ノンフィクション作家。1947年東京都生まれ。獨協大学国際環境経済学科特任教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)客員、理化学研究所相談役、福井県文化顧問、日本生態系協会理事、NPO子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)理事、3・11支援・大指復興アクション代表などを務める。
 
【抜書】
●高峰譲吉(p47)
 高峰譲吉(1854-1922)……理研設立の牽引役。工学・薬学博士。1890年(明治23年)渡米。消化剤のタカジアスターゼと、副腎髄質から分泌されるホルモンのアドレナリンの製造法の開発者。「日本が生んだ偉人の一人」。
 米国時代の経験から、「これからの世界は理化学工業の時代になる。日本が理化学工業によって国を興そうというのであれば、その基礎である理化学の研究所を設立する必要がある」と熱く説いた。
 当時の日本の工業は欧米の模倣で成り立っており、独創性に乏しかった。日本でも、欧米に負けない大規模な理化学の基礎研究所を作るべきだと訴えた。
 日本を代表する科学者たちと構想を煮詰め、実業家や三井、三菱などの財閥から資金を集め、さらに国庫から補助金を得る法整備もなされた。
 1917年(大正6年)3月20日、駒込に4万平方メートルの土地を得て、財団法人理化学研究所として発足。
 
●大河内正敏(p48)
 大河内正敏(1878-1952)……1921年、42歳の若さで理研研究員から所長に抜擢された造兵学者で貴族院議員。第一次大戦が終結、その戦後不況で資金難に直面。2本柱からなる大胆な理研改革を断行。
 (1)研究室制度……すべての研究員に同等の権限を与えて自由な研究ができるようにする。14の研究室が新設された。
 (2)研究成果の産業化……理研で生まれた特許や実用新案をもとにした企業を数多く設立し、特許実施料を収入源として研究費に充てる。成功例は、抗生物質ペニシリンとアルマイト。
 アルマイト……アルミニウムは空気に触れると薄い酸化膜が自然にできる。非常に薄く微細な穴がい開いているため(多孔質)、汚れや傷がつきやすい。鯨井恒太郎、瀬藤象二、宮田聰らのグループは、「実験の失敗」によって、無数の穴が開かない表面処理法を発明する。理研は、特許を関連業界に提供する一方、理研アルマイト工業を起業。弁当箱の素材として人気を集める。また、その技術は、印刷や機械工具、建材などでも欠かせないものとして、現在に至る。
 
●主任研究員制度(p58)
 大河内は、1922年、それまでの物理学部と化学部からなる制度を廃止、「主任研究員制度」を発足させる。今に至るまで続いている理研の伝統、主流。研究者が独立して自由に研究室を運営できるシステム。研究テーマを自由に選べ、予算や人事の裁量権も持つ。研究室は一代限り。新しい分野を常に開拓していこうという精神の表れ。
 
●仁科芳雄(p60)
 原子核物理学者の仁科芳雄(1890-1951)は、1937年と1944年、2台のサイクロトロンを完成させた。
 岡山県出身、東京帝国大学の電気工学科を卒業、理研に入ったのち、英国、ドイツに留学し、最新の量子力学などを学ぶ。さらに、デンマークの原子物理学者ニールス・ボーア(1885-1962年。1929年にノーベル物理学賞受賞)の研究室で5年間を過ごした。
 敗戦により、2台のサイクロトロンは「原子爆弾製造施設」と誤認され、GHQによって解体・廃棄させられる。
 
株式会社科学研究所(p63)
 1946年、仁科が所長に就任。GHQによる「過度経済力集中排除」、いわゆる財閥解体指令により、解散させられる。しかし、仁科の尽力により、「株式会社科学研究所」として生き延びる。事業の柱は医薬品。ペニシリンやストレプトマイシンの製造販売などを行う。かつて不治の病だった結核は、ストレプトマイシンの登場によって治る病となった。
 1958年、特殊法人理化学研究所が設立、戦前の理研を引き継いで再スタート。初代理事長は、長岡半太郎の子息である長岡治男。歴代の所長、理事長で、唯一事務系出身。三井不動産の常務取締役などを歴任したビジネスマン。
 
●特定国立研究開発法人(p70)
 2015年4月、松本紘(ひろし:宇宙科学工学者、元京都大学総長)が理事長に就任、全く新しい組織として再発足する。物質・材料研究機構、産業技術総合研究所とともに、「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」により、2016年10月、「特別国立研究開発法人」となる。
 
(2017/6/3)KG
 
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ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
 [自然科学]

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
 
パット・シップマン/著 河合信和/監訳 柴田譲治/訳
出版社名:原書房
出版年月:2015年12月
ISBNコード:978-4-562-05259-2
税込価格:2,592円
頁数・縦:289p・20cm
 
 
 さまざまな分野の研究成果を引用し、犬の家畜化がネアンデルタール人の絶滅に影響したとの仮説を展開する。
 
【目次】
第1章 わたしたちは「侵入」した
第2章 出発
第3章 年代測定を疑え
第4章 侵入の勝利者は誰か
第5章 仮説を検証する
第6章 食物をめぐる競争
第7章 「侵入」とはなにか
第8章 消滅
第9章 捕食者
第10章 競争
第11章 マンモスの骨は語る
第12章 イヌを相棒にする
第13章 なぜイヌなのか?
第14章 オオカミはいつオオカミでなくなったのか?
第15章 なぜ生き残り、なぜ絶滅したか
 
【著者】
シップマン,パット (Shipman, Pat)
 ペンシルヴァニア州立大学名誉教授。古人類学の専門家。著書に『人類進化の空白を探る』(ローヌ・プーラン科学図書賞受賞/アラン・ウォーカーとの共著/河合信和訳/朝日新聞社)ほか多数あり。
 
河合 信和 (カワイ ノブカズ)
 1947年、千葉県生まれ。1971年、北海道大学卒業。同年、朝日新聞社入社。2007年、定年退職。進化人類学を主な専門とする科学ジャーナリスト。旧石器考古学や民族学、生物学全般にも関心を持つ。
 
柴田 譲治 (シバタ ジョウジ)
 1957年生まれ、神奈川県出身。翻訳業。
 
【抜書】
●最小存続可能個体数(p20)
 哺乳類の最も小さな個体群(最小存続可能個体数:MVP)は1,000個体と考えられている。
 1,000個体以下になると、近親交配のせいで遺伝的多様性が消失し、有害な突然変異が高頻度で生じるようになる。
 また、小規模集団は大きな集団よりもハリケーンや伝染病、干ばついった偶発的な事象に対しても脆弱になる。
 MVPは、約100年後に95%の確率で生存していることを条件に定義されている。
 
●K戦略種(p81)
 生物の繁殖に関する戦略。「K」は、環境収容力を示す数式記号Kにちなんでいる。
 出産間隔が長くゆっくりと繁殖し、一度に生まれる子の数も少なく、未熟なまま生まれるため、親による手厚い世話が欠かせない。
 誕生時から「学習」が重要になる。
 肉食動物や類人猿にしばしばK戦略種が存在し、資源に制約がある場合、K戦略種は強力な競争相手となる。
 
●r戦略種(p82)
 個体数の成長速度の記号rにちなんだ名称。
 多くの子を産み、急速に繁殖し、子どもは大人と同じように動き、食べ、コミュニケーションをとり、行動する。ヌーは、誕生後数分で走り出し、乳を飲むようになる。
 
●グレイザー、ブラウザ―(p83)
 草食動物の3分類。
 (1)グレイザー……草を食べる種。
 (2)ブラウザー……木の葉を食べる種。
 (3)果実食種。
 
●ギルド(p84)
 〔生態学者はよく「同じギルドに属するふたつの種は競争する」といった言い回しをする。〕
 大型捕食者のギルド、グレイザーのギルド、ブラウザーのギルド、etc。
 
●ネアンデルタール人の食事(p87)
 マックスプランク進化人類学研究所のマイケル・リチャーズと、ワシントン大学のエリク・トリンカウスの研究。13件のネアンデルタール人の同位体分析。約12万年前~3万7000年前(未較正)の骨。
 成人ネアンデルタール人の食事に含まれるたんぱく質は、すべて、主に大型陸上哺乳類のものだった。遺跡付近に生息していたノウマ、アメリカアカシカ、トナカイ、オーロックスなど。
 同地域の頂点捕食者ホラアナライオン、オオカミ、ハイエナと非常によく似ていた。
 長い生存期間中、非常に安定した食習慣を維持し、自らが位置する栄養段階に適応していた。
 ネアンデルタール人が海洋性の食物を多く食べていた証拠は見つかっていない。
 現生人類も大型陸上動物を食べていたが、食物の内容はネアンデルタール人よりずっと多彩だった。
 
