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12歳の少年が書いた量子力学の教科書
 [自然科学]

12歳の少年が書いた 量子力学の教科書  
近藤龍一/著
出版社名:ベレ出版
出版年月:2017年7月
ISBNコード:978-4-86064-513-7
税込価格:1,728円
頁数・縦:319p・21cm
 
 
 恐るべき少年がいたものだ。幼年時代から大量に本を読み漁り、9歳で量子力学を志す。そして、中学受験の2日後(つまり12歳の時)に本書の執筆を開始した……。
 まったく、子どもの脳は恐ろしい。平凡な大人には想像もつかない能力を発揮する。たとえば、石井勲という人は、小学校の教員だったのだが、授業で1年生に700語の漢字を覚えさせることに成功したとか。教育漢字1,006字の7割に当たる。ことほど左様に子どもの能力(脳力?)は底知れないものがあり、本書の著者もその秀逸な見本である。本人が意欲をもち、楽しみながら取り組むことで、子どもは大人顔負けの力を発揮するのである。平凡な大人である私には、量子力学の「中間書」である本書の内容は全く理解できなかった……。
 中間書。そう、著者は本書のことをそう表現する。「入門書で大筋をつかんだ上で、専門書に移行するための足掛かり」となるのが“中間書”とのことである(p.3)。
 理論物理学の本は、入門書と専門書との差が激しい、それを埋めるための「中間書」が必要であるとの認識が執筆の動機である。この発想こそが、12歳の少年として恐ろしいと思うのだ。「専門書より中間書の方が『創意を要する』にも関わらず『ほとんど評価されない』」ので、専門家は書かない。だから自分が書く、という決意は並大抵のことではない。しかも、楽しみながら書かれた様子がうかがわれ、そこに「創意」の発露が見える。
 
【目次】
第0章 量子力学とは何か―最も基本的な事柄
第1章 万物の根源―量子力学の誕生
第2章 前期量子論―古典力学の破綻
第3章 数学的定式化―量子論から量子力学へ
第4章 内在的矛盾と解釈問題―量子力学は正しいか?
第5章 量子力学の先へ―範囲拡大
第6章 近未来的応用への道―量子力学の利用
 
【著者】
近藤 龍一 (コンドウ リュウイチ)
 2001年生まれ。12歳のとき、『12歳の少年が書いた量子力学の教科書』の執筆を開始し、完成させる。その後は場の量子論の研究を始める。現在、都内の中高一貫校に通う高校1年生。
 
(2017/11/22)KG
 
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生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像
 [自然科学]

生物はウイルスが進化させた 巨大ウイルスが語る新たな生命像 (ブルーバックス) [ 武村 政春 ]
 
武村政春/著
出版社名:講談社(ブルーバックス B-2010)
出版年月:2017年4月
ISBNコード:978-4-06-502010-4
税込価格:1,058円
頁数・縦:254p・18cm
 
  
 光学顕微鏡によって「見る」ことのできる、ミミウイルスなどの巨大ウイルスが発見されて20年。
 その巨大ウイルスの特徴や、真核生物との関りなどを分かりやすく解説する。
 
【目次】
第1章 巨大ウイルスのファミリーヒストリー―彼らはどこから来たのか
 見えていなかったもの
 ミミウイルス
 壷型巨大ウイルスの衝撃
 「出身地」明記された巨大ウイルス
 巨大さと、その謎
第2章 巨大ウイルスが作る「根城」―彼らは細胞の中で何をしているのか
 ウイルスは何をしている?
 ウイルス工場の多彩な姿
 ミミウイルスが作り出す「宝石」
第3章 不完全なウイルスたち―生物から遠ざかるのか、近づくのか
 「区画」とリボソーム
 リボソームRNAと翻訳システム
 「不完全」なウイルスたち
 「共通祖先」を追え!
 リボソームは水平移動の夢を見るか
第4章 ゆらぐ生命観―ウイルスが私たちを生み出し、進化させてきた!?
 細胞核はウイルスが作った!?
 「区画化」する意味
 ウイルスとは何か
 ウイルスの本体とは!?そして生命とは?
 
【著者】
武村 政春 (タケムラ マサハル)
 1969年、三重県津市生まれ。1998年、名古屋大学大学院医学研究科修了。医学博士。名古屋大学助手等を経て、東京理科大学理学部第一部教授。専門は、巨大ウイルス学、生物教育学、分子生物学、細胞進化学。
 
【抜書】
●CEOs(p218)
 CEOs……カプシドをエンコードする生物。カプシドを使って、宿主に感染し、たんぱく質を作らせる。パトリック・フォルテールによる、ウイルスの新たな定義。
 REOs……リボソームをエンコードする生物。従来の生物。リボソームを使ってたんぱく質を作る。
 
●ヴァイロセル(p221)
 ヴァイロセル(virocell)……ウイルス粒子に感染した細胞。パトリック・フォルテールが提唱した概念。
 ライボセル(ribocell)……ウイルス粒子に感染していない「普通の」細胞。リボソームをフル活用して自分自身のたんぱく質を作り出している。
 
(2017/9/16)KG
 
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心を操る寄生生物 感情から文化・社会まで
 [自然科学]

心を操る寄生生物 :  感情から文化・社会まで
キャスリン・マコーリフ/著 西田美緒子/訳
出版社名:インターシフト
出版年月:2017年4月
ISBNコード:978-4-7726-9555-8
税込価格:2,484円
頁数・縦:323p・20cm


 近年、研究が進む寄生生物。単に宿主から栄養を窃取するだけではなく、宿主の脳神経に影響を及ぼして行動を操る姿を紹介する。
 人間の文化の発展も、寄生生物と無縁ではなかった?

【目次】
第1章 寄生生物が注目されるまで
第2章 宿主の習慣や外見を変える
第3章 ゾンビ化して協力させる
第4章 ネコとの危険な情事
第5章 人の心や認知能力を操る
第6章 腸内細菌と脳のつながり
第7章 空腹感と体重をコントロールする
第8章 治癒をもたらす本能
第9章 嫌悪と進化
第10章 偏見と行動免疫システム
第11章 道徳や宗教・政治への影響
第12章 文化・社会の違いを生み出す

【著者】
マコーリフ,キャスリン (McAuliffe, Kathleen)
 サイエンスライター。『ディスカバー』誌の寄稿編集者。多くのメディアに科学記事を執筆し、数々の賞を受賞。年間の最も優れた科学記事を掲載するアンソロジー『ベスト・アメリカン・サイエンス・ライティング』にも選ばれている。

西田 美緒子 (ニシダ ミオコ)
 翻訳家。

【抜書】
●神経寄生生物学(p11)
 神経寄生生物学(neuroparasitology)。寄生生物が宿主に与える影響を研究する。神経科学者、寄生生物学者が中心だが、心理学、免疫学、人類学、宗教研究、政治学といった多彩な分野からの研修参入が増えている。

●ハリガネムシ(p40)
 ハリガネムシは、主にコオロギに(そして、バッタやカミキリムシにも) 寄生。コオロギの体内で成虫になる。内臓を食い尽くしたところで、 コオロギの視覚を操作し、光を好むように仕向け、夜中、水に飛び込ませる。
 ハリガネムシはコオロギの体から抜け出し、水中で交尾。メスが卵を産み、孵化して幼虫になる。幼虫は、蚊の幼虫に遭遇し、微小なシスト(嚢子)となってその体内に隠れる。
 蚊が成虫になって陸上に上がり、コオロギに食べられる。すると、休眠中だったシストがコオロギの体内で活動を開始し、最終的には伸ばせばコオロギの3~4倍(7~8cm)の長さを持った成虫に成長する。

●トキソカラ(p123)
 イヌ回虫、ネコ回虫の二つの種がある。体長15cmほどになる。ネコ回虫は、まだあまり解明されていない。
 イヌ回虫の幼虫は、動きが速く、体内のさまざまな器官に侵入する。メスが妊娠すると、胎盤を横切ったり母乳に潜り込んだりして子どもに感染する。腸に進んだ回虫はそこで成虫に育ち、卵を産み、糞となって体外に放出される。
 ヒトに感染したトキソカラは、幼虫のままで、成虫になることはない。しかし、腸から肝臓、肺、目、脳などに侵入する。感染しても、失明や発作などの神経症状が起きることは稀である。
 しかし、最近の研究で、トキソカラは、認知障害を引き起こす可能性が指摘されている。学業成績、多動性、散漫性、など。

●プロバイオティクス(p139)
 ヨーグルトなどに含まれている有用菌。

●動物たちの害虫駆除(p168)
 ネズミの仲間……目が覚めている時間の三分の一を毛づくろいに費やす。毛づくろいを禁じられたマウスには、60倍ものシラミがたかる。
 アオサギ……足元を飛び回る蚊を、1時間に3,000回もつついている。80%、蚊の被害を減らすことができる。
 アジアゾウ……木の枝を折り、余分な葉を取り除いて鞭の形にし、ハエたたきとして使う。
 ガゼル、インパラ……自分の歯を櫛のように使って毛からダニをこすり落とす。1日に2,000回。ダニの数は二十分の一に減る。
 「プログラムされた毛づくろい」。ガゼルとインパラは、1時間に何回か、体にダニがいなくても毛づくろいをする。ダニは、動物が触ろうと思っても触れない頭や尻に移動するために、同じ場所を通るので、規則正しくダニの通り道をこすってきれいにする。
 害虫を駆除しないと……。アブは、馬の血を1日に約500ccも吸い取ることができる。ガゼルやインパラは、血をいっぱい吸って膨らんだダニがたった5、6匹とりついただけで逃げ足が鈍り、捕食者の餌食になる。ウシバエは、ウシの1年あたりの体重増加を20~70kgも減らす可能性がある。