●体重と獲物(p148)
 捕食者の体重と獲物の動物の大きさの関係は、哺乳類では一定している。
 ・体重21.5kg以下の肉食動物は、主に自分の体重の45%以下の獲物を主食とする。
 ・体重21.5kg以上の肉食動物は、主に自分の体重の45%以上の獲物を食べる。概ね50kgの哺乳類捕食動物は、約59kgの獲物に狙いを定める。
 この体重による分類は、139種の肉食動物の92.1%にあてはまる。
 ・小型肉食動物の四分の三は雑食で、脊椎動物の肉だけでなく昆虫や植物も食べる。大型肉食動物の半数以上は、脊椎動物しか食べない。例外は、雑食のクマとその近縁種。
 
●毛皮(p170)
 グラヴェット期のマンモス骨が大量に出土する遺跡から、大量のオオカミの骨、ホッキョクギツネやノウサギなどの骨も見つかる。これらは厚い毛皮を持つ動物で、このころ現生人類の祖先は毛皮を利用していた。骨製の針に穴を空けて毛皮の縫い合わせをしていた。衣服を作り、敷物を作って暖かく寝ていた。
 
●家畜化(p256)
〔 5万年前から今日に至るまで、現生人類が圧倒的な侵入者となり得たのは、家畜化という前例のない他種との連帯形成能力が要因のひとつだったと私は考えている。私たちはオオカミを家畜化してイヌを生み出し、ずっとあとには野生ムフロンをヤギにし、オーロックスをウシに、リビアネコをイエネコに、さらにウマを高速輸送システムに変えた。わたしたちは他の種の形質を借り受ける能力を独自で生み出し、それらを利用して地球上のどんな生息地でも生き残れる能力を身に着けた。〕
 
●ネアンデルタール人の絶滅(p257)
〔 気候変動と新たな能力を身につけた現生人類の到着が重なりその影響が同時に作用したこと、それがネアンデルタール人絶滅の原因だと私は考えている。〕
〔 ネアンデルタール人の食生活や石器が絶滅前の数十万年間まったく変わっていなかったことを考えれば、ネアンデルタール人は自らの独自世界にこだわり、新たな技術を開発することにも生活様式を変えることにも積極的ではなかったらしい。現生人類と他の頂点捕食者(オオカミイヌ)との他に類を見ない連帯は、ネアンデルタール人と他の多くの捕食者の生存を不可能とする最終戦略となったのかもしれない。気候変動に新たな激しいギルド内競争が組み合わさったことが、ネアンデルタール人らに重大な困難をもたらしたのだ。考古学的また古生物学的記録からみえてくる状況は、頂点捕食者の出現による典型的な栄養カスケードにそっくりだ。この栄養カスケードが起きたからこそ、気候変動によって他のすべての種の間の相互関係が変化することになったのではないだろうか。〕
 
(2017/5/21)KG
 
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ヒトの起源を探して 言語能力と認知能力が現生人類を誕生させた
 [自然科学]

ヒトの起源を探して: 言語能力と認知能力が現代人類を誕生させた
 
イアン・タッターソル/著 河合信和/監訳 大槻敦子/訳
出版社名:原書房
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-562-05342-1
税込価格:3,240円
頁数・縦:365p・20cm
 
 
 人類学の教科書的な内容。化石人類の歴史を辿り、現生人類誕生のなぞに迫る。
 
【目次】
ヒトの太古の起源
二足歩行の類人猿の繁栄
初期のヒト科の生活様式と内面世界
多様なアウストラロピテクス類
闊歩するヒト
サバンナの生活
アフリカを出て、舞い戻る
世界に広がった最初のヒト
氷河時代と最初のヨーロッパ人
ネアンデルタール人とはだれなのか?
新旧の人類
謎に満ちた出現
象徴化行動の起源
初めに言葉ありき
 
【著者】
タッターソル,イアン (Tattersall, Ian)
 アメリカ自然史博物館人類学部門名誉学芸員。ケンブリッジ大学で考古学と人類学、イェール大学で地質学と脊椎動物の古生物学を学び、これまでにマダガスカル、ベトナムなどの世界各国で霊長類学と古生物学の調査を実施。ヒトの化石や進化、認知機能の起源、マダガスカルのキツネザルの生態研究を主な研究テーマとする。
 
河合 信和 (カワイ ノブカズ)
 1947年、千葉県生まれ。1971年、北海道大学卒業。同年、朝日新聞社入社。2007年、定年退職。進化人類学を主な専門とする科学ジャーナリスト。旧石器考古学や民族学、生物学全般にも関心を持つ。
 
大槻 敦子 (オオツキ アツコ)
 慶應義塾大学卒。
 
【抜書】
●トゥーマイ(p31)
 サヘラントロプス・チャデンシス。最古のヒト科で最古の時代のもの。約700万年前?
 2001年、アフリカ中西部のチャドで発見された。大地溝帯のかなり西方。
 ひどくつぶれた頭蓋といくつかの部分的な下顎骨。類人猿のような小さな脳頭蓋と、類人猿ともヒトとも似ていない大きな平たい顔。
 ヒト科に分類された理由……①臼歯にほどほどに厚いエナメル質があり、犬歯は小さく(退縮した犬歯)、下の小臼歯が研ぐような仕組みがない。②大後頭孔(脊髄が頭骨から出る大きな穴)の位置が、顔面に対して頭蓋の下側に位置する、すなわた直立二足歩行の特徴が表れている。
 トゥーマイ……地元民の言葉で「命の希望」を意味する。
 
●アルディピテクス(p34)
 1994年、エチオピア北部のアワシュ川流域のアラミスの堆積岩から、440万年前のアルディピテクス・ラミダスの骨が発見された。
 頭蓋の容積は300~350ccで、チンバンジーと同程度。体の大きさも小型のチンバンジーと同じで、50kg程度。後頭孔がやや前方に移動。犬歯は、小臼歯が研ぐような仕組みがない。
 腕と手の骨は、樹上生活者のもの。
 520~580万年のアルディピテクス・カダッバと合わせて、ヒト科の初期の仲間と考えられる。
 
●運搬角(p51)
 上腿と下腿の骨の骨幹に見られる角度。大腿骨は、膝に向かって内側に斜めに傾斜しているが、体の重さは脛骨と足首を通って足へと真っすぐ下方へかかっている。この形状のため、歩いたり走ったりする時には両足がすぐ近くを通り、体重が片足からもう一方の足へと移るときに重心が左右に移動しなくて済む。
 
●ルーシー(p58)
 アウストラロピテクス・アファレンシス。1974年、エチオピア北東部のハダールで発見される。
 約318万年前。 比較的完全な、約40%の骨格。運搬角が見られる。
 身長1mちょっと、体重27kgほどと推定。
 足が長く、木登りにも適応していた。
 
●ディキカ(p71)
 エチオピア、ハダールからアワシュ川を渡った南。保存状態の良い、330万年前の3歳の幼児個体の骨格の一部が発見された。アウストラロピテクス・アファレンシス。「セラム(平和)」と名付けられた。
 さらに、340万年前の地層から、石器によってしか付けることのできない傷の付いた、哺乳類の骨のかけらが4つ出土した。現在知られている石器は、アワシュ川流域のそれほど遠くない場所で発見された、260万年前のもの。
 
●オルドヴァイ(p121)
 1959年、ルイス&メアリー・リーキーは、タンザニアのオルドヴァイ峡谷で「超頑丈な」アウストラロピテクスの頭蓋の化石を発見し、「ジンジャントロプス」と名付けた。かつて東アフリカ沿岸一帯を支配した「ザンジ」帝国にちなんだ命名。現在は、リーキーの研究の後援者の名を取って、「パラントロプス・ボイセイ」種に分類されている。180万年前のものと判明。
 平坦で強大な臼歯が、小さな切歯と犬歯を完全に圧倒していることから、親しみを込めて「くるみ割り人形」と呼ばれている。
 リーキー夫妻は、オルドヴァイ峡谷で原始的な石器を多数発見した。
 
●トゥルカナ・ボーイ(p142)
 1984年、ケニアのトゥルカナ湖の西側で発見される。正式にはKNM-WT15000。160万年前、ホモ・エルガステル。
 年齢8歳、身長約160cm、体重68kgほど。成長すれば、185cmくらいになった? 一説で180cm以下。
 首から下は、現生人類とさほど変わらない。樹上の隠れ場所から離れて、開けたサバンナを闊歩することに順応したヒト科。
 ホモ・エルガステル……「働く人」という意味。早期アフリカ型ホモ属。サピエンスの直接の祖先?
 
●脊柱の幅(p158)
 脊柱は、上体を支えるだけでなく脳から下へと脊髄を通しており、その脊髄から伸びる神経網を介して体の残りの部分を制御したり、そこから情報を受けたりしている。
 脊髄の通る管の幅は、ヒト科を含むすべての霊長目でほぼ同じ。しかし、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、脊髄が通る管の幅が、肺のある胸部で異常に広くなっている。胸郭と腹壁の筋肉に繋がる増加した神経組織を収容している。その神経は、呼吸のコントロールを強化するためのもの。発話に用いる音の微妙な調節に必要な細かい制御を行う。
 
●オメガ3脂肪酸(p164)
 ホモ・エルガステルが、脳を大きくするために用いたエネルギーは、動物性蛋白質と脂肪。魚釣りによって、そのエネルギーを確保していたのかもしれない。
 水生動物は、脳が正常に機能するために重要なオメガ3脂肪酸などを豊富に含む。
 オメガ3脂肪酸などは、類人猿の小さな脳を維持するくらいの限られた量であれば、体内で生成される。しかし、大きくなった脳に必要な量は、食生活で補うしかない。
 過去200万年ほどの間にヒト科の脳が大きくなるにあたっては、魚など水中に棲む動物の摂取が一つの前提条件になったのかもしれない。
 
●シラミ(p167)
 ほとんどの哺乳動物には、1種類のシラミしか寄生しない。しかし、ヒトには、2種類が寄生している。
 頭髪に棲むアタマジラミと、陰毛に棲むケジラミ。アタマジラミは人間に固有で、体毛に覆われていた頃から体中にいたものの名残。ケジラミはゴリラから移った。
 ヒトとゴリラのケジラミの分岐は、300万~400万年前。そのころから、ヒトは体毛を失っていた? アウストラロピテクス・アファレンシスの時代?
 
●順応(p176)
 〔私たちは一般に時として劇的に変動する世界で、変わりゆく外部の環境にいつも柔軟に対応し続けることで特殊化する危険を避けてきた。ヒトは主として変化に適応してきたのではなく、むしろ順応してきたのである。〕
 
●パナマ地峡(p212)
 300万年前、北アメリカと南アメリカが衝突してパナマ地峡ができた。
 温かい太平洋の水が大西洋へと循環しなくなり、アフリカで冷却と乾燥が加速、北極圏で氷冠の形成が始まった。
 アフリカで、草原に適応した草食哺乳類が激増し、それよりも古い、主に木の葉を食べる種類が姿を消した。
 その時代の動物相の変化に示される環境の移り変わりが、ホモ属が誕生するための最も重要な刺激になった、と考える研究者もいる。
 
●MIS(p218)
 古気候学者は、更新世の開始以降に102の異なる「海洋酸素同位体ステージ(MIS)」を特定し、最新のものから順に番号を割り振った。そのため、温暖なステージには奇数が、寒冷なステージには偶数が当てられている。
 現在は暖かいMIS1、最後の氷河期はMIS2。ステージ5は、さらにa、b、c、d、eに分けられ、最古の5eは、非常に温暖だったため、海面は現在より5、6メートルも高かった。
 前期更新世は、気温の変動が頻繁だったが、それほど顕著ではなかった。現代に近づくにつれ、変動の間隔は広がり、差異は大きくなっている。
 
●ホモ・アンテセソール(p219)
 スペイン北部のアタプエルカ山地にあるシマ・デル・エレファンテの遺跡で、120万年前のホモ属の下顎が発見された。同じアタプエルカのグラン・ドリナ遺跡で見つかった78万年前のヒトの化石とともに、「ホモ・アンテセソール」に分類された。二つの遺跡の粗雑な石器には大きな違いがない。
 ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の共通の祖先であるかどうかは不明。
 グラン・ドリナの骨には、カニバリズムの証拠が残されている。石器を使って、他の草食獣と同じように処理されていた。
 
●ネアンデルタール人(p243)
 ネアンデルタール人の骨の窒素15/窒素14の比率の分析によると、その値はオオカミ、ライオン、ハイエナと同等のレベルだった。食性に占める肉の割合が多いことを示している。
 サン・セゼールの遺跡の後期のネアンデルタール人は、同じ遺跡のハイエナよりも高い。マンモスとケブカサイを狩っていた可能性が高い。
 
●エル・シドロン(p246)
 エル・シドロンにある5万年前のネアンデルタール人の遺跡。成体6、青年期3、少年期2、幼児1の計12体の壊れた遺骨に、カニバリズムの証拠。歯のエナメル質減形成という環境ストレスの形跡があり、食生活は厳しかった。「美食としてのカニバリズム」ではなく、「生き残るためのカニバリズム」だったと推定される。12体は、一つの社会集団で、他の集団に襲撃され、食べられた。
 mtDNA分析の結果、3個体の成人男性は同じmtDNA系統、女性はそれぞれ異なる系統。つまり、男性は生まれた集団に残り、女性は離れる。
 
●ムスティエ文化(p251)
 調整された石核を作る石器づくりの技法の一種。ネアンデルタール人の石器文化。予想通りにきれいに割れる石材の調達が重要だった。
 もっとも特徴的な石器は、程よい大きさの尖頭器と、両側縁が凸上のスクレイパー、剥片で作られたタイプの涙滴型のハンドアックス。
 
●シャテルペロン文化(p259)
 フランス西部とスペイン北部に点在して見つかる石器。ムスティエ文化とオーリニャック文化の両方の特徴を兼ね備えている。3万6000~2万9000年前。
 オーリニヤック文化……上部旧石器時代の最初の文化。
 ムスティエ文化の「剥片」の石器だけでなく、骨や象牙で作られた道具と並んで、オーリニャック文化の石器の主な特徴である「石刃」も見られる。石刃は、長さが幅の2倍ほどある細長い剥片。クロマニヨン人を代表する石器。
 ※著者は、シャテルペロン文化がネアンデルタール人のものと示唆しているが、「監訳者あとがき」では、最近の研究により、早期現生人類のものとされる。(p328)
 
●珪質礫岩(p285)
 南アフリカのピナクルポイント遺跡では、7万2000年前ごろ、石器にはあまり良質ではない珪質礫岩(シルクレート)を、適度に熱してから手の込んだ段階を経て冷やし、硬くする技術を開発していた。
 この技術はあまりに複雑で、あらかじめ計画を立てておかなければならない段階が数多く含まれる。原因と結果の長い連鎖を概念として捉えて心の中に描くことのできる精神が必要。
 
●志向性(p301)
 心の理論。
 ヒトは、類人猿にはないような種類の向社会性――他者への配慮――ばかりでなく、一歩距離を置いた傍観者のような社会性という特徴も併せ持つ特殊な社会性を示す。
 ヒトは、自分が考えていることが分かっており(一次志向性)、他者が考えていることを推測でき(二次志向性)、自分以外の人間が第三者について考えていることを想像することができる(三次志向性)。
 ヒトは、六次の志向性までは何とかなるが、そこから先は頭が混乱する。
 
●連続創始者効果(p304)
 祖先となる集団内に子孫となる集団が芽生えて離れていくたびに、その個体群のサイズが小さくなって生じる現象。子集団が増えるたびに、ボトルネック効果の影響で、遺伝子の多様性が失われていく。集団遺伝学者によく知られている事象。
 世界中の言語の音素の数にも、この法則が当てはまる。
 ニュージーランドの認知心理学者クエンティン・アトキンソンは、世界中の言語で音素の分布を調べた。その結果、アフリカから離れれば離れるほど、音素の数が少なくなる。
 アフリカのきわめて古い、舌打ちするような「吸着音(クリック)」言語のいくつかには、100個を超える音素がある。英語では45個、ハワイでは13個しかない。ハワイは、地球上で最後に人間が植民した土地の一つ。
 アトキンソンの分析では、収束点がアフリカ南西部にある。
 
●ネアンデルタール人、ホモ・フロレシエンシス(p327、河合)
 最近の放射性炭素年代測定法の較正値によると、ネアンデルタール人の絶滅は、2万6~7000年前ではなく、4万年前。ヨーロッパでの現生人類との共存期間は、5000年程度。
 4万5000年前ごろからムスティエ文化の遺跡は次第に細り、4万年前には消滅した。
 リャン・ブア洞窟で発見されたホモ・フロレシエンシスのLB1骨格の年代は、1万2000年前ではなく、10万~6万年前。新しく見積もっても5万年前。この時期、現生人類はまだオーストラリアに到達していない。現生人類と遭遇していない可能性が高い。
 
(2017/5/5)KG
 
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愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界
 [自然科学]

愛しのオクトパス――海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界

サイ・モンゴメリー/著 小林由香利/訳
出版社名:亜紀書房
出版年月:2017年3月
ISBNコード:978-4-7505-1503-8
税込価格:2,376円
頁数・縦:344, 5p・20cm