●予防接種、2%のリスク(p175)
 1匹のアリが命にかかわる菌類に感染すると、コロニーの仲間が駆けつけてその体を舐め、ごく少量の病原体を取り込む。自然の予防接種。菌のため、それらのアリの2%は死んでしまうが、他は、免疫力を高めることができる。
 アフリカ北部の人々は、天然痘にかかった人のかさぶたをとって、健康な人の皮膚につけた小さな傷に刷り込む。それが原因で2%は命を失ったが、天然痘による死亡率を25%引き下げた。

●睡眠(p186)
 新しい理論によると、睡眠は、普段目を覚まして活動を維持するために使っている資源を、免疫系に切り替えるために進化したとされる。
 免疫細胞は猛烈な速度で栄養分を費やす。顆粒球は細胞を2、3日ごとに入れ替える。
 哺乳動物26の種で睡眠習慣を調査。1日の睡眠時間は、ヒツジ3.8時間~ハリネズミ17.6時間。睡眠時間が長い種ほど免疫機能も高く、血液中を循環している免疫細胞の数が多い。寄生生物の感染も少なかった。

●行動免疫システム(p224)
 自分が感染の危険にさらされていることに気づくと、自然に心に沸き上がり、なるべく病原体に触れないような方法で行動に駆り立てる思考と感情。感染から身を守るための嫌悪に基づいた幅広い反応も含まれる。また、人間だけでなく、動物の行動も含まれる。

●権威主義(p246)
 嫌悪は、見知らぬものと接触して寄生生物に感染することに対する恐怖の反応。
 すぐに嫌悪を感じてしまう性質を持つ人は、保守的な政治的見解を抱きやすく、犯罪に対して厳格で、権威主義的傾向を持っている。

●前島(p251)
 本能的な嫌悪(あふれたトイレを見た時、ゴキブリを食べることを想像した時、など)で現れる嘔吐反応は、脳の古い部分である前島が関連している。
 前島は、道徳的な嫌悪感(他者の残酷な扱いや不当な扱いを見て激怒する、など)によっても発火する。
 ただし、脳内で完全に重なり合っているわけではないが、かなりの程度まで同じ回路を使う。特に、最も重なり合っているのは偏桃体。
 そのため、本能的な嫌悪が道徳的な判断をゆがめてしまうことがある。
 一方で、寄生生物にさらされる危険を回避するために進化した神経回路が、健康を危険にさらす行動をとる人物を避けるようになった。

●道徳(p254)
 本能的な嫌悪と共通の神経回路を使うことによって、ヒトは、道徳的に反した行動をとる者を嫌悪するようになった。
 この発達のおかげで、ヒトは驚くほど社会的で協力的な種になり、一致団結して問題を解決し、新たな発明をし、前代未聞の効率で天然資源を利用し、やがて文明の基礎を築くことができた。

●農耕と宗教(p258)
 農耕が成功を収めるにつれて健康問題は悪化した。
 穀物貯蔵庫は病気を広める昆虫と害獣を引き寄せた。集落には人間の排泄物が大量にたまり、飲料水が糞便によって汚染された。家畜化した動物が新しい病原体をもたらした。
 初期の農民たちは、次々と病気の犠牲になっていったと考えられる。
 ヒトが危機的な岐路に立った時、宗教を信じる存在へと変化した。原初の宗教(例えばユダヤ教)には、生活の規範となる律法に健康を保つための生活習慣が多く含まれる。

●ヒトゲノム(p262)
 ヒトゲノムの適応変異は、農耕開始以降、それまでの100倍近い速さで累積してきている。特に免疫系と脳の機能を調整している部分。
 農耕開始期、人口の大部分が疫病と害虫によって死滅したことが原因と考えられる。
 〔自然選択は神を信じた者、あるいは少なくとも健康を守るために役立つ宗教の教義に従う誠実な者に強く味方してきたはずだ。最も重要な点は、自然選択が罰を重んじる人の生き残りを助けてきたことで、社会の規則を破る者を誰であれ頑固に罰する傾向をもつ人たちが生き延びる傾向があった。そして農業が工業に道を譲って農場から工場への人々の大移動が起き、無秩序に広がる雑多なスラムにこれまでになく大勢の人々が集まって、その圧力は強まる一方だった。〕

(2017/8/22)KG

〈この本の詳細〉
honto: https://honto.jp/netstore/pd-book_28371824.html
e-hon: http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033593852

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遺伝子の社会
 [自然科学]

遺伝子の社会  
イタイ・ヤナイ/著 マルティン・レルヒャー/著 野中香方子/訳
出版社名:NTT出版
出版年月:2016年10月
ISBNコード:978-4-7571-6069-9
税込価格:3,024円
頁数・縦:285p・20cm
 
 
 生き残りをかけて闘いを繰り広げる「遺伝子の社会」を描く。生物の進化を、遺伝子をキーとしてわかりやすく解説してくれる。
 
【目次】
第1章 八つの簡単なステップを経て進化するがん
第2章 敵はあなたをどう見ているか
第3章 セックスの目的は何か?
第4章 クリントン・パラドックス
第5章 複雑な社会に暮らす放埒な遺伝子たち
第6章 チューマン・ショー
第7章 要は、どう使うかだ。
第8章 窃盗、模倣、イノベーションの根
第9章 物陰の知られざる生命
第10章 フリーローダーとの勝ち目のない戦い
 
【著者】
ヤナイ,イタイ (Yanai, Itai)
 ニューヨーク大学医学部教授(生化学・分子薬理学)・計算医学研究所所長。ハーバード大学、ワイツマン科学研究所(イスラエル)、イスラエル工科大学(テクニオン)准教授(生物学)・テクニオンゲノムセンター所長を経て現職。
 
レルヒャー,マルティン (Lercher, Martin)
 デュッセルドルフのハインリッヒ・ハイネ大学教授(生物情報学)。ケンブリッジ大学でPhD(理論物理学)取得後、バース大学(イギリス)とハイデルベルクのヨーロッパ生物学研究センターでゲノムを研究。
 
野中 香方子 (ノナカ キョウコ)
 翻訳家。お茶の水女子大学卒業。
 
【抜書】
●テロメラーゼ(p25)
 テロメアの再生を専門とする酵素。複数のたんぱく質(サブユニット)で構成され、異なる染色体上の遺伝子座にコードされている。TERT遺伝子が、テロメラーゼの作成にかかわる。
 テロメラーゼが存在する理由……卵子や精子を作る過程で、次世代が完全なテロメアを備えるために必要になる。このような、「不死」細胞という選ばれたグループのみで使われ、一般の細胞では働かないようになっている。
 テロメア……染色体の両端についている。細胞分裂の回数をおおまかに記録する「カウンター」。決まった文字列(哺乳類ではTTAGGG)が数千回も繰り返される。染色体が複製されると、テロメアの端が切り離され、短くなる。
 
●癌のホールマーク(p29)
 癌の発生には、以下の八つのホールマーク(証明)すべてを経なければならい。
 (1)増殖シグナルを自給する。
 (2)増殖抑制シグナルを無視する。
 (3)不死になる。
 (4)細胞の自殺を避ける。
 (5)免疫システムによる破壊を避ける。
 (6)貪欲にエネルギーを消費する。
 (7)新しい血管を引き寄せる。
 (8)遠くの部位をに侵入する。
 
●自然選択が働く条件(p36)
 (1)個体差があり、(2)遺伝性で、(3)適応度に影響するときに、自然選択が働く。ダーウィンによる。
 
●ハダカデバネズミ(p41)
 東アフリカに棲む。寿命が30年。一般にネズミの寿命は2~3年。
 ハダカデバネズミは癌にかからない? 八つの防御プログラムの一つを強化したか、九つ目の防御メカニズムを備えている。この仕組みが分かれば、癌の新薬開発に貢献する可能性あり。
 
●アレル(p44)
 アレル=対立遺伝子。たとえば、ヒトの半分は、ある遺伝子の4番目にCがあり、残り半分はGがあるといった具合。
 
●トゲネズミ(p82)
 日本のオキナワトゲネズミには、Y染色体がない。X染色体が一つしかないのが、オスのしるし。
 
●精子の生成(p91)
 精子の生成は思春期に始まり、男性が死ぬまで続く。しかし、細胞分裂のたびにより多くの変異が蓄積されていく。そのため、多くの遺伝的疾患は、父親の年齢とともに増えていく。
 マルファン症候群は、父親の精巣で発生した変異が原因となる場合が多い。50歳以上の父親は、20歳代前半の父親より、10倍可能性が高い。
 マルファン症候群……異常に背が高く、指が細長く、しばしば、肺、目、主幹動脈の病気を抱えている。結合組織を組み立てるのに必要なたんぱく質の形成を担っているフィブリリン1遺伝子の欠損が原因。
 
●アフリカ(p123)
 アフリカの外より中のほうが遺伝的多様性が豊か。
 非アフリカ人よりアフリカ人のほうが変異の種類が多いので、どんなことでも、最高に優れた遺伝的要因を持つ人は、アフリカ大陸のどこかに住んでいる可能性が高い。
 〔いつの日か、アフリカのどこかで子どもたちがチェスをするようになり、数世代経てば、チェスの国際大会でアフリカ人が優勝する、というのも、まったくの絵空事ではない。〕
 
●エピスタシス(p136)
 アレル間の相互作用。
 たとえばパーキンソン病は、原因はエピスタシス、すなわち三つのアレルの相互作用がうまくいかないことに起因する。
 
●セントロメア(p150)
 ヒトの染色体は23対、チンパンジーの染色体は24対。ヒトの第二染色体は、チンパンジーの二つの短い染色体がくっついたもの。
 セントロメア……すべての染色体にある、特別な領域。細胞が分裂するとき、分子の「ロープ」がこの領域に付着し、対になっている染色体を引き離す。
 ヒトの第二染色体には、現在のセントロメアの他に古いセントロメアの名残がある。祖先の二つの染色体が融合した時の名残。
 