 タコには三つの心臓があり、人間の脳にあるのと同様なニューロンが8本の足に存在するという。雄と雌の見分け方は、目から右に数えて3本目の足を見る。尖端に吸盤がないのが雄。この足は、交接器となっている……。
 タコは、5億年前に分岐して人類とは異なる進化の道筋を歩んできたが、ひょっとすると水中生物のなかでもっとも賢い存在なのかもしれない。好奇心旺盛で、「知性派」のタコとの、そしてタコを愛する人々との交流を描いたエッセーである。
 欧米人は、タコを怪物・妖怪のたぐいと思っているらしいが、日本人は違う。タコを目にすると、まずは「美味しそう」と思ってしまう。そんな我々を、タコは怪物・妖怪と思っているかもしれない。

【目次】
第1章 アテナ―軟体動物の心と出合う
第2章 オクタヴィア―ありえないはずなのに 痛みを味わい、夢を見る
第3章 カーリー―魚が結ぶ縁
第4章 卵―始まり、終わり、変貌
第5章 変貌―海のなかで息をする
第6章 出口―自由、欲望、脱出
第7章 カルマ―選択、運命、そして愛
第8章 意識―考え、感じ、知る

【著者】
モンゴメリー,サイ (Montgomery, Sy)
 ナチュラリスト、作家。大人向け、子供向けのノンフィクション20冊を執筆、高い評価を受けている。大人向けの『幸福の豚―クリストファー・ホグウッドの贈り物』(バジリコ)は全米ベストセラーに。オウムの保護活動を取り上げたKakapo Rescueで良質の子供向けノンフィクションに贈られる「ロバート・F・サイバート知識の本賞」を受賞。アメリカの動物愛護団体「全米人道協会(HSUS)」およびニューイングランド書店協会の特別功労賞、3つの名誉学位など、数々の栄誉に浴している。

小林 由香利 (コバヤシ ユカリ)
 翻訳家。東京外国語大学英米語学科卒業。

(2017/4/20)KG

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最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く
 [自然科学]

最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く

ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー/著 櫻井祐子/訳
出版社名:文藝春秋
出版年月:2016年11月
ISBNコード:978-4-16-390559-4
税込価格:1,782円
頁数・縦:300p、図版12p・20cm


 大学院博士課程在学中の研究者による、氷河期=後期旧石器時代の洞窟などの遺跡に残された「芸術作品」に関する考察。特に、抽象的な図形に着目し、それらのデータベースを構築中である。それは文字なのか、単なる落書きなのか、それともシャーマンの幻覚なのか?

【目次】
古の人類が残した記号
何のために印をつけたのか?
人類のはるか以前に道具を使った者たち
死者をいたむ気持ちの芽生え
言葉はいつ生まれたのか?
音楽の始まり
半人半獣像とヴィーナス像
農耕以前に布を織っていた
洞窟壁画をいかに描いたか?
欧州大陸に到達以前から描いていた
唯一の人物画
遠く離れた洞窟に残される共通の記号
それは文字なのか?
一万六千年前の女性の首飾りに残された記号群
壁画は野外にも残されていた
最古の地図か?
トランス状態で見える図形なのか?
データベースを世界の遺跡に広げる

【著者】
ボン・ペッツィンガー,ジェネビーブ (von Petzinger, Genevieve)
 古人類学者。カナダ・ビクトリア大学人類学博士課程在学中の研究者。これまで、顧みられていなかった氷河期の洞窟に残された記号に注目し、カメラマンの夫とともにもぐって採取。欧州の368カ所の洞窟を調べ上げ、5000以上の記号を収集し、世界で初めて氷河期における幾何学記号のデータベースを作りあげた。ナショナル・ジオグラフィックの『2016年・新世代の探求者』(Emerging Explorer)に選出。「ナショナル・ジオグラフィック」誌や「ニュー・サイエンティスト」誌をはじめとするメディアからも注目を集めている。

櫻井 祐子 (サクライ ユウコ)
 翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒。大手都市銀行在籍中の96年、オックスフォード大学で経営学の修士号を取得。98年よりフリーの翻訳者として活躍。

【抜書】
●12万年前の芸術作品(p12)
 20万年前に現生人類が現れたが、現代に通じる人間の精神の創造性(=芸術)を十全に活用するようになったのは、いつか?
 現代的思考の兆しがかすかに見え始めるのは、12万年前のアフリカ。彫刻が施された骨や、赤いオーカー(赤鉄鉱)や首飾りが入れられた墓などが散見される。
 10万年前以降になると、幾何学模様(線、格子型、山形など)が刻まれたポータブルアート(持ち運びできる芸術品)が現れ始める。
 5万年前、岩壁画や小像、首飾り、複雑な埋葬、楽器が大量に出現し始める。
 これらの芸術的慣習のすべてが、10万年以上前に話し言葉が完成していたという通説を裏付けている。

●ツインリバーズのオーカー粉(p42)
 ザンビアのツインリバーズという丘の上の洞窟。30~26万年前の遺跡に、オーカーを粉末にした跡が残されている。現生人類以前の遺跡。
 オーカーは、酸化鉄を主成分とする石。洞窟の壁に塗る赤色をはじめとする塗料を作るのに用いられる無機顔料。
 オーカーの粉は、道具などの接着剤、虫除け、皮なめし、止血などの治療用としても使われる。
 ツインリバーズの住人は、真っ赤なオーカーのとれる鉱床に頻繁に通っていた。日常利用ではなく、象徴的表現のためにオーカーを使っていた可能性がある。

●ベレハット・ラムの小像(p43)
 イスラエル北部のゴラン高原地域にある死火山のクレーターの近くで見つかった、23万年前の遺跡。
 長さ4cm未満の火山岩の「小像」が出土。人の形に似た石に、3本の溝が掘られている。1本は首のくびれ、2本は腕を模したU字型。「乳房」を強調するために道具で彫られたと考えられる跡もある。肉感的な女性のようなオブジェとなっている。
 世界最古の具象的な芸術作品?

●ブロンボス洞窟の絵の具セット(p69)
 南アフリカの西ケープ州の荒涼とした吹きさらしの丘の斜面にある。現生人類が10万年~7万年前ごろまで居住していた。海岸線から800mほど離れていたが、海洋資源を積極的に利用していた。
 ブロンボスで、10万年前の二つの「絵の具セット」が発見された。顔料を調合するためのアワビの貝殻、赤いオーカーと、骨粉を加熱して抽出した骨髄油、炭の粉、石英粒、石片、など。これらの原料に水や尿などの液体を混ぜて顔料が作られた。貝殻の内側には水面の高さを示す「水位標」が何本か付いていた。
 オーカーを砕くのに使われた石と、出来上がった化合物を物や体などに塗るのに使われた赤く染まった骨が、貝殻のすぐそばで発見された。
 オーカーの最も近い産地は、2.4kmから4.8kmは離れていた。
 ほかの生活遺物が見つかっていないので、短期滞在者だった可能性が高い。
 複数の幾何学的模様の付いたオーカーのかけらも発見されている。抽象模様の付いた最古の芸術品? しかし、単純すぎて、意図的につけられたものかどうか不明。

●ディープクルーフのダチョウの卵(p78)
 南アフリカの西ケープ州ケープタウンの北にあるディープクルーフ岩陰遺跡。
 8万5000~5万2000年前の地層で、模様が刻まれたダチョウの卵殻の破片が発見された。この幾何学模様は、どう見ても意図的に付けられたもの。これまでに400片以上が出土している。
 たった5種類のデザインとわずかなバリエーションが、3万年以上の間使われていた。模様は、意図的に標準化されていたと思われる。世代を超えて模様を伝えていた。

●エル・カスティージョ洞窟(p145)
 世界最古の岩壁画。紅茶の受け皿ほどの大きさの赤い円盤状の壁画。少なくとも4万800年前。

●後期旧石器時代の4区分(p149)
 ヨーロッパの氷河期(後期旧石器時代)は、以下の4つに区分される。
 オーリニャック期……4万年~2万8000年前。エル・カスティージョの赤い円盤、ドイツのホーレンシュタイン・シュターデルのライオンマンは約4万年前。3万7000~3万5000年前の最古のフルート(骨製、象牙製)、フランスのショーヴェ洞窟遺跡、など。
 グラヴェット期……2万8000~2万2000年前。後期旧石器時代の黄金期。石器製作の技術が大幅に進歩。入念な埋葬行為。象徴的な芸術作品が多く生み出される。ロックアートよりもポータブルアートのほうがよく知られる。ドルニ・ヴィエストニッツェ遺跡。気候変動により、グラヴェット期の終期にヨーロッパ北西部から南方への人類大移動が始まった。
 ソリュートレ期……2万2000~1万7000年前。最終氷期最盛期(LGM)。さまざまな集団の密集化により集団間の交流が密になり、氷河期末期の「芸術の爆発」と社会の複雑化が引き起こされた。岩絵遺跡は集会所や儀式の会場となり、この時期の社会の統合に役立った。複雑な線刻画が特徴。
 マドレーヌ期……1万7000~1万1000年前。人類が再びヨーロッパ全域に拡散。現在知られている岩絵遺跡のうち約75%がこの時期のもの。

●アッダウラ洞窟(p171)
 シチリア島ペッレグリーノ山の1万3000~1万2000年前の遺跡。17人の人間が描かれた線刻画。人物の大きさは平均すると20cm程度。写実的で躍動感にあふれている。
 チュニジアと200km。北アフリカの影響を受けているかもしれない。

●ゲシュヴィント領域(p198)
 脳の領域。頭頂葉にある。側頭葉のウェルニッケ野の近くにある。
 文字言語であれ音声言語であれ、頭に入ってきた言葉の理解とふるい分けを司る。

●文字の定義(p206)
〔 文字体系を定義する方法はいろいろあるが、最も基本的なところでいうと、「耐久性のある面に書かれた、視覚的で慣習化された記号を利用する、相互コミュニケーションのシステム」である。〕

●トランス状態(p273)
 最近の神経心理学研究によると、トランス状態にあるシャーマンのように「意識変容状態」にある人には、一定の抽象図形が見える。
 網目、ジグザグ、点、渦巻き、懸垂曲線(紐の両端を持って垂らしたときにできる曲線)などの幾何学形状をとり、光り輝き、点滅し、移動し、回転し、拡大するパターンとして認識される。
 トランス状態に陥ると眼圧が高くなり、網膜内の細胞が発火して幾何学的な模様が見える。どんな文化的背景を持っている人でも同様。

(2017/4/17)KG

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つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
 [自然科学]

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線 (ブルーバックス)
 
理化学研究所脳科学総合研究センター/編
出版社名:講談社(ブルーバックス B-1994)
出版年月:2016年11月
ISBNコード:978-4-06-257994-0
税込価格:1,253円
頁数・縦:322p・18cm


 脳科学の最先端を、BSI(Brain Science Institute:理化学研究所脳科学総合研究センター)で行われている研究の紹介を通して解説。サイエンスライターの丸山篤史がインタビューを元に原稿を執筆。

【目次】
第1章 記憶をつなげる脳
第2章 脳と時間空のつながり
第3章 ニューロンをつなぐ情報伝達
第4章 外界とつながる脳
第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み
第6章 脳と感情をつなげる神経回路
第7章 脳研究をつなげる最新技術
第8章 脳の病の治療につなげる
第9章 親子のつながりを作る脳

【著者】
利根川進 (トネガワ ススム)
 1939年生まれ。京都大学理学部卒業。カリフォルニア大学サンディエゴ校博士課程修了。1987年、「多様な抗体を生成する遺伝的原理の解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞。2009年より、理化学研究所脳科学総合研究センター センター長。

藤澤茂義(フジサワ シゲヨシ)
 1977年、岡山県生まれ。京都大学工学部卒業。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。米国ラトガース大学分子行動神経科学センター、ニューヨーク大学医学部神経科学センター研究員などを経て、2012年より、システム神経生理学研究チーム チームリーダー。

合田裕紀子(ゴウダ ユキコ)
 1962年、兵庫県生まれ。トロント大学理学部卒業。スタンフォード大学生化学科大学院博士課程修了。カリフォルニア大学サンディエゴ校理学部助教授、英国MRC細胞生物学ユニット(ロンドン大学)シニアグループリーダーなどを経て、2011年より理化学研究所脳科学総合研究センター シナプス可塑性・回路制御研究チーム チームリーダー。2015年より副センター長も兼務。

風間北斗(カザマ ホクト)
 1978年、米国ミシガン州生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学系研究科物理学専攻博士号取得。ハーバード大学大学院医学系研究科神経生物学科博士研究員などを経て、2010年より知覚神経回路機構研究チーム チームリーダー。2011年からは東京大学大学院総合文化研究科特任準教授も務める。

豊泉太郎(トヨイズミ タロウ)
 1978年、東京都生まれ。東京工業大学理学部卒業。東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。米国コロンビア大学博士研究員などを経て、2011年より神経適応理論研究チーム チームリーダー。2013年から3年間、東京工業大学大学院総合理工学研究科連携准教授も兼任した。

ジョハンセン, ジョシュア(Johansen, Joshua)
 1973年、米国カリフォルニア州生まれ。米国コロラド大学ボルダ―校心理学専攻卒業。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校神経科学専攻博士課程修了。ニューヨーク大学博士研究員を経て、2011年より記憶神経回路研究チーム チームリーダー。2015年からは、東京大学大学院総合文化研究科客員准教授も兼任。

宮脇敦史(ミヤワキ アツシ)
 1961年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。東京大学医科学研究所助手、カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員などを経て、1999年より理化学研究所脳科学総合研究センターに勤務。現在、副センター長、細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー。

加藤忠史(カトウ タダフミ)
 1963年、東京都生まれ。東京大学医学部卒業。滋賀医科大学精神医学講座助手、東京大学医学部精神神経科講師などを経て、2001年より精神疾患動態研究チーム シニア・チームリーダー。2015年から副センター長を兼務。

黒田公美(クロダ クミ)
 1970年、東京都生まれ。京都大学理学部物理系卒業。その後、大阪大学医学部に入学、同大大学院医学研究科博士課程修了。カナダ・マギル大学博士研究員として留学した2002年から親子関係の研究を始める。理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2015年より親和性社会行動研究チーム チームリーダー。

【抜書】
●エングラム(p24、利根川)
 ある出来事を記憶することによって脳内に起こり維持される物理的・化学的変化のことを「記憶のエングラム(痕跡)」という。
 記憶のエングラムセオリー……エングラムを作ることによって記憶ができたり、エングラムを保持している細胞群の発火でその記憶が思い出せされたりするというアイディアのこと。

●過誤記憶(p33、利根川)
 過誤記憶……False memory。現実に経験したことがないのに、あたかも経験したがごとく記憶ができてしまう。

●ヘブ則(p53、利根川)
 ヘブ則、ヘブの法則。
 シナプスを介したニューロンの信号伝達では、伝達効率(信号の流れやすさ)が変化する。よく使われるシナプスの伝達効率は上がり(シナプスの強化)、あまり使われないシナプスの伝達効率は下がる。
 伝達効率を決めているのは、シナプスにおける神経伝達物質の放出量、神経伝達物質を受け取るレセプターの数、シナプスそのものの大きさなど、様々な要因がある。

●スパイン(p54、利根川)
 スパイン……シナプス後部(神経伝達物質を受け取る側)にある構造。ここで刺激を受け取る。エングラムセルを刺激するスパインの数が多ければ、それだけ想起しやすくなる。
 初期アルツハイマー病においては、一般に海馬細胞のスパインの数が異常に少ない。初期アルツハイマー病は、記憶できないのではなく、記憶したものを想起できない症状。
 スパインを増やせば、初期アルツハイマー病の治療につながる可能性がある。

●ノンレム睡眠(p79、藤澤)
 あるラットの研究によると、睡眠中に、場所細胞の圧縮表現によるリプレイが行われていた。
 ノンレム睡眠中はリップル波(回顧や予定しているときと同じ)の上に、レム睡眠中はシータ波(歩行中と同じ)の上に圧縮されていた。夢を見ていない時には圧縮されて、夢を見ているときには歩行中と同じ速さでリプレイされていた。
 リプレイは、神経回路の強化に機能していると考えられている。

●視床室傍核(p273、加藤)
 双極性障害は、ミトコンドリアDNA機能障害によって起こると考えられている。うつ状態のマウスで、ミトコンドリアDNAの変異がたまっているところは、「視床室傍核」だった。
 視床室傍核……視床上部と呼ばれる場所にある。ここには、手綱核と松果体が含まれる。
 手綱核……たづなかく。良くないことが起きることを予測した時に活動。報酬系を抑制する働きをもつ。
 ミトコンドリア機能障害が関係している病気……糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島のミトコンドリア機能障害。パーキンソン病は、黒質(ドーパミンを神経伝達物質に持つ神経細胞)のミトコンドリア機能障害。

(2017/4/1)KG

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毛の人類史 なぜ人には毛が必要なのか
 [自然科学]

毛の人類史 なぜ人には毛が必要なのか (ヒストリカル・スタディーズ18)