●チンパンジー(p159)
 チンパンジーとヒトのX染色体の違いは、他の染色体の違いより約20%も少ない。ヒトとゴリラのゲノムでは、変異はすべての染色体に均等に散らばっている。
 初期のチンパンジーと初期のヒトが分岐し、それぞれのゲノムがかなり変異を蓄積した後、再び交配した。その際、チンパンジーの雌とヒトの雄との交配に偏っていた。
 混血の子ども(娘XXと息子XY)のX染色体の三分の二は、チンパンジー由来となる。
 
●ネアンデルタール人(p162)
 アフリカ人のゲノムは、非アフリカ系に比べて、ネアンデルタール人との違いが少し多い。30万年以上前に分岐した現生人類(初期のヨーロッパ人)とネアンデルタール人が、のちにアフリカの外で再び性的な交渉を持った証拠。
 
●デニソワ人(p164)
 アジア北部に暮らしていた人類。ネアンデルタール人の遠い親戚。
 東南アジアに到達した現生人類と性交した。現代の東南アジア人のゲノムにその痕跡が残されている。
 
●HLA遺伝子(p168)
 現生人類より20万年も前からヨーロッパで暮らしていたネアンデルタール人は、この地域の気候と病原体に適応していた。交配によって、その遺伝子が現生人類に受け継がれ、自然選択で普及した。
 ヒト白血球型抗原HLA-AとHLA-Cは、細胞内部から細胞の表面へたんぱく質断片を運ぶ役割を担うたんぱく質をコードする遺伝子。免疫系の機能にとって重要な遺伝子。どの病原体が認識できるかに影響する。
 現代アジア人のHLA遺伝子は、デニソワ人のゲノムに見られるものによく似ている。全体的にみて、現代アジア人の70~80%は、ネアンデルタール人とデニソワ人のいずれかに由来するHLA-Aアレルをそのゲノムに含んでいる。
 現代ヨーロッパ人では、ネアンデルタール人のアレルを持つ可能性はおよそ50%。
 アフリカ人は、これら古代型のHLA-Aタイプの一つを持つ可能性は6%。おそらく、その人の祖先がユーラシアからアフリカに戻った結果。
 
●選択浄化(p174)
 重要な変異の周辺では多様性が失われること。
 通常、二つのヒトゲノムを比べると、1,000文字に一つ違いがある(欠損や挿入を除く)。
 FOXP2遺伝子は、発話にとって重要な遺伝子。FOXP2周辺の領域は、みんな似ている。その違いは、通常の0.5%以下。言語が、ある家族が繁栄するうえでいかに重要だったかということの表れ。
 
●GADD45G(p177)
 GADD45Gは、マネージャー・タイプの遺伝子で、どの細胞の成長を止めるかというタスクを管理する。腫瘍抑制遺伝子とも呼ばれる。
 チンパンジーとヒトのゲノムの違いの一つは、GADD45G遺伝子のスイッチを含む領域にある。ヒトでは、3,200文字からなるかなり長い配列が欠けている。この欠損により、胚成長のある段階で、脳領域の成長を止める能力を失った。つまり、ヒトが大きな脳を持つことになった。
 
●HOX遺伝子(p190)
 胎生のある時期、動物は非常によく似ている。
 ほとんどの動物が、非常によく似た文字配列のホメオティック遺伝子群=HOX遺伝子群(形質転換遺伝子)を持っている。ハエ、センチュウ、マウス、……etc。例外は、クシクラゲ類など。
 HOX遺伝子は、交換可能。ハエのHOX遺伝子をセンチュウやマウスに導入しても胎の正常な成長を導くことができる。
 
●クリスタリン(p199)
 水晶体は、クリスタリンと呼ばれる透明なたんぱく質によって形成されれる。
 クリスタリン遺伝子は、代謝にかかわる遺伝子が重複し、進化したもの。クリスタリンの元々の仕事は、アルコールの分解だった。
 
●真正細菌、古細菌(p228)
 およそ20億年前、古細菌が小さな真正細菌(ミトコンドリアの祖先)を飲み込み、それをエネルギー源にした。そして、真核生物が誕生した。
 細胞内にミトコンドリアを取り込んだ結果、核ができた。核の壁は、家主のゲノムを取り囲み、死んだ間借り人(ミトコンドリア)のDNAの絶え間ない流入から自らのゲノムを守っている。
 
●LINE1(p237)
 60億文字からなるヒトのゲノムでは、管理に必要なスイッチも含め、実際に機能しているDNAは全体の三分の一に満たない。2万個のたんぱく質コード遺伝子や、健康に貢献すると思われる他のゲノム領域など。残りの40憶文字は、人の生存に何の貢献もしていない。
 LINE1(Long Interspersed Elements type 1) ……ゲノムのフリーローダー。ゲノムのうち15%以上は、ある特定の配列となっており、それがLINE1。50万コピー以上存在する。ニューヨーク公立図書館の蔵書1,200万冊のうち、180万冊がまったく同じ本(!?)。
 50万コピーは、完全に一致するわけではなく、多少の変異もある。数百年前に1匹の霊長類の遺伝子に入り込んだ配列にさかのぼる。
 完全なLINE1は、6,000文字の長さがある。マネージャー、コンバーター(RNAからDNAへの変換)、プレーカー(DNAの切断)の機能を持つ領域で成り立っている。ゲノムの他の部分に、自らのコピーをペーストしている。 ⇒ セルフ・コピー&ペースター
 
●Alu(p243)
 Aluファミリーは、ヒトのゲノムのなかに100万コピー存在し、10%を占めている。100~400文字の短いフリーローダー。LINE1と異なり、コンバーターとブレーカーを持たない。LINE1が切断したDNAの切り口に入り込む。
 
(2017/7/28)KG
 
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なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学
 [自然科学]

なぜペニスはそんな形なのか ヒトについての不謹慎で真面目な科学
 
ジェシー・ベリング/著 鈴木光太郎/訳
出版社名:化学同人
出版年月:2017年3月
ISBNコード:978-4-7598-1926-7
税込価格:2,700円
頁数・縦:317, 13p・20cm
 
 
 ゲイの進化心理学者による、性、宗教、自殺など、タブーと見られがちな分野に関する「進化論的」エッセー。学術論文を多く引用し、テーマはきわどいが、内容は極めて科学的である。
 
【目次】
1 どうしてぶら下がっているの?その理由
2 自己フェラチオの道(近づきはしたけど、まだまだ)
3 なぜペニスはそんな形なのか?突起の謎
4 早漏のなにが「早過ぎ」?
5 ヒトの精液の進化の秘密
6 あそこの毛―ヒトの陰毛とゴリラの体毛
7 カニバリズムの自然史
8 なぜにきびができるのか?―裸のサルとにきび
9 脳損傷があなたを極端なほど好色にする
10 脳のなかの性器
11 好色なゾンビ―夜間の性器と夢遊
12 マスターベーションと想像力
13 小児性愛と思春期性愛
14 動物性愛
15 無性愛者の謎
16 足フェチ―ポドフィリア入門
17 ゴム偏愛者の物語
18 女性の射出
19 「ファグ・ハグ」―男が好きな男を好きな女
20 女性のオルガスムの謎
21 意地悪の進化―なぜ女の子どうしは残酷なのか?
22 ゲイに道は聞くな
23 抑圧された欲望としてのホモ恐怖
24 失恋、性的嫉妬とゲイ
25 トップかボトムか、それとも
26 プレ同性愛者―性的指向を予言する
27 (日曜だけは)敬虔な信者
28 埋めよ、増えよ―信者の産む子どもの数
29 亡き母の木
30 自殺は適応的か?
31 自殺者の心のなか
32 ヒトラー問題で考える自由意志
33 笑うネズミ
 
【著者】
ベリング,ジェシー (Bering, Jesse)
 PH.D.。1975年アメリカ生まれ。実験心理学者・コラムニストで、『サイエンティフィック・アメリカン』や『スレート』の常連寄稿者。フロリダ・アトランティック大学大学院修了後、アーカンソー大学准教授、ベルファストのクイーンズ大学認知文化研究所のディレクターを経て、現在、ニュージーランドのオタゴ大学サイエンス・コミュニケーション・センターで准教授を務める。
 
鈴木 光太郎 (スズキ コウタロウ)
 新潟大学人文学部教授。専門は実験心理学。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。
 
【抜書】
●遅漏ー高攻撃性仮説(p37)
 社会学者ローレンス・ホン「早漏者生存――早漏の起源について」(1984年)という論文で展開。
 霊長類では、セックスが短時間で終わる種ほど、配偶に関係した行動では攻撃性が低い。
 より早く射精する男性のほうが、危害が加えられるのを避け、より長生きし、その結果高い地位を占め、最も望ましい雌たちを獲得する機会が多くなる。男性の膣内射精の潜時は遺伝する。
 
●精漿の成分(p45)
 ヒトの精液中、精子の割合は1~5%。残りの液を精漿という。
 精漿の成分は、ホルモン、神経伝達物質、エンドルフィン、免疫抑制物質などを含む。
 コルチゾール……愛情を高める作用がある。
 エストロン……気分を高める。
 オキシトシン……気分を高める。
 プロラクチン……自然の抗鬱薬。
 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン……抗鬱薬。
 セロトニン……抗鬱作用のある神経伝達物質。
 メラトニン……催眠物質。
 卵巣刺激ホルモン(FSH)……女性ホルモンの一種。卵巣内の卵胞の成熟を引き起こす。
 黄体形成ホルモン(LH)……女性ホルモンの一種。排卵を誘導し、その卵を排出する。
 
●ケジラミ(p58)
 ヒトの陰毛のケジラミは、ゴリラのケジラミと近縁関係にある。330万年前に分岐。ゴリラの粗い体毛に適応していたので、ヒトの陰毛にちょうど良い居場所を見つけた。
 太古のヒトが、ゴリラを殺して食べていた。ゴリラの死体との接触が、ケジラミの感染をもたらした。
 