カート・ステン/著 藤井美佐子/訳
出版社名:太田出版(ヒストリカル・スタディーズ 18)
出版年月:2017年2月
ISBNコード:978-4-7783-1557-3
税込価格:2,592円
頁数・縦:250, 32p・19cm


 「毛」ついて、生理学的、生物学的、動物学的、文化的、産業的、社会史的に、総合的に紹介する、「毛の博物学」。

【目次】
第1部 毛の起源と成長の謎
 哺乳類に生えた最初の毛
 毛はどのように生えるのか
 新しい毛が生まれる仕組み
 音のストレスは毛の成長を妨げる
第2部 毛をめぐる奥深い世界
 毛が伝えるメッセージ
 理容店の登場と発展
 髪の毛の驚異の性質
 毛髪の特徴と色の不思議
 究極の工芸品、かつら
 ひと房一二万ドルの髪
第3部 毛と人間の複雑な関係
 ビーバーの毛皮がもたらしたもの
 帝国の財源となった羊毛
 毛の意外な用途

【著者】
ステン,カート (Stenn, Kurt)
 20年間イェール大学教授として勤務(病理学および皮膚科学)。アデランスの米国研究機関アデランス・リサーチ・インスティテュート(ARI)の研究担当副所長および最高科学責任者として毛髪の最先端研究に携わり、ジョンソン・エンド・ジョンソンでもスキン・バイオロジー研究部門責任者を務める。毛包研究に関する講演や多数の科学論文を発表するなど、長年にわたって毛髪研究に従事している。

藤井 美佐子 (フジイ ミサコ)
 翻訳家。横浜市立大学文理学部卒。

【抜書】
●100万年前(p27)
 ヒトは、ほかの動物には温度に敏感な脳を守るため、被毛を失った、という説が有力。
100万年から300万年前に、霊長類の脳の大型化が進んだのと同時に被毛を失い始め、エクリン腺を獲得するようになった。エクリン腺の機能は、汗(ほとんどが水分の分泌物)の放出によって、体温を調節する。

●つむじ(p43)
 アメリカ国立がん研究所のアマル・クラーの、北アメリカの成人500人を対象にした調査によると、右利きの人の90%以上のつむじが時計回り。左利きと両手利きのヒトはつむじの向きと利き手との関連が見られない。
 ボン大学のベルント・ヴェーバー教授によると、つむじが時計回りの被験者は左脳の言語中枢との強い関連が認められたが、つむじが反時計回りの被験者にはそのような関連はなかった。
 知的発育不全の子供頭皮には、対象群と比較して2倍の頻度で複数のつむじがある。複数のつむじがある、あるいは複数のつむじが交差している子供は、脳の形成異常が潜んでいる可能性が高い。

●フェルト(p128)
 フェルトは、羊毛の繊維を絡ませ、キューティクル細胞を開かせて結合させたもの。
 フェルトに適した素材は、非常に細くて縮れが多く、キューティクルが目立つメリノヒツジの羊毛。
 【製造工程】
  ①羊毛を洗う。
  ②カードという器具で梳かして繊維の向きをそろえる。
  ③目の粗いシート状にならす(バット)。
  ④希望の厚さになるまでバットの層を上に重ねていく。帽子用なら1層か2層、毛布やラグマットはさらに多く重ねる。
  ⑤重ねたバットを温かい石鹸水に浸してローラーをかけ、揉んでたたく。バットが目の詰まった塊になったらフェルト化完成。

●メディチ家(p196)
 イングランドでは、中世以降、最重要の輸出品は羊毛だった。
 13~14世紀に羊毛交易が拡大したことで、新たな資本調達の技術や手段が必要になった。その過程で商人は、現代の資本主義、銀行家、金融の基礎を築く。その頃の羊毛商人は、教皇の代理人として教会税の徴収にあたるイタリア人たちだった。現金を持たない修道院は、袋に詰めた羊毛で教会税を支払っていた。
 16世紀半ば、イングランドがローマカトリック教会から独立すると、商人たちは徴税人から独立した羊毛取引専門の商人へと変貌した。
 羊毛市場の規模が拡大し、羊毛商人の一部は莫大な利益を得て、商人兼銀行家となり、巨大な資本を支配し、ヨーロッパじゅうに手を広げる。ヨーロッパ初の大規模な銀行制度が生まれる。
 代表的な商人銀行家一族が、メディチ家。1297年には、フィレンツェの毛織物製造業者のギルド「アルテ・デッラ・ラーナ」に加盟しいていた。メディチ銀行が羊毛交易で築いた財産をもとに設立され、フィレンツェがイングランドの羊毛を大量に輸入していた。

●フランドル(p198)
 ヨーロッパの羊毛加工の二大中心地はフランドルとフィレンツェ。
 イングランドは、原料の羊毛が主要な産物で、生産した羊毛をフランドルに輸出し、そこで作られた上質な毛織物を輸入していた。
1258年、ヘンリー3世国王の時代、「オックスフォード議会」(別名“狂気の議会”。国政改革案を王に提示した)において、イングランドは質の高い毛織物産業を自国で育成しなければならないとの判断が下された。主にフランドルに対する、毛織物の輸入と原毛の輸出を規制する法律をつくる。
 その後、フランドルの優秀な織物職人をイングランドに呼び込むことにする。当時、低地地域にに吹き荒れていた政治的、宗教的な過激思想のせいで、多くの職人がフランドルから移住してきた。

●雄の尻尾(p217)
 バイオリンやビオラ、チェロなど弦楽器の弓で最高級品は、シベリア産かモンゴル産の雄の白馬の尻尾の毛。
 寒冷地に生息する動物は毛が丈夫。雄の毛が好まれるのは、その尻尾が日常的に尿にさらされていないから。
 尿は、毛幹を柔らかくし、キューティクル細胞を開かせてしまうため、毛にとって有害。

(2017/3/28)KG

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宇宙からみた生命史
 [自然科学]

宇宙からみた生命史 (ちくま新書)

小林憲正/著
出版社名:筑摩書房
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-480-06907-8
税込価格:864円
頁数・縦:229,6p・18cm


 生命について考察するなら、宇宙科学と分子生物学の進んだ現在、宇宙的規模で捉える必要がある。それが「アストロバイオロジー」である。

【目次】
第1章 われわれは宇宙の中心か―天動説から地動説へ
第2章 われわれは何者か―ガラパゴス化した地球生命
第3章 われわれはどこから来たのか1―生命誕生の謎
第4章 われわれはどこから来たのか2―生命進化の謎
第5章 太陽系に仲間はいるか―古いハビタブルゾーンを超えて
第6章 太陽系外に生命を探る―系外惑星とSETI
第7章 人類の未来、生命の未来

【著者】
小林 憲正 (コバヤシ ケンセイ)
 1954年生まれ。東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了。米国メリーランド大学化学進化研究所研究員などを経て、現在、横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門教授。

【抜書】
●シュレディンガー(p37)
 エルヴィン・シュレディンガー(1887-1961)……量子力学の創成で20世紀前半の物理学革命を推し進めた。『生命とは何か』において、生命とは「負のエントロピーを食べて生きているものである」と述べる。
 生物は、熱力学第二法則(エントロピーの増加)に背いているように見える。エントロピーを減らすために世界の一部を区切り、その中のエントロピーを減少させている。仕切りの中の余分なエントロピーを外側に捨ててやれば、第二法則は守られる。
 仕切り=細胞膜。生物は、酵素という触媒を使って、細胞膜のなかで特定の反応のみを進める仕組みを獲得した(代謝)。それによってエントロピーを減少させている。

●ハビタブルゾーン(p136)
 生命が生きていくための3つの条件……①水、②有機物、③有機物を作り出すためのエネルギー。
 これら3つが存在する惑星を含む領域を「ハビタブルゾーン」と呼ぶ。太陽系では、太陽から0.97~1.39天文単位離れた領域。含まれる惑星は地球のみ。

●拡大ハビタブルゾーン(p157)
 しかし、従来の「古典的」ハビタブルゾーンを超えて、生命が存在可能な惑星の存在が検討されている。「拡大ハビタブルゾーン」。
 エウロパ……木星の衛星。ガリレオが手製の望遠鏡で発見した「ガリレオ衛星」の一つ。氷におおわれているが、クレーターはほとんど見られず、多くの筋が見られる。氷の下の方が融けている。ひび割れ部分から内部の水がときどき噴き出して、新しい表面を作るのでクレーターが見られない。
 タイタン……土星で最大の衛星。太陽系の衛星の中で、唯一濃い大気がある。地球よりも濃い。窒素を主とし、メタンを数%含む。1950年代から始まった化学進化実験で、メタン・アンモニア・水蒸気の組み合わせの次に多く用いられたのが、メタン・窒素・水蒸気だった。
 エンケラドゥス……土星に60以上ある衛星のなかで6番目に大きい衛星。タイタンの10分の1程度。2005年、カッシーニ探査機の写真に、水蒸気や水の粒が噴出(プルーム) しているのが写っていた。メタンなどの有機物を含む。内部海が存在し、地球の海底熱水噴出に似た活動を示唆する。