●腋臭(p191)
 ゲイは異性愛者とは異なる腋臭を発し、ほかの人間はその匂いを感じ取れる。
 
●日曜効果(p228)
 ハーバード・ビジネス・スクールのディーパク・マルホトラの研究。
 宗教的な人々はチャリティの求めに非宗教的な人々よりもより強く反応するが、それは教会に行ってきた日に限られる。
 
●シェイカー教(p234)
 ドイツの社会学者ミヒャエル・ブルーメの研究。
 シェイカー教徒は、集団内での結婚を妨げたり禁じたりし、代わりに布教活動、外部者の転向や改宗に重点を置いた。「若者のいなくなり始めた共同体は、ほかの若者たちには共同体のミッションが魅力に欠けたものに見えるようになる。こうしてシェイカー教徒の集団は高齢化し、崩壊した」。
 
●オナイダ共同体(p234)
 ニューヨーク州北部のキリスト教コミューン。
 数世代にわたり、オナイダ共同体の医者は、遺伝的健康の観点から注意深く選ばれた男女を結婚させた。生まれた子供は共同体で育てられ、母子のきずなは弱められた。
 人為淘汰によらない子供が生まれるのを避けるため、10代の少年を閉経後の女性とセックスさせた。両者の個人的関係を築く中で、敬虔な年長の女性が若者に重要な宗教的教育を施した。
 大人の男性は、性交中に射精しないようにするテクニックを訓練した。
 30年後にメンバーは数百人に達したが、1881年にこの宗教共同体は崩壊した。
 〔このメンバーはおそらく遺伝的資質に恵まれていたが、その社会的地位は高くなかった。その後、彼らは銀製食器の交易に携わるようになり、いまは企業オナイダとして大成功している。〕
 
●緑の埋葬(p242)
 遺体は防腐剤で処理されることなく、自然保護区に埋められる。
 通常の埋葬方法は、自然破壊を引き起こしている。墓地を作るための広大な土地、防腐保存液、棺用の木材、金属などなど。火葬も同様。一人分の火葬に必要なエネルギーで、7,700kmをドライブできる。
 
●自殺の数式(p251)
 デニス・デカタンザロが1986年に提案した「自己保存と自己破壊の数学モデル」。
 翻訳すると……〔ヒトは自分の直接の繁殖的見込みが低くなった時に、そして同時に、自分が存在し続けることが自分の遺伝的血縁者の繁殖の妨げになって包括適応度を下げると(正しいかどうかはともかく)感じた時に、自殺する可能性がもっとも高い。重要なのは、デカタンザロが、そして彼とは別個に調査を行っている研究者も、この適応モデルを支持するデータを得てきているという点である。〕
 
(2017/7/24)KG
 
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クモの糸でバイオリン
 [自然科学]

クモの糸でバイオリン (岩波科学ライブラリー)  
大崎茂芳/著
出版社名:岩波書店(岩波科学ライブラリー 254)
出版年月:2016年10月
ISBNコード:978-4-00-029654-0
税込価格:1,296円
頁数・縦:114、2p・19cm
 
 
 趣味で(?)クモの糸の研究を始め、バイオリンの弦を作ってしまった研究者のエッセー。この人、なかなかの凝り性で、自分でバイオリンを買って演奏するまでになった。クモは、主にジョロウグモまたはオオジョロウグモの糸を使っているようだ。
 
【目次】
1 クモのことをもっと知りたい
 クモとの出会い
 クモの巣のいろいろ
  ほか
2 クモが繰り出す魔法の糸
 柔らかくて強い
 クモの糸の不思議な構造
  ほか
3 バイオリンに挑戦!賛
 音楽に参戦
 バイオリンを購入
  ほか
4 魔法の糸の音色の秘密
 「よい音」とはなにか
 バイオリンでの音色解析
  ほか
5 音色が世界を駆けめぐる
 学会発表とその反響
 取材対応でヒヤリ
  ほか
 
【著者】
大崎 茂芳 (オオサキ シゲヨシ)
 1946年兵庫県生まれ。大阪大学理学部卒業、大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。(株)マイカル商品研究所所長、島根大学教育学部教授、奈良県立医科大学医学部教授を経て、同大学名誉教授。理学博士、農学博士。専門は、生体高分子学。文部科学大臣表彰科学技術賞、日本オーディオ協会顕彰「音の匠」など受賞。
 
【抜書】
●7種類の糸(p7)
 典型的な円網を張るクモは、7種類の腺から別々の糸を出して使い分けている。粘着性の糸は横糸だけ。
 (1)枠糸……巣のフレームとなる。
 (2)繋留糸……巣を木などに固定する。
 (3)縦糸……巣の骨格となる。
 (4)横糸……縦糸のあいだに渡す。粘着性がある。
 (5)こしき……円網の中心にある、クモの生活場所。
 (6)附着盤……牽引糸の尖端を物体に固定するのに使う。
 (7)牽引糸……危険が生じて逃げるときに使う、命綱。
 他に、獲物を取るための捕獲帯や、卵を保護する卵のうもある。
 
●破断応力、弾性率(p23)
 破断応力……糸を引っ張っていき、切れた時の断面積あたりの力の強さ。牽引糸は、ナイロンよりも数倍大きい。
 弾性力……物体を伸ばしたり、圧縮したりする時の変形しにくさを表す指標。ナイロンでは4GPa(ギガパスカル)だが、牽引糸は13GPa。
 つまり、クモの糸は柔らかくて強い。
 
●「2」の安全則(p27)
 牽引糸は、円柱状の細い2本のフィラメントからなっている。
 牽引糸の弾性限界強度は、体重の約2倍。つまり、1本が切れても残りの1本で支えることができる。
 
●250℃(p29)
 牽引糸は250℃以上で分解し始め、300℃で重量が減り、350℃で変色、600℃で完全に分解。
 クモの糸に融点はないが、250℃までは安定な状態。
 合成高分子のポリエチレンの融点は約120℃。
 
●紫外線(p31)
 紫外線のうち、波長の長いUV-Aは、地球の表面に届く紫外線の大部分を占める。波長がもう少し短く、危険なUV-Bは、オゾンホールができると届くようになる。UV-Cは地表には届かない。
 UV-Aを昼行性のジョロウグモの牽引糸に当てると、破断応力は、照射時間が経過するとともに上昇、5時間後に極大、その後、徐々に低下、48時間程度で初期値まで下がる。
 ジョロウグモの糸は、毎晩、半分ずつ張り替えられる。いったん張った糸は、2日後には新しい糸になる。
 夜行性のズグロオニグモの場合、糸の破断応力は照射時間とともに低下するのみ。
 
●バイオリン弦(p66)
 牽引糸によるバイオリン弦の作り方。A線(2番目に高音)の場合。
 (1)多数のオオジョロウグモから巻き取った約100cmの糸3,000本の両端を粘着テープで留め、糸束の状態にして6か月保存。80cmくらいに縮む。
 (2)これを左巻きにねじると73cmの紐ができる。
 (3)同じ紐を3本作り、一緒に右巻きにねじり、65cmの太い紐にする。両端に結びを作り、55cmになる。
 (4)表面を均一にするためにゼラチンに5分間つけ(スキップすることもある )、一晩乾かす。最終的にできた弦の太さは850μm。
 E線は2,000×3本、D線は4,000×3本、G線は5,000×3本。
 
●倍音(p77)
 クモの糸の弦は、スチール弦、ガット弦に比べて、強度の大きい倍音が多数出る。
 スチール弦は、倍音が出るが、強度は小さい。ガット弦は、第2倍音の強度のみが大きい。
 クモの糸では、すべての倍音が比較的大きい。特に第8倍音、第9倍音が大きい。
 
●断面(p81)
 クモの弦の断面は、1本1本の糸の断面が円形から多角形へと大幅に変形。糸と糸の隙間がなくなっている。繊維間の摩擦が大幅にアップし、隙間の多い通常の繊維集合体に比べて弾性率(変形しにくさ)が大幅に上昇。一部の細い繊維が切れても、残りの繊維で支えることができるので、弦そのものが切れにくくなる。
 
(2017/7/22)KG
 
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進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来
 [自然科学]

進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来

マット・リドレー/著 大田直子/訳 鍛原多惠子/訳 柴田裕之/訳 吉田三知世/訳
出版社名:早川書房
出版年月:2016年9月
ISBNコード:978-4-15-209637-1
税込価格:2,916円
頁数・縦:454p・20cm
 
 進化論は、人間の、いや生物の、宇宙のすべての現象を説明することができる原理である、という説の立証。
 
【目次】
プロローグ 一般進化理論
第1章 宇宙の進化
第2章 道徳の進化
第3章 生物の進化
第4章 遺伝子の進化
第5章 文化の進化
第6章 経済の進化
第7章 テクノロジーの進化
第8章 心の進化
第9章 人格の進化
第10章 教育の進化
第11章 人口の進化
第12章 リーダーシップの進化
第13章 政府の進化
第14章 宗教の進化
第15章 通貨の進化
第16章 インターネットの進化
エピローグ 未来の進化
 
【著者】
リドレー,マット (Ridley, Matt)
 サイエンス・ライター。1958年、英国ノーサンバーランド生まれ。オックスフォード大学モードリン・カレッジを首席で卒業後、同大で博士号(動物学)を取得。その後“エコノミスト”誌の科学記者を経て、英国国際生命センター所長、コールド・スプリング・ハーバー研究所客員教授を歴任。英国王立文芸協会フェロー、オックスフォード大学モードリン・カレッジ名誉フェロー。
 