●4.22光年(p169)
 太陽に最も近い恒星は、リギル・ケンタウルス。三つの恒星からなる三重連星(A、B、C)。太陽からC星までの距離は4.22光年。

●ペール・ブルー・ドット(p218)
 1977年に打ち上げられた惑星探査機ボイジャー1号は、木星、土星を探査した後の1990年、地球から60億km離れた地点から太陽系の写真を撮った。地球は、写真の右側の縦の縞の中央よりやや下に見えるかすかな点。この写真を撮ることを提案したカール・セーガンは「ペール・ブルー・ドット」と呼んだ。

(2017/3/22)KG

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ヒト 異端のサルの1億年
 [自然科学]

ヒト―異端のサルの1億年 (中公新書)

島泰三/著
出版社名:中央公論新社(中公新書 2390)
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-12-102390-2
税込価格:994円
頁数・縦:290p・18cm


 ヒトの「歴史」(人類史)を、「サル」という視点から独自の発想で解き明かす。

【目次】
第1章 起原はレムリア―マダガスカル・アンジアマンギラーナの森から
第2章 歌うオランウータン―ボルネオとスマトラの密林にて
第3章 笑うゴリラ―ヴィルンガ火山の高原より
第4章 類人猿第三世代のチンパンジーとアルディピテクス―タンガニーカ湖畔の森から
第5章 類人猿第四世代、鮮新世のアウストラロピテクス―ツァボ国立公園にて
第6章 ホモ・エレクトゥスとハンドアックスの謎―マサイマラから
第7章 格闘者ネアンデルタール
第8章 ホモ・サピエンスの起原―ナイヴァシャ湖にて
第9章 最後の漁撈採集民、日本人―宇和海の岸辺にて
終章 ほほえみの力

【著者】
島 泰三 (シマ タイゾウ)
 1946年、山口県下関市生まれ。下関西高等学校、東京大学理学部人類学科卒業。東京大学理学部大学院を経て、78年に(財)日本野生生物研究センターを設立、房総自然博物館館長、雑誌『にほんざる』編集長、天然記念物ニホンザルの生息地保護管理調査団(高宕山、臥牛山)主任調査員、国際協力事業団マダガスカル国派遣専門家(霊長類学指導)等を経て、NGO日本アイアイファンド代表。アイアイ生息地の保護につとめる。マダガスカル国第5等勲位シュバリエ。

【抜書】
●レムリア大陸(p9)
 マダガスカルとインド亜大陸(グレーター・インド)とがつながっていた古代大陸。総面積600万平方km以上、オーストラリア大陸(770万平方km)に匹敵する大きさ。
 中生代ジュラ紀の1億6000万年前にアフリカ大陸から分かれる。
 1億2000万年前に南極/オーストラリアから分かれた。白亜紀の6000万年間(恐竜時代の後期)を、他の大陸から独立して存在した。
 7000~8000万年前に、グレーター・インドとマダガスカルとが分離。
 5300万年前、グレーター・インドがアジアと接続。
 ちなみに、マダガスカルの原猿類を「レムール」という。全世界の霊長類の四分の一の5科22属99種。(p4)

●真獣類(p11)
 分子生物学者による、真獣類(有胎盤類)の系統分類。
 ① アフリカ獣類……アフリカ大陸起源
  a. アフリカ食虫類
   1. アフリカトガリネズミ目
   2. ハネジネズミ目
   3. 管歯目(ツチブタ)
  b. 近蹄類
   4. 海牛目(マナティー類)
   5. 長鼻目(ゾウ類)
   6. イワダヌキ目
 ②異節類……南米大陸起源
   7. 有毛目(ナマケモノ・アリクイ類)
   8. 被甲目(アルマジロ類)
 ③真主齧類……レムリア大陸起源
  a. 真主獣類
   9. 霊長目
   10.被翼目(ヒヨケザル類)
   11.登攀目(ツパイ類)
  b. グリレス類
   12.齧歯目(ネズミ類)
   13.ウサギ目
 ④ローラシア獣類……ユーラシア、北米大陸起源
   14.鯨偶蹄目
   15.食肉目
   16.有鱗目(センザンコウ類)
   17.奇蹄目(サイ類)
   18.翼手目(コウモリ類)
   19.真無盲腸目(モグラ類)

●類人猿2000万年(p37)
 3000万年前、ヒト上科が他の霊長類と分かれる。
 2000万年前、テナガザル(小型類人猿)が分岐。すぐ後に、オランウータンが分岐(900万~2000万年前??)。
 1000万年前、ゴリラとチンパンジーが分岐。

●ヴァレシアン・クライシス(p56)
 960万年前、ヨーロッパで哺乳類相の大絶滅と転換があった。ヒマラヤ山脈とチベット高原の隆起による全地球的な寒冷化が原因。寒冷化による草原の拡大し、亜熱帯性の常緑樹から、冬の寒冷と夏の乾燥に対応した落葉樹に交代した。
 アフリカでも、900万年前から600万年前まで、類人猿の化石の空白期がある。

●骨食(p118)
 アルディピテクスが絶滅した鮮新世の乾燥したアフリカで、類人猿第4世代のアウストラロピテクスは、果実食から骨食に大転換した。
 捕食者たちが食べ残した草食動物の骨が主食となった。石を使って骨を割り、厚いエナメル質の臼歯が、骨を糊状にすりつぶした。骨は、肉よりも果実よりも高い栄養がある。アウストラロピテクス属200万年の繁栄は、この主食によって支えられた。
 アファレンシスの身長は1~1.5m、雄の体重は平均44.6kg、最大70kg。雌の体重は29kg。性差は1.55、チンパンジー1.2より大きく、マカク属やヒヒ類の性差と等しい。雄優位で、群れのサイズは数十頭から数百頭? ヒョウや、ハイエナ、チーター、リカオンなどの最大体重が60kg程度の肉食獣には十分対抗できた。

●王獣ホモ・エレクトゥス(p142)
 ホモ・エレクトゥス類の歯のエナメル質は、それ以前の人類に比べて薄い。石器が多様に使われ、それまでの「固いが噛み潰しやすい食べ物(地下茎など)」中心の食生活から、多様な食物を変化する環境に合わせて食べるようになった。大型の哺乳類の狩猟も行った。
 ハンドアックスは、160万年前の遺跡からも出土している。日本列島でも、3万年前まで作られていた。ホモ・エルガスターからホモ・アンテセッサーに至る、アフリカ、ヨーロッパ地域の原人とともにあった石器。ティア・ドロップの形、「厚手のランセオレイト型(槍の穂先型)」と形容される。大型のものは3kgを超える。アシューリアン文化と呼ばれる。
 ハンドアックスの特徴……均整の取れた形、大型化、サバンナ地域だけの分布、使用痕の少なさ。
 ホモ・エレクトゥスは、身長1.7m、体重60kg。ハンドアックスという武器を持つことによって、ライオンにも十分に対応できた。ライオンたちが最初の食欲を満たしたときに、威嚇者として出現すれば、新鮮な骨と残り物の肉を十分に手に入れられる。
 ケニヤのホモ・エレクトゥスの化石(ER1808)には、ビタミンAの取り過ぎの証拠が残されている。肉食動物の肝臓の食べ過ぎ。他の捕食獣たちに優越する「王獣」だった。

●魚貝類食(p188)
 毛皮のない裸のホモ・サピエンスは、突然変異で体毛を失った。裸の皮膚は、水中生活に適応した証拠ではない。
 顔の皮膚が薄い、裸の赤ん坊の「ほほえみ」は、毛皮をまとっていた両親に強烈な印象を与えた?
 サピエンスの骨は、エレクトゥスやネアンデルタール人に比べて、緻密質が薄く、骨そのものが細く、華奢。時に水中に潜ったり、泳いだりする水辺での暮らしには適している。「王獣」ホモ・エレクトゥスと競合することなく、貝類や魚類、海藻や水辺の植物を食料にするようになった。
 魚介類は、脳の発達に欠くことのできない栄養である必須脂肪酸や必須ミネラルの鉄やヨード(ヨウ素)が豊富に含まれている。
 ウガンダ(「千の湖の国」を自称する)からルワンダにかけての高原の湖沼地帯は、水生生物の宝庫。