大田 直子 (オオタ ナオコ)
 翻訳家。東京大学文学部社会心理学科卒。
 
鍛原 多惠子 (カジハラ タエコ)
 翻訳家。米国フロリダ州ニューカレッジ卒業(哲学・人類学専攻)。
 
柴田 裕之 (シバタ ヤスシ)
 翻訳家。1959年生。早稲田大学・Earlham College卒業。
 
吉田 三知世 (ヨシダ ミチヨ)
 英日・日英の翻訳業。京都大学理学部物理系卒業。
 
【抜書】
●ソヴィエト=ハーヴァード幻想(p14)
 (訳注)科学的知識を適用できる範囲を過大に見積もる、往々にしてトップダウン的思考法のこと。
 ナシーム・タレブ……この幻想は、鳥に対して飛翔の講義を行い、その講義のおかげで鳥が空を飛ぶ技能を獲得したと考えること。
 
●スカイフック(p19)
 空から物体を吊るしているという、架空の装置。
 第一次世界大戦のさなか、同じところに1時間とどまれと命じられた偵察機のパイロットが、ムカついて皮肉を込めて返した言葉の中で使われた。「本機はスカイフックに吊るされてなどいない」。
 哲学者のダニエル・デネットは、生物は知性ある設計者が存在する証拠だという主張の比喩に「スカイフック」という言葉を当てた。スカイフックの対極にあるのが「クレーン」。
 スカイフック……解決法、説明、計画を高いところからこの世界に押しつける。
 クレーン……解決、説明、パターンが地面から上に向かって出現するのを助ける。自然淘汰はクレーン。
 〔西洋思想の歴史は、世界を設計や計画の産物として説明するスカイフック装置であふれている。〕
 
●ルクレティウス(p20)
 エピクロス、BC341年生まれ。物理的世界、生物世界、人間社会、そして倫理も、すべて自然に起こった現象で、神の介入も温和な君主も過保護国家(訳注:いわゆる「福祉国家」の蔑称)もなしに説明できると考えた。エピクロスは、先人のギリシャ哲学者デモクリトスに倣い、世界は、霊や体液(フモール)などではなく、空虚と原子という2種類のものだけからなると考えた。原子は自然の法則に従う。あらゆる現象は、自然な原因の結果である。
 エピクロスの書いたものは失われたが、300年後、ローマの詩人ティトゥス・ルクレティウス・カルス(BC49年ごろに没)が、長大で未完の詩『物の本質について』のなかでエピクロスの思想をよみがえらせ、詳しく記した。
 ルクレティウスの詩は、魔術、神秘主義、迷信、宗教、そして神話のすべてを拒絶し、純粋な経験主義を貫く。
 
●ルクレティウス的逸脱(p29)
 ルクレティウスは、予測可能な運動しかしない原子からなる世界の中では、どう見ても人間には備わっていると思われる自由意志という能力について説明できなかった。これを説明するために、ご都合主義的に「原子たちは時折予想外に逸脱した(スワープ)振る舞いをするに違いない。なぜなら、そのようなことができるように神が原子を作られたから」と述べた。 ⇒ ルクレティウス的逸脱。
 〔ある思索家が、自分がどうにも理解できないことを説明するために、逸脱して行き当たりばったりにスカイフックを仮定する行為をすべて「逸脱(スワープ)」と呼ぶことにする。〕
 
●蝶の羽ばたき(p35)
 気象学者のエドワード・ローレンツが、初期条件に極めて敏感な系である気象系は予測不可能だと気づき、1972年の講演のタイトルで、「ブラジルの蝶の羽ばたきはテキサスに竜巻を起こすか?」と問いかけた。
 
●政治と商業(p50)
 人間社会で次第に暴力が減少し、上品になった理由。スティーヴン・ピンカー『暴力の人類史』で、ノルベルト・エリアスが1939年に発表した説に目を向ける。
 政治が次第に中央集権化し、各地の軍事指導者から国王と宮廷に政治の中心が移ると、人々は戦士よりは廷臣のように振る舞わざるを得なくなった。その結果、暴力が減り、みな上品になった。私的復讐によって正すべき不正行為とされていた殺人は、罰するべき犯罪として、国家に処理が委ねられた。
 商業が盛んになり、見ず知らずの人との間での金銭に基づくやり取りが増えるにつれ、人々は次第に周囲の人間を、餌食の候補ではなく取引のパートナーの候補と考えるようなってきた。店主を殺すことなど論外。共感や自制、道徳が第二の天性となった。
 
●エンペドクレス(p79)
 エンペドクレス、BC490年頃にシチリアに生まれた哲学者。自然淘汰に関する言及あり。ルクレティウスも、エンペドクレスからこの考えを受け継いだ。
 生き延びる動物が「自然発生的に適宜組織化されるのに対して、そうした適切なつくられ方をしなかった動物は消滅して二度と復活することがない」。
 しかし、あまり重要だと思わなかったのか、彼はこの考えをさらに追究することはなかった。
 
●単婚とキリスト教(p123)
 単婚の復活が、キリスト教の大きな柱だった。
 キリストは、結婚とは二つの魂が一つの「肉体」になる神聖な状態だと考えたとされる。
 古代末期に単婚が復活して喜んだのは、夫を独占できるようになった上層の女性、そしてセックスが可能になった大勢の下層の男性だった。初期キリスト教が広く普及したのは、これら底辺の男性の心を動かしたことが大きい。
 
●友愛組合(p156)
 イギリスで、19世紀末から20世紀初頭にかけて、友愛組合が普及した。1910までに、手工業労働者の四分の三が組合員になっていた。
 友愛組合……小規模な地域の労働者組合。組合員のために健康保険に入り、医者や病院による治療を取り決める。いい仕事をしない医者は外されるので、患者に直接責任を負っていた。医者同士の競争のおかげで給料は適度に抑えられたが、それでも高給取りだった。労働者にとっては、直接では手が出ないような高価な治療も利用できるので心強い。自発的かつ組織的に出現し、会員数は15年で倍増した。
 国家抜きの社会主義制度。
 コンバインと呼ばれる民間の保険会社で組織されたカルテルは、友愛組合を敵視した。
 医者の組合であるイギリス医師会も同様。高慢な医者たちは、価格競争を強いられたり、労働者組合の意のままになるのを嫌がった。
 友愛組合反対派が、財務大臣のデイヴィッド・ロイド・ジョージに働きかけ、「国民保険」制度を導入させることに成功した。ロイド・ジョージは、税収を使って医者の最低賃金を倍にし、富を貧しい労働者から裕福な医者に移転させた。
 診療費が高額になったため、友愛組合の制度が弱体化し始める。
 1948年には医療産業が国有化され、国家がすべての医療を提供するようになり、医療は無料で受けられるようになる。
 アダム・スミス「同業者が集まると、楽しみと気晴らしのための集まりであっても、最後にはまず確実に社会に対する陰謀、つまり価格を引き上げる策略の話になるものだ」。
 
●ムーアの法則(p166)
 1965年、コンピュータの専門家ゴードン・ムーアが発見した。
 〔一枚のシリコンチップの上の「組み込まれた機能ごとの部品数」が時間によってどう変化するかを表す小さなグラフを描いた。データ点はたった五つしかなかったが、彼はそこから、一枚のチップ上のトランジスタの数は十八カ月ごとに倍増しているようだと導き出した。〕
 アメリカの発明家で人工知能研究の第一人者レイ・カーツワイルは、「ムーアの法則」がシリコンチップが存在する以前から成り立っていることを発見。コンピュータの能力を、今とは異なる技術が使われていた20世紀初頭にまで外挿。100ポンドで買える計算能力は100年にわたって、二年ごとに倍増してきた。
 
●ハイパーリンク(p175)
 インターネットのハイパーリンクの数は、2010年までに脳のシナプスの数とほぼ同じになった。
 現在、インターネット内で行われている呟きのうちかなりの割合が、人間ではなくいろいろな装置から発せられている。
 インターネットを停止させることは、事実上不可能な状況になっている。
 
●特許(p178)
 特許とは、もともと発明者に報酬として独占的な利益を与えるためのものではなく、彼らが発明を人々と共有するよう奨励するためのものだった。
 アイディアを共有するという目的と同じくらい、独占を擁護してライバルたちを抑止する目的を重視している。このことが、発明を阻止している。
 
●クルアーン(p342)
 ムハンマドの経歴については、630年代にキリスト教徒があるサラセン人預言者についてごく短く触れている以外、存命中には何も書かれていない。詳細な伝記はみな、死後200年が過ぎてから書かれた。
 クルアーンには、膨大な量のキリスト教とユダヤ教とゾロアスター教の伝承が含まれている。新約聖書よりも頻繁に、聖母マリアに言及している。死海文書に見られるいくつかの概念にも触れている。
 クルアーンの記述は、パレスチナの周辺やヨルダン川流域につながるものが多い。部族名、土地柄、アラビアの砂漠には見つからない家畜やオリーブ、その他の動植物など。
 クルアーンの舞台は、ローマ帝国の領域のすぐ外にあるアラビア北部。追放されたユダヤ教徒とキリスト教徒の異端説の温床で、ペルシアのゾロアスター教と混じり合ったものもいくつかあった。アラビア半島の中央に結び付くものは何もない。
〔 奇跡を受け入れない人間にとってはむしろ、クルアーンは七世紀の新しい文書ではなく、古い文書の編纂書であることがほぼ確実であるように思える。それは、多くの小川が流れ込む湖のようなもので、何世紀にもわたる一神教の融合と議論から現れ出てきた一つの芸術作品であり、古代ローマとササン朝ペルシアの勢力を押しのけ、拡大しつつある、新たに統合されたアラビア人の帝国で、一人の預言者の手によって最終的な形を取ったのだ。トム・ホランドの生々しい言葉を借りれば、古代の首を刎ねたギロチンではなく、むしろ古代の苗床から咲いた花、ということになる。クルアーンには、ローマ帝国のプロパガンダの断片や、キリスト教の聖人の物語、グノーシス派の福音書、古代ユダヤの書物の一部が含まれている。〕
 
●ドル化(p376)
 パナマ、エクアドル、エルサルバドルの三国は、自国の通貨に米ドルを使うことにした。経済を「ドル化」した。
 米連邦準備銀行がこの三か国の銀行を救済する可能性はないので、最後の貸し手がいないことになる。
 しかし、その結果は良好。モラルハザードがなくなり、ドル化した三か国の銀行は慎重に振る舞っているので、パナマの銀行は非常に安定しているとみなされるようなった。
 最後の貸し手がいないことが、「制度の回復と安定性に貢献している」と国際通貨基金(IMF)が明言している。
 
●Mペサ(p388)
 ケニアでは、携帯電話の通話時間ポイントを一種の通貨としてメールで互いに融通し合うようになった。 ⇒ Mペサ
 サファリコムやボーダフォンのような通信会社が、ユーザーに便利な仕組みにした。携帯電話に振り込んだり、代理店経由で引き出したり、携帯電話同士で送金したりすることができる。
 ケニア人の三分の二がMペサを通貨として使っている。GDPの40%以上が、この通貨で流れている。
 成功の主な要因は、規制機関が閉め出されていて、システムが進化するにまかされていること。
 
●ドルイド(p365)
 1787年、トマス・ウィリアムズは、ウェールズ北西部アングルシー島のパリス山にあった自分の採鉱所で銅貨を作り始める。 ⇒ ドルイド
 ドルイドは、ペニーと交換できる合法的な「代用貨幣(トークン)」。片面に頭巾をかぶって顎髭を生やしたドルイド(訳注:古代ケルト宗教の祭司、オークの賢者の意)の肖像をオークの葉の輪で囲んだ浅浮彫が施されていた。もう一方の面には、「PMC」(パリス・マイン・カンパニー) の文字と、周縁に「持参した人に1ペニーを支払うことを約束します」と銘が刻まれていた。盛り上がった縁の側面に「ロンドン、リヴァプール、またはアングルシーにて、要求に応じて」と記されていたので、この硬貨を偽造したり不正に削ったりするのが難しかった。
 工場主はドルイドで賃金を払うようになり、地元の店主もペニーの代わりに受け取った。完全な民間通貨の普及。
 1794年、64人の商人が初めて硬貨を発行。1797年、600トンを超えるトークンが流通していた。
 当時、イギリスではクローネやシリングの銀貨や、ペニーや半ペニーの銅貨が不足していた。王立造幣局は、18世紀のあいだ、貨幣の鋳造量を増やすことをこばんでいた。中国で銀の価値が高かったため、銀貨は溶かされて東方に出荷された。
 
(2017/7/4)KG
  
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理化学研究所 100年目の巨大研究機関
 [自然科学]

理化学研究所 100年目の巨大研究機関 (ブルーバックス)
 
山根一眞/著
出版社名:講談社(ブルーバックス B-2009)
出版年月:2017年3月
ISBNコード:978-4-06-502009-8
税込価格:1,015円
頁数・縦:238p・18cm
 
 
 2017年は、理化学研究所が設立100周年を迎えた。その歴史を振り返りつつ、最先端の研究現場をレポート。
 
【目次】
第1章 113番元素が誕生した日
第2章 ガラス板の史跡
第3章 加速器バザール
第4章 超光の標的
第5章 100京回の瞬き
第6章 スパコンありきの明日
第7章 生き物たちの宝物殿
第8章 入れ歯とハゲのイノベーション
第9章 遺伝子バトルの戦士
第10章 透明マントの作り方
第11章 空想を超える「物」
 
【著者】
山根 一眞 (ヤマネ カズマ)
 ノンフィクション作家。1947年東京都生まれ。獨協大学国際環境経済学科特任教授、宇宙航空研究開発機構(JAXA)客員、理化学研究所相談役、福井県文化顧問、日本生態系協会理事、NPO子ども・宇宙・未来の会(KU-MA)理事、3・11支援・大指復興アクション代表などを務める。
 
【抜書】
●高峰譲吉(p47)
 高峰譲吉(1854-1922)……理研設立の牽引役。工学・薬学博士。1890年(明治23年)渡米。消化剤のタカジアスターゼと、副腎髄質から分泌されるホルモンのアドレナリンの製造法の開発者。「日本が生んだ偉人の一人」。
 米国時代の経験から、「これからの世界は理化学工業の時代になる。日本が理化学工業によって国を興そうというのであれば、その基礎である理化学の研究所を設立する必要がある」と熱く説いた。
 当時の日本の工業は欧米の模倣で成り立っており、独創性に乏しかった。日本でも、欧米に負けない大規模な理化学の基礎研究所を作るべきだと訴えた。
 日本を代表する科学者たちと構想を煮詰め、実業家や三井、三菱などの財閥から資金を集め、さらに国庫から補助金を得る法整備もなされた。
 1917年(大正6年)3月20日、駒込に4万平方メートルの土地を得て、財団法人理化学研究所として発足。
 
●大河内正敏(p48)
 大河内正敏(1878-1952)……1921年、42歳の若さで理研研究員から所長に抜擢された造兵学者で貴族院議員。第一次大戦が終結、その戦後不況で資金難に直面。2本柱からなる大胆な理研改革を断行。
 (1)研究室制度……すべての研究員に同等の権限を与えて自由な研究ができるようにする。14の研究室が新設された。
 (2)研究成果の産業化……理研で生まれた特許や実用新案をもとにした企業を数多く設立し、特許実施料を収入源として研究費に充てる。成功例は、抗生物質ペニシリンとアルマイト。
 アルマイト……アルミニウムは空気に触れると薄い酸化膜が自然にできる。非常に薄く微細な穴がい開いているため(多孔質)、汚れや傷がつきやすい。鯨井恒太郎、瀬藤象二、宮田聰らのグループは、「実験の失敗」によって、無数の穴が開かない表面処理法を発明する。理研は、特許を関連業界に提供する一方、理研アルマイト工業を起業。弁当箱の素材として人気を集める。また、その技術は、印刷や機械工具、建材などでも欠かせないものとして、現在に至る。
 
●主任研究員制度(p58)
 大河内は、1922年、それまでの物理学部と化学部からなる制度を廃止、「主任研究員制度」を発足させる。今に至るまで続いている理研の伝統、主流。研究者が独立して自由に研究室を運営できるシステム。研究テーマを自由に選べ、予算や人事の裁量権も持つ。研究室は一代限り。新しい分野を常に開拓していこうという精神の表れ。
 
●仁科芳雄(p60)
 原子核物理学者の仁科芳雄(1890-1951)は、1937年と1944年、2台のサイクロトロンを完成させた。
 岡山県出身、東京帝国大学の電気工学科を卒業、理研に入ったのち、英国、ドイツに留学し、最新の量子力学などを学ぶ。さらに、デンマークの原子物理学者ニールス・ボーア(1885-1962年。1929年にノーベル物理学賞受賞)の研究室で5年間を過ごした。
 敗戦により、2台のサイクロトロンは「原子爆弾製造施設」と誤認され、GHQによって解体・廃棄させられる。
 
●株式会社科学研究所(p63)
 1946年、仁科が所長に就任。GHQによる「過度経済力集中排除」、いわゆる財閥解体指令により、解散させられる。しかし、仁科の尽力により、「株式会社科学研究所」として生き延びる。事業の柱は医薬品。ペニシリンやストレプトマイシンの製造販売などを行う。かつて不治の病だった結核は、ストレプトマイシンの登場によって治る病となった。
 1958年、特殊法人理化学研究所が設立、戦前の理研を引き継いで再スタート。初代理事長は、長岡半太郎の子息である長岡治男。歴代の所長、理事長で、唯一事務系出身。三井不動産の常務取締役などを歴任したビジネスマン。
 
●特定国立研究開発法人(p70)
 2015年4月、松本紘(ひろし:宇宙科学工学者、元京都大学総長)が理事長に就任、全く新しい組織として再発足する。物質・材料研究機構、産業技術総合研究所とともに、「特定国立研究開発法人による研究開発等の促進に関する特別措置法」により、2016年10月、「特別国立研究開発法人」となる。
 
(2017/6/3)KG
 
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ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
 [自然科学]

ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
 
パット・シップマン/著 河合信和/監訳 柴田譲治/訳
出版社名:原書房
出版年月:2015年12月
ISBNコード:978-4-562-05259-2
税込価格:2,592円
頁数・縦:289p・20cm
 
 
 さまざまな分野の研究成果を引用し、犬の家畜化がネアンデルタール人の絶滅に影響したとの仮説を展開する。
 
【目次】
第1章 わたしたちは「侵入」した
第2章 出発
第3章 年代測定を疑え
第4章 侵入の勝利者は誰か
第5章 仮説を検証する
第6章 食物をめぐる競争
第7章 「侵入」とはなにか
第8章 消滅
第9章 捕食者
第10章 競争
第11章 マンモスの骨は語る
第12章 イヌを相棒にする
第13章 なぜイヌなのか?
第14章 オオカミはいつオオカミでなくなったのか?
第15章 なぜ生き残り、なぜ絶滅したか
 
【著者】
シップマン,パット (Shipman, Pat)
 ペンシルヴァニア州立大学名誉教授。古人類学の専門家。著書に『人類進化の空白を探る』(ローヌ・プーラン科学図書賞受賞/アラン・ウォーカーとの共著/河合信和訳/朝日新聞社)ほか多数あり。
 
河合 信和 (カワイ ノブカズ)
 1947年、千葉県生まれ。1971年、北海道大学卒業。同年、朝日新聞社入社。2007年、定年退職。進化人類学を主な専門とする科学ジャーナリスト。旧石器考古学や民族学、生物学全般にも関心を持つ。
 