●日本人(p204)
 ミトコンドリアDNAの研究により、アフリカ人以外のすべての民族は一つの系統であることが分かった。非アフリカ系は、第一グループ(日本人とその近縁)と第二グループ(ヨーロッパ人とその近縁)に大別される。
 日本人に最も近いのは、カムチャツカ半島基部のシベリア・イヌイット、南アメリカのパラグアイのグアラニ人。それに次ぐ近縁は、シベリアのエヴァンキ人、バイカル湖周辺のブリヤート人、中央アジアのキルギス人、南米のワラオ人。やや近いのは、オーストラリア先住民、ニューギニア海岸民、インド亜大陸中央部のアジア系インド人、南中国人(現在の少数民族)。
 韓国人や中国人は、第二グループの系統。韓国人は、南太平洋のポリネシアのサモア人と近い。ポリネシア人は、マダガスカルにまで拡散。

●イヌ(p218)
 犬の起源地は、東アジア。犬が家畜化されたは、1万5000万前(もしくは1万6000万年かそれ以前)の長江の南。ミャンマーのマンダレーあたりが、ホモ・サピエンスと犬の最初の遭遇地点? ユーラシア大陸北方種のオオカミの辺縁であり、小柄な犬の棲息地だった。
 犬は、10万年前にオオカミから東南アジアの高原で分岐したと想定される。
 犬は、オオカミと異なり、デンプンの消化能力が備わっている。ヒトの食事の残りを消化できる。

(2017/3/18)KG

〈この本の詳細〉


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サイボーグ化する動物たち ペットのクローンから昆虫のドローンまで
 [自然科学]

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで
  
エミリー・アンテス/著 西田美緒子/訳
出版社名:白揚社
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-8269-0190-1
税込価格:2,700円
頁数・縦:281p・20cm
 
 
 人類のためなのか、はたまた動物自身の幸福のためなのか?
 人間が、さまざまな動物に施す改造すなわち「サイボーグ化」をレポート。新奇なペットを求めて
光る熱帯魚を作る、遺伝子操作でリゾチームが豊富な乳を出すヤギを作る、愛猫のクローンを作る、センサーを装備したアザラシに深海探査をさせる、などなど。命とは何なのか。

【目次】
第1章 水槽を彩るグローフィッシュ
第2章 命を救うヤギミルク
第3章 ペットのクローン作ります
第4章 絶滅の危機はコピーで乗り切る
第5章 情報収集は動物にまかせた
第6章 イルカを救った人工尾ビレ
第7章 ロボット革命
第8章 人と動物の未来

【著者】
アンテス,エミリー (Anthes, Emily)
 科学ジャーナリスト。「ニューヨークタイムズ」「ネイチャー」「サイエンティフィック・アメリカン」「ワイアード」「ボストン・グローブ」などの各紙誌に執筆。マサチューセッツ工科大学からサイエンス・ライティングの修士号、イェール大学から科学史・医学史の学士号を取得。ニューヨークのブルックリン在住。『サイボーグ化する動物たち』で、優れた科学書に贈られる「AAAS(アメリカ科学振興協会)/Subaruサイエンスブックス&フィルム賞」を受賞している。

西田 美緒子 (ニシダ ミオコ)
 翻訳家。津田塾大学英文科卒業。

【抜書】
●グローフィッシュ(p20)
 1999年、シンガポール国立大学の生物学者ジーユエン・ゴングが、オワンクラゲなどの一部の種が独自に進化させた緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を、ゼブラフィッシュの胚に直接注入することに成功。マイクロインジェクションという手法による。ブルーライトを当てると緑色に光る。
 イソギンチャクの仲間のGFPを導入して赤く光る系統、黄色の系統も作る。
 リチャード・クロケットとアラン・ブレイクが、ヨークタウンテクノロジーズ社を設立、テキサス州オースティンに店を出す。光る魚をグローフィッシュと名付け、養殖して販売を開始する。
 発売は、2004年1月。赤い色のグローフィッシュ。 米国食品医薬品局(FDA)や、カリフォルニア州魚類鳥獣委員会の認可が下りるのに時間がかかった。
 2006年、緑色とオレンジ色を発売。2011年、青色と紫色を追加。2012年、緑色に輝くホワイトスカートテトラを発売。

●ファーミング(p45)
 pharming……pharmacy(薬学)とfarming(農業)を組み合わせた造語。
 遺伝子操作によって、動物を人間の病気を治すための工場に変えること。
 リゾチーム……体内に侵入した細菌の細胞壁を分解し、中身を外にあふれださせる酵素。免疫系を強化し、乳児の下痢性疾患を抑える。あらゆる哺乳動物のミルクに含まれているが、ヒトの母乳では特に濃度が高く、別の動物の3000倍。
 カリフォルニア大学デービス校の動物科学者ジェイムズ・マレーとエリザベス・マーガは、遺伝子組み換えによって、リゾチームを多量に含むミルクを出すヤギの「ファーミング」に取り組む。「アルテミス」誕生。

●キメラ、ハイブリッド(p60)
 キメラ……二つの異なる種に由来する細胞を持つ動物。「青い」細胞と「赤い」細胞がパッチワークキルトのように、青1色の細胞と赤1色の細胞が混じり合って並んでいる。
 遺伝子組み換え動物……各細胞の中に異なる種の遺伝子が1個ずつ入っている。青い細胞のそれぞれに赤い点が1個ずつ入っている。
 ハイブリッド……一つの種の精子と別の種の卵子とが受精してできる雑種。すべての細胞が紫色になる。

●更新世パーク(p119)
 生物は複雑な生態系の一部を担っているので、一つの動物集団が突然消えると、生態系全体の歯車が狂う。
 絶滅した動物を生息環境に再導入することによって、景観を取り戻すことができるかもしれない。
 シベリア北部のツンドラ地帯は、雪におおわれた大地に低木とコケ以外の植生はほとんど見当たらない。12,000年ほど前まで続いた更新世には、青々とした野草が茂り、ケナガマンモス、バイソン、野生のウマが歩き回っていた。
 ロシア科学アカデミー北東科学観測所の所長セルゲイ・ジーモフの「サイエンス」誌への投稿。「冬になると動物たちが、その前の夏に生えた草を食べた。これらの動物たちは排泄物によって土壌を肥やし、植物の生産性を高める一方、コケや低木を踏みつけて、しっかり根付かせないようにしていた。もしも更新世の動物の大きな群れがここにいて景観を守っていたならば……北方の草原は今もまだ生き残っていたはずだと、私は考えている。」
 ジーモフは、更新世の代表的な草食動物(もしくは現代の同等の動物)をツンドラ地帯に連れ戻す実験を行っている。「更新世パーク」と名付けた広い保護区に、数十年かけて動植物の多様性を復元する計画。すでに、トナカイ、ヘラジカ、ジャコウウシ、バイソン、野生のウマがここを歩きまわっている。
 北米の大草原地帯に野生のウマ、ラクダ、ゾウ(マンモスの代役)、チーター(アフリカチーターがアメリカチーターの代役)などを放して「再自然化」しようという提案もある。

●チーター(p122)
 およそ1万年前に何らかの破壊的状況が起きて地球上のチーターの大半が死滅した。現在のチーターは際立って均質で、遺伝的差異がほとんどない。繁殖力が低く、精子異常の割合が高い。

●ゾウアザラシ(p148)
 ミナミゾウアザラシは、人間がなかなか近付けない、極寒の南極水域に生息。水深1600m以上まで潜水して餌をとる。
 2003~2007年、セントアンドリューズ大学(スコットランド)の海洋生物学者マイケル・フェダックらが、102頭のゾウアザラシの頭に多機能タグを貼り付けた(換毛期には毛とともにはがれおちる)。海面下に潜るたびに装置が作動し、水圧、温度、塩分濃度を一定間隔で測定する。海面に顔を出すと、タグの衛星発信器がデータを研究室に送り返す。
 生物学者の「タグ装着プロジェクト」に、海洋学者たちも興味津津。アザラシの集めたデータが、海面から海底まで、垂直部分全体の詳細な分析結果を組み立てる。南極海底で未発見だったトラフの存在が明らかになる。

●ニューティクル(p170)
 避妊手術で睾丸を摘出した雄犬のための人工睾丸。1995年に登場。犬の精神的苦痛を和らげる?
 愛犬家グレッグ・ミラーが考案。しかし、愛犬バッグには間に合わなかった。肝臓がんで死亡。

●犬の遺伝病(p216)
 犬は、純血種を作るために近親交配を続けたため、遺伝病や奇形が目立つ。
 人気の高い犬種50種の調査では、396の遺伝病が見つかる。
 ダルメシアン……聴覚障害が多い。
 ドーベルマン……発作性睡眠障害(ナルコレプシー)にかかる傾向が強い。
 ラブラドル・レトリバー……股関節の形成不全。

(2017/3/12)KG

〈この本の詳細〉


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