柴田 譲治 (シバタ ジョウジ)
 1957年生まれ、神奈川県出身。翻訳業。
 
【抜書】
●最小存続可能個体数(p20)
 哺乳類の最も小さな個体群(最小存続可能個体数:MVP)は1,000個体と考えられている。
 1,000個体以下になると、近親交配のせいで遺伝的多様性が消失し、有害な突然変異が高頻度で生じるようになる。
 また、小規模集団は大きな集団よりもハリケーンや伝染病、干ばついった偶発的な事象に対しても脆弱になる。
 MVPは、約100年後に95%の確率で生存していることを条件に定義されている。
 
●K戦略種(p81)
 生物の繁殖に関する戦略。「K」は、環境収容力を示す数式記号Kにちなんでいる。
 出産間隔が長くゆっくりと繁殖し、一度に生まれる子の数も少なく、未熟なまま生まれるため、親による手厚い世話が欠かせない。
 誕生時から「学習」が重要になる。
 肉食動物や類人猿にしばしばK戦略種が存在し、資源に制約がある場合、K戦略種は強力な競争相手となる。
 
●r戦略種(p82)
 個体数の成長速度の記号rにちなんだ名称。
 多くの子を産み、急速に繁殖し、子どもは大人と同じように動き、食べ、コミュニケーションをとり、行動する。ヌーは、誕生後数分で走り出し、乳を飲むようになる。
 
●グレイザー、ブラウザ―(p83)
 草食動物の3分類。
 (1)グレイザー……草を食べる種。
 (2)ブラウザー……木の葉を食べる種。
 (3)果実食種。
 
●ギルド(p84)
 〔生態学者はよく「同じギルドに属するふたつの種は競争する」といった言い回しをする。〕
 大型捕食者のギルド、グレイザーのギルド、ブラウザーのギルド、etc。
 
●ネアンデルタール人の食事(p87)
 マックスプランク進化人類学研究所のマイケル・リチャーズと、ワシントン大学のエリク・トリンカウスの研究。13件のネアンデルタール人の同位体分析。約12万年前~3万7000年前(未較正)の骨。
 成人ネアンデルタール人の食事に含まれるたんぱく質は、すべて、主に大型陸上哺乳類のものだった。遺跡付近に生息していたノウマ、アメリカアカシカ、トナカイ、オーロックスなど。
 同地域の頂点捕食者ホラアナライオン、オオカミ、ハイエナと非常によく似ていた。
 長い生存期間中、非常に安定した食習慣を維持し、自らが位置する栄養段階に適応していた。
 ネアンデルタール人が海洋性の食物を多く食べていた証拠は見つかっていない。
 現生人類も大型陸上動物を食べていたが、食物の内容はネアンデルタール人よりずっと多彩だった。
 
●体重と獲物(p148)
 捕食者の体重と獲物の動物の大きさの関係は、哺乳類では一定している。
 ・体重21.5kg以下の肉食動物は、主に自分の体重の45%以下の獲物を主食とする。
 ・体重21.5kg以上の肉食動物は、主に自分の体重の45%以上の獲物を食べる。概ね50kgの哺乳類捕食動物は、約59kgの獲物に狙いを定める。
 この体重による分類は、139種の肉食動物の92.1%にあてはまる。
 ・小型肉食動物の四分の三は雑食で、脊椎動物の肉だけでなく昆虫や植物も食べる。大型肉食動物の半数以上は、脊椎動物しか食べない。例外は、雑食のクマとその近縁種。
 
●毛皮(p170)
 グラヴェット期のマンモス骨が大量に出土する遺跡から、大量のオオカミの骨、ホッキョクギツネやノウサギなどの骨も見つかる。これらは厚い毛皮を持つ動物で、このころ現生人類の祖先は毛皮を利用していた。骨製の針に穴を空けて毛皮の縫い合わせをしていた。衣服を作り、敷物を作って暖かく寝ていた。
 
●家畜化(p256)
〔 5万年前から今日に至るまで、現生人類が圧倒的な侵入者となり得たのは、家畜化という前例のない他種との連帯形成能力が要因のひとつだったと私は考えている。私たちはオオカミを家畜化してイヌを生み出し、ずっとあとには野生ムフロンをヤギにし、オーロックスをウシに、リビアネコをイエネコに、さらにウマを高速輸送システムに変えた。わたしたちは他の種の形質を借り受ける能力を独自で生み出し、それらを利用して地球上のどんな生息地でも生き残れる能力を身に着けた。〕
 
●ネアンデルタール人の絶滅(p257)
〔 気候変動と新たな能力を身につけた現生人類の到着が重なりその影響が同時に作用したこと、それがネアンデルタール人絶滅の原因だと私は考えている。〕
〔 ネアンデルタール人の食生活や石器が絶滅前の数十万年間まったく変わっていなかったことを考えれば、ネアンデルタール人は自らの独自世界にこだわり、新たな技術を開発することにも生活様式を変えることにも積極的ではなかったらしい。現生人類と他の頂点捕食者(オオカミイヌ)との他に類を見ない連帯は、ネアンデルタール人と他の多くの捕食者の生存を不可能とする最終戦略となったのかもしれない。気候変動に新たな激しいギルド内競争が組み合わさったことが、ネアンデルタール人らに重大な困難をもたらしたのだ。考古学的また古生物学的記録からみえてくる状況は、頂点捕食者の出現による典型的な栄養カスケードにそっくりだ。この栄養カスケードが起きたからこそ、気候変動によって他のすべての種の間の相互関係が変化することになったのではないだろうか。〕
 
(2017/5/21)KG
 
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ヒトの起源を探して 言語能力と認知能力が現生人類を誕生させた
 [自然科学]

ヒトの起源を探して: 言語能力と認知能力が現代人類を誕生させた
 
イアン・タッターソル/著 河合信和/監訳 大槻敦子/訳
出版社名:原書房
出版年月:2016年8月
ISBNコード:978-4-562-05342-1
税込価格:3,240円
頁数・縦:365p・20cm
 
 
 人類学の教科書的な内容。化石人類の歴史を辿り、現生人類誕生のなぞに迫る。
 
【目次】
ヒトの太古の起源
二足歩行の類人猿の繁栄
初期のヒト科の生活様式と内面世界
多様なアウストラロピテクス類
闊歩するヒト
サバンナの生活
アフリカを出て、舞い戻る
世界に広がった最初のヒト
氷河時代と最初のヨーロッパ人
ネアンデルタール人とはだれなのか?
新旧の人類
謎に満ちた出現
象徴化行動の起源
初めに言葉ありき
 
【著者】
タッターソル,イアン (Tattersall, Ian)
 アメリカ自然史博物館人類学部門名誉学芸員。ケンブリッジ大学で考古学と人類学、イェール大学で地質学と脊椎動物の古生物学を学び、これまでにマダガスカル、ベトナムなどの世界各国で霊長類学と古生物学の調査を実施。ヒトの化石や進化、認知機能の起源、マダガスカルのキツネザルの生態研究を主な研究テーマとする。
 
河合 信和 (カワイ ノブカズ)
 1947年、千葉県生まれ。1971年、北海道大学卒業。同年、朝日新聞社入社。2007年、定年退職。進化人類学を主な専門とする科学ジャーナリスト。旧石器考古学や民族学、生物学全般にも関心を持つ。
 
大槻 敦子 (オオツキ アツコ)
 慶應義塾大学卒。
 
【抜書】
●トゥーマイ(p31)
 サヘラントロプス・チャデンシス。最古のヒト科で最古の時代のもの。約700万年前?
 2001年、アフリカ中西部のチャドで発見された。大地溝帯のかなり西方。
 ひどくつぶれた頭蓋といくつかの部分的な下顎骨。類人猿のような小さな脳頭蓋と、類人猿ともヒトとも似ていない大きな平たい顔。
 ヒト科に分類された理由……①臼歯にほどほどに厚いエナメル質があり、犬歯は小さく(退縮した犬歯)、下の小臼歯が研ぐような仕組みがない。②大後頭孔(脊髄が頭骨から出る大きな穴)の位置が、顔面に対して頭蓋の下側に位置する、すなわた直立二足歩行の特徴が表れている。
 トゥーマイ……地元民の言葉で「命の希望」を意味する。
 
●アルディピテクス(p34)
 1994年、エチオピア北部のアワシュ川流域のアラミスの堆積岩から、440万年前のアルディピテクス・ラミダスの骨が発見された。
 頭蓋の容積は300~350ccで、チンバンジーと同程度。体の大きさも小型のチンバンジーと同じで、50kg程度。後頭孔がやや前方に移動。犬歯は、小臼歯が研ぐような仕組みがない。
 腕と手の骨は、樹上生活者のもの。
 520~580万年のアルディピテクス・カダッバと合わせて、ヒト科の初期の仲間と考えられる。
 
●運搬角(p51)
 上腿と下腿の骨の骨幹に見られる角度。大腿骨は、膝に向かって内側に斜めに傾斜しているが、体の重さは脛骨と足首を通って足へと真っすぐ下方へかかっている。この形状のため、歩いたり走ったりする時には両足がすぐ近くを通り、体重が片足からもう一方の足へと移るときに重心が左右に移動しなくて済む。
 
●ルーシー(p58)
 アウストラロピテクス・アファレンシス。1974年、エチオピア北東部のハダールで発見される。
 約318万年前。 比較的完全な、約40%の骨格。運搬角が見られる。
 身長1mちょっと、体重27kgほどと推定。
 足が長く、木登りにも適応していた。
 
●ディキカ(p71)
 エチオピア、ハダールからアワシュ川を渡った南。保存状態の良い、330万年前の3歳の幼児個体の骨格の一部が発見された。アウストラロピテクス・アファレンシス。「セラム(平和)」と名付けられた。
 さらに、340万年前の地層から、石器によってしか付けることのできない傷の付いた、哺乳類の骨のかけらが4つ出土した。現在知られている石器は、アワシュ川流域のそれほど遠くない場所で発見された、260万年前のもの。
 
●オルドヴァイ(p121)
 1959年、ルイス&メアリー・リーキーは、タンザニアのオルドヴァイ峡谷で「超頑丈な」アウストラロピテクスの頭蓋の化石を発見し、「ジンジャントロプス」と名付けた。かつて東アフリカ沿岸一帯を支配した「ザンジ」帝国にちなんだ命名。現在は、リーキーの研究の後援者の名を取って、「パラントロプス・ボイセイ」種に分類されている。180万年前のものと判明。
 平坦で強大な臼歯が、小さな切歯と犬歯を完全に圧倒していることから、親しみを込めて「くるみ割り人形」と呼ばれている。
 リーキー夫妻は、オルドヴァイ峡谷で原始的な石器を多数発見した。
 
●トゥルカナ・ボーイ(p142)
 1984年、ケニアのトゥルカナ湖の西側で発見される。正式にはKNM-WT15000。160万年前、ホモ・エルガステル。
 年齢8歳、身長約160cm、体重68kgほど。成長すれば、185cmくらいになった? 一説で180cm以下。
 首から下は、現生人類とさほど変わらない。樹上の隠れ場所から離れて、開けたサバンナを闊歩することに順応したヒト科。
 ホモ・エルガステル……「働く人」という意味。早期アフリカ型ホモ属。サピエンスの直接の祖先?
 
●脊柱の幅(p158)
 脊柱は、上体を支えるだけでなく脳から下へと脊髄を通しており、その脊髄から伸びる神経網を介して体の残りの部分を制御したり、そこから情報を受けたりしている。
 脊髄の通る管の幅は、ヒト科を含むすべての霊長目でほぼ同じ。しかし、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、脊髄が通る管の幅が、肺のある胸部で異常に広くなっている。胸郭と腹壁の筋肉に繋がる増加した神経組織を収容している。その神経は、呼吸のコントロールを強化するためのもの。発話に用いる音の微妙な調節に必要な細かい制御を行う。
 
●オメガ3脂肪酸(p164)
 ホモ・エルガステルが、脳を大きくするために用いたエネルギーは、動物性蛋白質と脂肪。魚釣りによって、そのエネルギーを確保していたのかもしれない。
 水生動物は、脳が正常に機能するために重要なオメガ3脂肪酸などを豊富に含む。
 オメガ3脂肪酸などは、類人猿の小さな脳を維持するくらいの限られた量であれば、体内で生成される。しかし、大きくなった脳に必要な量は、食生活で補うしかない。
 過去200万年ほどの間にヒト科の脳が大きくなるにあたっては、魚など水中に棲む動物の摂取が一つの前提条件になったのかもしれない。
 
●シラミ(p167)
 ほとんどの哺乳動物には、1種類のシラミしか寄生しない。しかし、ヒトには、2種類が寄生している。
 頭髪に棲むアタマジラミと、陰毛に棲むケジラミ。アタマジラミは人間に固有で、体毛に覆われていた頃から体中にいたものの名残。ケジラミはゴリラから移った。
 ヒトとゴリラのケジラミの分岐は、300万~400万年前。そのころから、ヒトは体毛を失っていた? アウストラロピテクス・アファレンシスの時代?
 
●順応(p176)
 〔私たちは一般に時として劇的に変動する世界で、変わりゆく外部の環境にいつも柔軟に対応し続けることで特殊化する危険を避けてきた。ヒトは主として変化に適応してきたのではなく、むしろ順応してきたのである。〕
 
●パナマ地峡(p212)
 300万年前、北アメリカと南アメリカが衝突してパナマ地峡ができた。
 温かい太平洋の水が大西洋へと循環しなくなり、アフリカで冷却と乾燥が加速、北極圏で氷冠の形成が始まった。
 アフリカで、草原に適応した草食哺乳類が激増し、それよりも古い、主に木の葉を食べる種類が姿を消した。
 その時代の動物相の変化に示される環境の移り変わりが、ホモ属が誕生するための最も重要な刺激になった、と考える研究者もいる。
 
●MIS(p218)
 古気候学者は、更新世の開始以降に102の異なる「海洋酸素同位体ステージ(MIS)」を特定し、最新のものから順に番号を割り振った。そのため、温暖なステージには奇数が、寒冷なステージには偶数が当てられている。
 現在は暖かいMIS1、最後の氷河期はMIS2。ステージ5は、さらにa、b、c、d、eに分けられ、最古の5eは、非常に温暖だったため、海面は現在より5、6メートルも高かった。
 前期更新世は、気温の変動が頻繁だったが、それほど顕著ではなかった。現代に近づくにつれ、変動の間隔は広がり、差異は大きくなっている。
 
●ホモ・アンテセソール(p219)
 スペイン北部のアタプエルカ山地にあるシマ・デル・エレファンテの遺跡で、120万年前のホモ属の下顎が発見された。同じアタプエルカのグラン・ドリナ遺跡で見つかった78万年前のヒトの化石とともに、「ホモ・アンテセソール」に分類された。二つの遺跡の粗雑な石器には大きな違いがない。
 ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の共通の祖先であるかどうかは不明。
 グラン・ドリナの骨には、カニバリズムの証拠が残されている。石器を使って、他の草食獣と同じように処理されていた。
 
●ネアンデルタール人(p243)
 ネアンデルタール人の骨の窒素15/窒素14の比率の分析によると、その値はオオカミ、ライオン、ハイエナと同等のレベルだった。食性に占める肉の割合が多いことを示している。
 サン・セゼールの遺跡の後期のネアンデルタール人は、同じ遺跡のハイエナよりも高い。マンモスとケブカサイを狩っていた可能性が高い。
 
●エル・シドロン(p246)
 エル・シドロンにある5万年前のネアンデルタール人の遺跡。成体6、青年期3、少年期2、幼児1の計12体の壊れた遺骨に、カニバリズムの証拠。歯のエナメル質減形成という環境ストレスの形跡があり、食生活は厳しかった。「美食としてのカニバリズム」ではなく、「生き残るためのカニバリズム」だったと推定される。12体は、一つの社会集団で、他の集団に襲撃され、食べられた。
 mtDNA分析の結果、3個体の成人男性は同じmtDNA系統、女性はそれぞれ異なる系統。つまり、男性は生まれた集団に残り、女性は離れる。
 
●ムスティエ文化(p251)
 調整された石核を作る石器づくりの技法の一種。ネアンデルタール人の石器文化。予想通りにきれいに割れる石材の調達が重要だった。
 もっとも特徴的な石器は、程よい大きさの尖頭器と、両側縁が凸上のスクレイパー、剥片で作られたタイプの涙滴型のハンドアックス。
 
●シャテルペロン文化(p259)
 フランス西部とスペイン北部に点在して見つかる石器。ムスティエ文化とオーリニャック文化の両方の特徴を兼ね備えている。3万6000~2万9000年前。
 オーリニヤック文化……上部旧石器時代の最初の文化。
 ムスティエ文化の「剥片」の石器だけでなく、骨や象牙で作られた道具と並んで、オーリニャック文化の石器の主な特徴である「石刃」も見られる。石刃は、長さが幅の2倍ほどある細長い剥片。クロマニヨン人を代表する石器。
 ※著者は、シャテルペロン文化がネアンデルタール人のものと示唆しているが、「監訳者あとがき」では、最近の研究により、早期現生人類のものとされる。(p328)
 
●珪質礫岩(p285)
 南アフリカのピナクルポイント遺跡では、7万2000年前ごろ、石器にはあまり良質ではない珪質礫岩(シルクレート)を、適度に熱してから手の込んだ段階を経て冷やし、硬くする技術を開発していた。
 この技術はあまりに複雑で、あらかじめ計画を立てておかなければならない段階が数多く含まれる。原因と結果の長い連鎖を概念として捉えて心の中に描くことのできる精神が必要。
 
●志向性(p301)
 心の理論。
 ヒトは、類人猿にはないような種類の向社会性――他者への配慮――ばかりでなく、一歩距離を置いた傍観者のような社会性という特徴も併せ持つ特殊な社会性を示す。
 ヒトは、自分が考えていることが分かっており(一次志向性)、他者が考えていることを推測でき(二次志向性)、自分以外の人間が第三者について考えていることを想像することができる(三次志向性)。
 ヒトは、六次の志向性までは何とかなるが、そこから先は頭が混乱する。
 
●連続創始者効果(p304)
 祖先となる集団内に子孫となる集団が芽生えて離れていくたびに、その個体群のサイズが小さくなって生じる現象。子集団が増えるたびに、ボトルネック効果の影響で、遺伝子の多様性が失われていく。集団遺伝学者によく知られている事象。
 世界中の言語の音素の数にも、この法則が当てはまる。
 ニュージーランドの認知心理学者クエンティン・アトキンソンは、世界中の言語で音素の分布を調べた。その結果、アフリカから離れれば離れるほど、音素の数が少なくなる。
 アフリカのきわめて古い、舌打ちするような「吸着音(クリック)」言語のいくつかには、100個を超える音素がある。英語では45個、ハワイでは13個しかない。ハワイは、地球上で最後に人間が植民した土地の一つ。
 アトキンソンの分析では、収束点がアフリカ南西部にある。
 
●ネアンデルタール人、ホモ・フロレシエンシス(p327、河合)
 最近の放射性炭素年代測定法の較正値によると、ネアンデルタール人の絶滅は、2万6~7000年前ではなく、4万年前。ヨーロッパでの現生人類との共存期間は、5000年程度。
 4万5000年前ごろからムスティエ文化の遺跡は次第に細り、4万年前には消滅した。
 リャン・ブア洞窟で発見されたホモ・フロレシエンシスのLB1骨格の年代は、1万2000年前ではなく、10万~6万年前。新しく見積もっても5万年前。この時期、現生人類はまだオーストラリアに到達していない。現生人類と遭遇していない可能性が高い。
 
(2017/5/5)KG
 
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